Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、BYD SEAL 6 DM-i ツーリングのレビューです。


SEAL 6

中国の巨大自動車メーカー、BYDの最新モデルにまったく興味が湧かないのは言うまでもない。BYDという社名はBuild Your Dreamsという吐き気を催すような語の略だ。これは単なる全長5メートルの四輪車だ。サンフランシスコより広大な工場で製造され、タイヤ以外のすべての部品が自社製だそうだ。しかしそんな情報を聞いても興味を持つのは会計士くらいだろう。私は違う。

私は1週間この車を借りていたのだが、一言で説明するなら、「車の形をしていた」としか言えない。過去にも同じような経験をしたことがある。1970年代当時、ダットサンだのトヨタだのという、聞いたこともないような日本のメーカーが車の形をしたものを売り出した。どれもあまりに退屈で、我々は日本車を嘲笑した。

しかし、日本車には大きな強みがあった。フォードやオースティンと違い、車の形をした日本車はエンジンがまともに動いた。霜の降りた朝でさえ、その貧弱なエンジンは確実に始動した。それどころか故障することすらなかった。

多くの人にとっては、他の何よりもちゃんと動くことが重要だった。それまで、車のような複雑な機械が故障するのは必然だと信じてきた。けれど、ダットサンはそれが間違っていたことを証明した。その結果、多くの人が日本車を購入するようになった。

今ではどの車も信頼性が高くなったため、中国車が信頼性を売りに集客することはできない。なので中国車は別の戦略を取った。価格だ。特に近年では自動車に多くの技術が詰め込まれるようになったため、値段が高くなるのは必然だと考えていた。ところが、今回の主題である車は34,990ポンドと信じられないほど安価だ。これが大きなプラグインハイブリッド車であることを考慮すれば、コストパフォーマンスはとてつもなく高い。同車格のシュコダ・スペルブ エステートと比べると4,000ポンドも安い。

rear

この車の名前はSEAL 6だ。ウサーマ・ビン・ラーディンを殺した特殊部隊と同じ名前だ。どうして中国メーカーが中型ステーションワゴンにこの精鋭部隊の名前を付けたのかは分からない。おそらく気付かなかったのだろう。こういうことはよくある。かつてスイスの新興企業が車に「Growler」という名前を付けてしまったことがある。
(Growler: イギリスで女性器を意味するスラング)

そんな話はともかく、SEAL 6はどうしてこれほど安いのだろうか。少なくとも装備が削られているわけではない。シートやタッチスクリーンは普通に装備されているし、ドアミラーにスマートフォンをかざして鍵を開けることもできる。ただし、あらゆる部品にコストカットの痕跡が見て取れる。布地、シートのスプリング、走行中のロードノイズ。どれもヴォクスホール・ベクトラを彷彿とさせる微妙な完成度だ。しかしそれは1975年当時のダットサンも同じだった。

SEAL 6は遅い。ほとんどのプラグインハイブリッド車はエンジンとモーターの両方を駆動力として使うのだが、SEAL 6ではエンジンがほとんど発電用に使われている。アクセルを強く踏み込んだときにだけ、エンジンがモーターとともにタイヤを駆動する。

私が乗ったComfort Liteというグレードはシステム出力212PSを発揮するのだが、0-100km/h加速には1週間ほどかかる。これよりゆっくりと加速したいならもっと性能の低い仕様も選べる。Comfort Liteではバッテリーのみで100kmの走行が可能らしい。税金の優遇もあるそうだ。どういうものかはよく分からないし、調べようとも思わない。私は自動車評論家であり、会計士ではないのだから。

刺激的かどうかという指標で判断すると、SEAL 6は特殊部隊の名からは程遠い。運転はどうしようもなく退屈だ。まったく楽しさはない。なんとか速度を上げてみても、ただただ扱いづらくなるだけだ。

分かっている。新車が欲しいけどお金がないなら、SEAL 6でも十分だ。爆発することはないし、コーナーを曲がることもできるし、雨漏りもしないし、広大な荷室もある。これは5.5ポンドのワインのようなものだ。大抵の人には十分な出来栄えだ。

interior

ただ一つだけ、重大な欠点がある。Aピラーに設置されたカメラがドライバーを常時監視し、注意力が不足していると認識するとメーターに警告が表示される。中国ではこういう装備が必須なのかもしれない。

以前訪れた際に聞いたのだが、中国では高速道路に多数のカメラが設置され、すべての車が撮影・録画されているそうだ。長距離移動の退屈しのぎに…なんと表現すればいいだろうか…。自らを慰めるドライバーが後を絶たないらしい。これが事実かは分からない。中国のAIに聞いたところ、そういった事案は1件しか生じていないという返答があった。私に言えるのは、こんな話を現地で聞いた、ということだけだ。

車内にカメラが設置されているのがこのせいなのかは分からない。もし車内でドライバーが「自分だけの時間」を過ごし始めたらどんな反応をするのだろうか。もちろん私はそんなことをしていないので答えは闇の中だ。

私が運転しているときは、ほんの少し目を閉じただけで警報が鳴って注意書きが表示された。そこまでは良いのだが、この注意書きを読むために目線を下に向けると、今度は前を見ろと怒られてしまった。

設定さえすればこういった警告をオフにすることはできるのだろうが、運転中にそんな操作をしたら一体どれほどの警報が鳴り響くだろうか。交差点で左右の確認をしただけで前を見ろと怒られるのだ。結局、21km運転したあと車を降り、別の車に乗り込んだ。

この車の本質はダットサン・サニーやヴォクスホール・ベクトラと同じだ。しかも過干渉な警報装置まで付いている。あらゆる点で私の好みとは違っている。しかし、34,990ポンドという価格を考慮すると、多くの読者にはこれで十分なのかもしれない。