Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェームズ・メイが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、BYD ドルフィンのレビューです。


Dolphin

電気自動車の台頭は、自動車評論家、自動車メディア、そしてパブでつまらない自動車論議をしている人々にとっては朗報となるだろう。「V12が奏でるシンフォニー」だの「ボルトアクションのように精緻な変速」などといった陳腐な表現に代わる、新しい話題を提供してくれるのだから。

"本物の"車に存在する魅力のほとんどは、電気自動車であっても健在だ。性能に関しては向上することさえある。車に詳しい読者しか興味を持たないかもしれないが、ハンドリングやグリップに関しても十分な性能を実現できる。

しかし、内燃機関の不完全さゆえに存在した個性は失われる。音、振動、そして駆動力を扱うために必要なテクニック。一方で、高級車にとってすら夢の世界であった快適性を手に入れることができる。「生クリームのように洗練されたエンジン」なんて表現も消えゆくことになる。電気自動車では静寂が必然になるのだから。

バッテリー技術や充電時間、充電インフラなど、いくつか懸念点は残されているものの、私は電動車が好きだ。そして私自身、テスラを所有している。電気自動車は、ごく一部の車好きは別として、大多数の、単に必要だから車を使っている人々にとっては合理的な選択肢だ。

しかし、最初に書いた文章とは矛盾してしまうのだが、私にとってはこれが問題点でもある。電動駆動には感情が動かされない。同じようなサイズ、同じような形状の2台の電気自動車を比較すると、正直言ってその違いはほとんどない。圧倒的な加速性能を有する電気自動車もあるし、一瞬の加速では快感を覚えるのだが、結局それは強力なモーターを積むかどうかの違いでしかない。

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ここまでの長文は、今回の主題であるドルフィンについて、大したことが書けないことに対する言い訳のようなものだ。この車は普通によくできている。

ドルフィンは中国の自動車メーカー、BYDが製造する標準的ファミリーカーだ。BYDとは”Build Your Dreams”の略だ。中央集権国家のスローガンのような不気味な響きの言葉だ。
「勤勉に働こう!」「幸福を手に入れよう!」「夢を築こう!」
それに、こういうアルファベット3文字を見るとついついネットスラングを思い出してしまう。

そのデザインは名前の通りイルカをモチーフとしているようだ。広報資料ではイルカが「知性豊かで友好的な海洋哺乳類」と説明されていた。正直あまりイルカには見えないよ、BTW。悪いデザインじゃないと思うけどね、IMO。ただ顔はちょっと間抜けだね、LOL。

これまでの私なら、このあたりでエンジンの選択肢について語っていたことだろう。この車には3種類のモーター(70kW、130kW、150kW)と2サイズのバッテリー(44.9kWh、60.4kWh)、4種類のグレードが設定される。私が試乗したのは31,695ポンドの最上級グレード「Design」だ。ベースグレードの「Active」は、ほぼ装備内容は同じながら、価格は26,195ポンドとなる。ただし、このグレードだと航続距離が短く、充電も遅い。ただ、自宅充電派ならこちらでも十分だろう。

ビルド・ユア・ドリームズ・ドルフィン・デザイン、略してBYDDDには十分な性能があり、高出力のモーターを搭載するためホットハッチにも比肩する。最高出力は204PSなのだが、モーター駆動による音を伴わない加速のおかげでスペック以上に速く感じる。最高速度はわずか160km/hなのだが、それで十分だろう。こんな車でサーキットに行く人間など存在しないのだから。

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航続距離はカタログ値426kmとそれほど長くはないが、電気自動車としては標準的だ。ただ実際の走行では、エコモードで穏やかに運転していたにもかかわらず、300kmを超えたあたりで雲行きが怪しくなった。

居心地に関しては概ね良好だった。乗り心地は良く、静粛性も高いし、室内空間は見た目から想像されるよりも広い。運転支援装備や走行モード、コネクティビティなど、さまざまな略語で表現される装備も充実している。カタログには27種類の略語が記載されていた。

物理ボタンやダイヤルもいくつか残されているものの、多くの操作は中央のタッチスクリーンで行う必要がある。面白い機能として、画面を横向きから縦向きに回転させることができる。ただし、この操作をする前にはディスプレイの下の小物入れに入れていたお菓子をちゃんと取り出しておく必要がある。

シート地はヴィーガンレザーだ。要するにビニールシートをポリコレ的に言い換えただけのものなのだが、持続可能なクリーンエネルギーを標榜する車に牛から剥ぎ取った素材を使うのも違うだろう。それ以外の内装素材は安っぽい光沢のあるプラスチックで構成されている。

BYDは今や世界最大のEVメーカーだ。中国車に忌避感を抱いている人もいるだろうが、EV信者御用達のテスラも中国で製造されている。

ドルフィンが良い車であることは間違いないのだが、退屈な車でもある。あくまでただの移動手段でしかない。けれど、ドルフィンはEVの中でもかなり安価だ。そして価格こそが普及において鍵となる。なのでドルフィンの未来は明るいだろう。我々自動車評論家の未来はそうとは限らないが。