Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
車を選ぶのは難しいことではない。安全な車が欲しければボルボを買えばいい。スポーティな車が欲しければBMWを買えばいい。耐久性の高い車が欲しければメルセデスを買えばいい。では、苛立たしい車が欲ければどうすればいいだろうか。ありとあらゆる場面で警報音を鳴り響かせ、オーナーに嫌がらせをしてくる車が欲しいなら。そんな人にぴったりな車を見つけた。トヨタのbZ4Xだ。
bZ4Xの窓を開けると、メーターパネルに「窓を閉めますか?」と表示される。とんでもないお節介だ。乗り心地も最悪で、小石を踏むたびに振動が魂に直接響く。人を苛立たせるという点で秀でた車が必要なら、bZ4Xがおすすめだ。車名すらも苛立たしい。
これでbZ4Xのレビューは終わりだ。続いてフェラーリの新型車である12チリンドリの話に移ろう。イタリア語が分からない人のために説明すると、12チリンドリとは12気筒という意味だ。それは紛れもない事実だ。
無味乾燥な車名とは対照的に、デザインを語るときにはフェラーリは詩人になる。この車の場合それが顕著だ。
"クリーンなラインが車の全体像を支配し、シームレスに繋がり合ってボリュームを強調する。クリーンなボディサイドが二面角を構成し、後方に流れるように伸びていく。"
こんな表現が何ページにも渡って書かれているのだが、すべて芸術家気取りの戯言だ。「ちょっと変なデザイン」という表現で片付くし、それは必ずしも悪いことではない。
フェラーリは先日、イギリスへの輸出台数を削減すると発表した。富裕層がイギリス国外に脱出する傾向にあり、高級車の販売台数が低下しているらしい。その影響は中古車価格にも及んでおり、中古車価格を維持するために供給を絞るとのことだ。
フェラーリは自社製品の特別感を演出するために躍起になっている。マラネッロの夢を信じる顧客が求めるのは、他とはまったく違う車だ。その点において12チリンドリは成功を収めている。この車をアストンやランボルギーニと見間違えることなどありえない。
特異的なのは見た目だけではなく、大きさもだ。車に乗り込むと、前方には巨大なボンネットが広がっている。目線の遥か遠く先に、かすかに前輪を包み込む膨らみが見える。

フェラーリはデザインの一体感を謳っているのだが、フロント部分が巨大すぎて、眺めているうちにリアがどうなっていたのかなど忘れてしまう。運転中にも影響がある。最近の車らしく、障害物に近づくと警報音が鳴るのだが、これだけ大きい車なのでほとんど常時何かしらの障害物が近くに存在することになる。その結果、ほとんど常時警報が鳴ることになる。
厄介なのはそれだけではない。ワイパー、ライト、オーディオなど、ありとあらゆる操作系をステアリングの表と裏に集約すれば操作が煩わしくなることなど、フェラーリ自身も気付いているはずだ。それでもなおフェラーリがやめようとしないのは、やはり同じ理由だろう。目立つためだ。
では走りはどうだろうか。この点において、12チリンドリはずば抜けている。フロントに搭載されるエンジンのおかげだ。ターボなど付いていない。ハイブリッドでもない。剥き出しの、昔ながらの、純粋なるパワーだ。
まずは分かりやすく数字だけ羅列してみよう。最高速度340km/h。最高出力830PS。エンジンは9,500rpmまで回り、その音は内燃機関が絶頂を迎えたとしか言いようがない。ここでフェラーリの表現を引用してみよう。
"スライディング・フィンガーフォロワー式バルブトレインは、フェラーリがF1で培った比類なき経験が活かされている"
さらに続きを読むと、「ハイパフォーマンスなバルブ・リフト特性」についての記載があり、続けて「ダイヤモンド・ライク・カーボンコーティングを施したスチールで構成されるスライディング・フィンガーフォロワーは、油圧式タペットを回転軸として使い、カムの動きをバルブに伝える」と書かれている。
これこそがフェラーリの本質だ。フェラーリの本質とは、免税店で帽子を売ることでも、ポスターの題材となることでもない。フェラーリの核心はエンジニアだ。だからこそ、フェラーリは誰にも理解できないスライディング・フィンガーフォロワーについて語り尽くすのだ。

ともかく、このフィンガーフォロワーとやらから生み出される莫大なパワーを制御するために、シャシやらなにやらを管理する大量のソフトウェアが必要となる。それがなければ走り出した瞬間に目の前の木に突っ込んでしまうだろう。
走行モードを変更すればソフトの介入を抑えることはできるのだが、これはフロントエンジンの12気筒GTカーだ。凶暴な速さを発揮することもできはするのだが、それはこの車の本質ではない。コンフォートモードであれば非常に快適だし、怖さを感じることもない。昔の599 GTOと比べると大違いだ。
言うまでもなく、こんな車でパブに行くことはできない。そもそも駐車場に収まらない。とはいえ、ちょっとした遠出くらいであれば、普通のファミリーセダンと大差なく扱うことができる。
ふとセンターコンソールを見ると、4歳児が描いたとしか思えない絵が描かれた小さなボタンがある。興味本位でそれを押してみると、なんと屋根が格納されたではないか。驚いた。今回借りたのはクーペではなくコンバーチブルだったようだ。
これまで何度も語ってきたように、私はV12エンジンが好きではない。やたらに複雑だからだ。それに、コンバーチブルにやたら高性能なエンジンを載せる必要もないと考えている。そんなことをしても髪が滅茶苦茶になるだけだ。ただ、これは私の個人的な意見であり、そうでない人ならこの車を大いに気に入ることだろう。車の好みは十人十色なのだから。
ただ、この車を気に入った人も実際に買うことはないだろう。最低限の装備しか付いていない貧乏仕様ですら336,500ポンドもする。フル装備にすれば50万ポンドの大台に乗ってしまう。これは大した車だが、金額も大したものだ。
The Clarkson Review: Ferrari 12Cilindri — ‘I went weak at the knees’


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