Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、ホンダ・プレリュードのレビューです。


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昔は、2ドアクーペが欲しかったとしても(当時はほとんどの人がそう思っていた)選択肢はたくさん存在した。昔、車好きに「無限に金があったらどんな車に乗りたいか」というインタビューをしたことがある。フェラーリとかランボルギーニといった答えを期待していたのだが、ある男はこの質問にヴォクスホール・カリブラ ターボと答えた。

彼は本気だったし、そう答えた彼の気持ちも分かる。私もかつてフォルクスワーゲン・シロッコGLiやアルファ ロメオ GTV6を所有していたことがある。若い頃はフォード・カプリ3000GTや三菱 スタリオン、それにトヨタ・スープラに憧れたものだ。

多くの場合、当時のクーペは普通のセダンに2ドアのボディを被せただけの代物だった。カプリの中身はコーティナだったし、シロッコはゴルフだった。けれど、そんなことはどうでも良かった。見た目が良いだけでなく、リアシートが狭いため周りの人間(特に女性)に独身であること、それに実用性に縛られない男であることをアピールできた。クーペに乗るからこそ、何にも縛られない、女性にモテる男になれた。

ところがある日、状況が一変した。イギリスにおいて、トヨタはGR86の販売を終了し、日産もZの販売をやめてしまっている。客室乗務員御用達のアウディ TTも既に生産終了している。フォード・マスタングやBMW 2シリーズなど、わずかながら生き残っている車もあるが、実質的に、自分が子無しの自由人であることをアピールするためには、それを主張したTシャツを着るしかない。私ならそんなことはしたくない。

原因は分かっている。ヨーロッパ中の政府機関はこれまで、自動車の運転という行為が悪いことであるという印象操作を地道に続けてきた。イギリス政府は道路の劣化を放置し、地方自治体にロードプライシングを促し、制限速度を引き下げ、自動車税を引き上げ、さらに運転免許試験を合格不可能なほどに難化させた。

驚くべきことに、17歳から24歳の若者の約50%が普通自動車免許を保有していない。彼らは子供ができる頃に免許の取得を考えるようになるのだろうが、その頃に彼らが求めるのは中国製のミニバンか何かだろう。

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そんな状況でどうしてホンダが昔ながらの2ドアクーペである新型プレリュードを発売したのか、不思議に思っている人も多いだろう。思うに、世界の他の地域では、ヨーロッパほど車が迫害されているわけではないのだろう。それなら説明がつく。

しかし実際のところどうだろうか。スピードを愛するホンダファンは激怒していることだろう。彼らは、炎を吐き、爆音を響かせる2ドア版タイプRを求めていたはずだ。ところが出てきたのは、ディスコ衣装を身に纏ったシビックハイブリッドだった。まるで魅力的には思えない。

スペックも笑えるほどだ。2.0Lのエンジンと電気モーターを組み合わせても、システム出力はわずか200馬力程度だ。0-100km/h加速は8.2秒で、1980年に私が乗っていたシロッコよりも0.1秒遅く、最高速度はわずか188km/hだ。これより速い車はいくらでもある。

モーリス・マイナーを運転したことがある人なら分かるだろうが、車を楽しむために必ずしも大パワーが必要なわけではない。重要なのはシャシだ。ところが、プレリュードはそれも欠けている。前輪駆動で、セッティングは快適性重視となっており、そこに俊敏さはない。

しかも、この車にはCVTが搭載されており、ギアというものが存在しない。にもかかわらずシフトパドルが装備されており、パドルを操作するとスピーカーから変速を行ったかのような音が流れる。生クリームの代わりにコーヒーに入れる白い粉末と同じく、紛い物の車だ。

私は記事で、最近の車の警報音をオフにするのがいかに難しいのか何度も文句を言っている。ところがプレリュードではそもそも警報を切ることができない。歳のせいでまともに操作できなくなったかもしれないと思い、トップ・ギア誌のレビューを確認してみたのだが、そこにも不可能だと書かれていた。

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警報をオフにしようとしても数秒後にはメーター内に意味不明な記号が表示され、その後3回警報音が鳴った。何の警告なのかはさっぱり分からなかった。映画『スタートレック』作中、エンタープライズ号が崩壊する中、画面に「システム障害」と表示されていたのを覚えている。それを見た私は「何のシステムだよ」と思わずにはいられなかった。プレリュードもまさにそんな感じだ。

これまでの情報を総合すると、新型プレリュードには期待が持てそうにない。警報は鬱陶しく、遅く、存在しない市場をターゲットに開発されている。ただし、スピードを出すことに興味がなく、5秒ごとに警報が鳴っても気にならない人がいたら、この後の文章を読み進めてほしい。この車には良い点も存在する。

なにより、ホンダならではの定評ある信頼性の高さがある。故障の心配はほとんどないと言っていいだろう。また、エンジンは基本的に電気モーターを駆動するバッテリーを充電するために用いられるため、燃費は非常に優れている。17km/L以上は期待できる。それに価格は4万ポンド強と驚くほど安い。

しかし最も印象的だったのは快適性と静粛性の高さだった。路面の凹凸が吸収され、車内が静寂に包まれる中でふと思ったことがある。かつて、2ドアクーペは子供を持つ前の若者のための車だった。しかし、プレリュードは逆に、年老いて子供が巣立った人にぴったりだ。失われた青春を取り戻したいと考えている定年退職後の夫婦に最適の車だ。

今週、かかりつけの獣医が引退したのだが、彼はまだ元気で、残りの人生は妻と旅をしながら過ごしたいと言っていた。彼がアヌシー湖やローマ、バルセロナに旅をするのにぴったりなのがプレリュードだ。経済的で、信頼性が高く、しかも20代の頃を思い出させてくれる2ドアクーペだ。彼のような人たちを若返らせてくれると考えると、プレリュードも捨てたものではないかもしれない。