Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、アルファ ロメオ・ジュリア インテンサのレビューです。


Giulia Intensa

ジェームズ・メイは若い頃、ハマースミスの自宅からロンドン中心部まで通勤する際、ノッティング・ヒルのマイターというパブの前を通っていた。彼は毎晩のように窓から店内を覗いた。そこには私立名門校出身者特有の自信に溢れた若者たちがいた。そのたびに彼は悲しさを覚えた。北部の公立校出身の彼は、そんな場所に入る資格がないと感じたからだ。

ジェームズは普段から訳の分からないことばかり言っているのだが、この話題に関しては私にも理解できる。世の中には、自分のような凡人には縁遠いと感じるような雲の上の世界がある。超高級ホテルもそうだ。制服を着たスタッフの前を通って受付に行くと、自分の穿いているズボンがその場にそぐわないものだと感じてしまう。

オープンカーもそうだ。ロジャー・ムーアがルーフを下ろして運転する分には何の問題もない。しかし、世の中の人の大半はロジャー・ムーアではないので、そんなことをすれば恥ずかしくなり、車から降りたくなってしまう。

私はサウス・ヨークシャーのモノクロの炭鉱町で生まれ育った。私のような背景をもつ人はワインなど飲まないし、飛行機に乗るときにビジネスクラスは使わないし、オープンカーに乗ることもない。私もそうだったのだが、ある日を境にそういったことが気にならなくなった。

私はかつて、25歳以上の男性はオープンカーでルーフを下ろすべきではないと主張していた。ジェームズの主張は私よりも過激で、絶対に誰にも見られることのない、裸になったとしてもバレないような環境でだけルーフを下ろしていいと主張している。

ただ実際のところ、私は土砂降りのとき以外はルーフを下ろして運転している。高速道路でそんなことをしても楽しくないし、街中ではむしろ不快だ。けれど、田舎道に限って言えばそれは最高の体験だ。ワインを飲んだり、ビジネスクラスに座ったりするのと同様、人生をより良いものにしてくれる。

運転している時間の大半は単調で退屈だ。けれど、屋根がなくなると世界は一変する。料理と同じだ。毎晩、家族のために料理をするのは面倒なことだ。けれど、庭で火を熾して料理をするのは楽しい。シャワーもそうだ。家でシャワーを浴びるのは退屈だが、滝の下で天然のシャワーを浴びるのは最高だ。

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なぜイギリスが世界屈指のオープンカー大国なのか、人々はずっと疑問に思ってきた。天候に恵まれないイギリスでオープンカーがたくさん売れるのは妙な話だ。しかし、天候に恵まれないことこそが重要だ。そういう国では晴れの日が貴重となる。せっかくの晴れを楽しみたい。そんな日に屋根の下にいるなんてもったいない。

オープンカーはどれも同じだ。仕事上の悩みがあろうが、恋人に浮気疑惑があろうが、ライオンに襲われているときには「ライオンに襲われている」以外に何も考えられなくなる。オープンカーに乗っているときも同様で、風を浴びていること以外に何も考えられない。そう考えると、マツダ MX-5(日本名: ロードスター)でまったく同じ感覚を味わえるのに、どうして高価なメルセデス SLを買う必要があるのだろうか。

要するに、そこまで高い金を払わなくても、すべての移動をイベントにしてくれる車を手に入れることができる。私が最近購入したのは12年落ちのジャガー F-TYPEのオープンカーで、価格はわずか25,000ポンドだった。私はこの車が非常に気に入っており、クーペ仕様のF-TYPEに乗っている人を見るたび、どうしてコンバーチブルを買わなかったのかと疑問に思う。

ただ、私も絶滅危惧種のひとりのようだ。オープンカーの販売台数は急降下している。20年前、イギリスでは年間10万台のオープンカーが売れていたのだが、今では年間わずか1万6000台しか売れていない。近いうちにオープンカーがビジネスとして成立しなくなり、ショールームから姿を消してしまうかもしれない。

どうしてこんなことが起きたのだろうか。ひょっとしたら、多くの人々にとって自動車は「欲しいもの」ではなくなったのかもしれない。高価で鬱陶しいけれど、生活に必要だから仕方なく買っているだけなのかもしれない。そんな人たちが天井のない車など買うはずがない。天井のない冷蔵庫を買うようなものだ。

ここから今回の主題であるアルファ ロメオの話に繋がる。アルファはオープンカーやビジネスクラス、あるいはマイターのような存在だ。クラウディア・カルディナーレでなければ、1966年でなければ、アマルフィ海岸でなければ、乗ってはいけないような感覚を持っている人も多いだろう。アルファ ロメオにはそんな近寄りがたさがある。

公立校出身の人間は「私なんかがこんな車に乗っていいのだろうか」と考えてしまう。けど、そんな考えは捨ててアルファに乗るべきだ。

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新型モデルであるジュリア インテンサに乗り込んだとき、私には何が新しくなったのかさっぱり分からなかった。魅力的なゴールドのホイールは別として、以前に乗ったジュリア コンペティツィオーネとまったく同じに見えた。2.0Lターボエンジンや8速ATも共通だ。

ただ、実際に運転してみると、この車のしなやかさに驚かされた。見事なまでに路面の衝撃を抑え込んだ。どうやらこの車にはシナプティックダイナミックコントロールサスペンションとやらが付いているらしい。それがどういうものなのかはさっぱりなのだが、とにかく凄かった。

しかも、ただ乗り心地が良いだけでなく、静粛性も高い。となるとコーナリング性能が犠牲になっていそうなものだが、魔法のサスペンションのおかげで路面状況が手に取るように理解できる。この車はドライバーと、優しく、けれどはっきりと対話してくれる。これはワイパーの付いた精神科医だ。

欠点はある。アルファなのだから当然だ。ハイブリッドカーではないので税制上は不利になる。トランクは狭いし、ステアリングとBピラーの間隔が非常に近いので太った人が乗り込むのは大変だ。ナビの操作系は統一感がなくて扱いづらい。それでも、エアコンの操作系が本物のボタンやダイヤルなのは嬉しい点だ。

この文章を読んでいる貴方は、自分にアルファ ロメオなど不相応だと思っているかもしれない。けど、そんな考えは捨てたほうがいい。数年前、私はジェームズ・メイを連れてマイターに行ったのだが、結局ジェームズはマイターを気に入った。


The Clarkson review: Alfa Romeo Giulia Intensa — like flying business class with your shrink