Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、フェラーリ 296 GTBのレビューです。


296GTB

何から書いたものか見当がつかない。簡単に説明すると、試乗用に借りていたフェラーリを深夜のパブに停めていたところ、元国会議員のジェイコブ・リース=モグが運転する新車のピックアップトラックに突っ込まれ、大破した。しかも、リース=モグのトラックはその翌朝に盗まれたらしい。彼が保険金請求書に何を書くのかが気になる。
私が運転中にフェラーリに追突して、そのあと車を盗まれました

深夜のパブにフェラーリを停めていた理由から説明しなければならない。今や私は22時30分にはパジャマに着替えているような人間だ。深夜にスーパーカーでパブ巡りをするような年ではない。すべての原因はアンドレア・コアーにある。しかしやはり、最初に書いたように説明するのはなかなか難しい。

まずフェラーリの解説をしよう。私が借りていたのは296 GTBだ。フェラーリの担当者であるジェイソンは、現代の車にありがちな、すべてを台無しにする健康と安全のためのありとあらゆる警報をオフにする方法を示したビデオを用意してくれた。

296 GTBを購入した人全員にジェイソンが用意されるのかは分からないのだが、いずれにしてもこの車は意味不明だ。安全機能をオフにするためには、エンジンを始動し、ステアリングの左側にある丸いスイッチを操作したあと、右側にある何も書かれていないスイッチをタッチしなければならない。ここで重要なのが「タッチ」というキーワードだ。そのスイッチを普通に押しても何も起こらない。

メーターパネルも意味不明だ。速度計とタコメーターは分かったし、老眼鏡を着けて見ると燃料計があることも分かった。しかしそれ以外はどうだろうか。まったくもってちんぷんかんぷんだ。他のスイッチ類も同様で、「H」と書かれているものは何なのだろうか。それにこのスイッチは…と思ったらワイパーが動いた。しかしどうやってワイパーを止めればいいのだろうか。

296を購入したら、操作方法を習得するまでに最低でも1週間はかかる。しかも、多くのスイッチがステアリングに集約されているのだが、言うまでもなくステアリングは回転するので、スイッチの場所も動いてしまう。WindowsからMacに乗り換えるのとはわけが違う。タイプライターと電気フライヤーくらい大違いだ。

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それでも、実際に運転してみなければ車の評価はできないので、エンジンを始動させることにした。ところが、スタートスイッチを押しても何も起こらなかった。再び老眼鏡をかけてメーターを見ると、そこには「チャージ」という表示があり、この車がハイブリッド車であることが分かった。つまり、電気モーターだけが始動したということだろう。

なら気にせずDレンジに入れて走り出せばいい…と思ったのだが、シフトレバーはどこだろうか。どういうわけか、シフトレバーの代わりに3つのスイッチがあり、そのうちのひとつには「L」と書かれている。これは何だろうか。さっぱり分からない。

なんとか車を動かすことには成功したのだが、その走りは奇妙だった。フェラーリに乗っているはずなのに、聞こえてくるのはロードノイズだけだ。他の車もそれは同じなのだが、フェラーリの場合、ロードノイズはエンジン音によってかき消されてしまうのが普通だ。しかし、296は違う。フォルクスワーゲンの電気自動車と何ら変わらない。

それから1kmほど運転して思ったのだが、一体全体、これは何なのだろうか。普通のハイブリッドカーの場合、エンジンの始動に気付くことはほとんどないのだが、フェラーリの場合、何の前触れもなく、けたたましい咆哮が鳴り響く。真面目に地球が壊れたのかと思った。

296に搭載されるのはわずか2.9LのツインターボV6エンジンなので、大した音などするはずがないと思っている人もいるだろうが、その予想は大外れだ。ルーフを下ろせば(45km/hまで開閉可能)その音はさらに大きくなる。良い音かどうかは、正直判断に困る。うるさすぎて良し悪しなど分からない。

私は先日のブラジルGPで3位となったピエール・ガスリーにビールをプレゼントとして届けるため、フェラーリに乗っている。その後はアルピーヌ本部から自宅近くのパブまでドライブする予定だ。その道路はイギリスでも有数の道で、そんな道をフェラーリで走ることができる。

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この車はプラグインハイブリッドカーなので、大量のバッテリーとモーターを積んでおり、かなり重い。しかし、運転していて重さを感じることはなく、最高出力は実に830PS(石油から663PS、コバルト鉱石から167PS)を発揮する。しかも、動力源はすべて車の中心にあるので、非常にバランスが良い。ただ妙なことに、以前に乗ったポルシェ 911ターボのほうが走りは優れているように感じたし、見た目もポルシェのほうが魅力的に感じた。296はどこか野暮ったく見える。

296は308やF355の実質的な後継車であり、特にF355は魅力的な車で、私が惚れ込んで購入したほどだ。一方で458という失敗作もある。ジェームズ・メイが458を購入しているのだから失敗作と断言していいだろう。いずれにしろ、この系譜は特別なものだ。この血筋には我々を特別な気分にさせる何かがある。

爆音の中で疾走するのは実に特別な気分だった。あまりに特別感があったので、運転中にいろいろなスイッチをいじる気分にもならなかった。レースモードも少し試してはみたのだが、ただ快適性が落ちるだけで、それ以外のモードも試したのだが、操作するたびに警報音が鳴り、メーター内に(老眼鏡をかけていなかったため)読めないメッセージが表示された。

ラジオは操作スイッチがどこにあるのか分からず、仮に見つかったとしてもラジオの音など聞こえなかっただろう。エアコンの操作スイッチの場所は分かったのだが、どれも機能しているようには思えなかった。いろいろいじって分かったのだが、この車は複雑すぎる。

パブに到着して、そこでザ・コアーズの演奏を聞いた。それから、アンドレアとの別れを惜しみつつ、家に帰ることにした。ところが、1kmも走らないうちにエンジンの様子がおかしくなった。1気筒しか動いていないかのような異音がした。その後、ギアは1速のまま固定され、50km/h以上出せなくなってしまった。重大な問題が発生したと考え、そのままパブに戻ってフェラーリを駐車場に置いて帰った。あとでフェラーリが車を調べたのだが異常は見つからず、ひょっとしたら寒さが何らかの不具合を起こしたのかもしれないとのことだった。

そのあと、ジェイコブ・リース=モグが運転するピックアップトラックがフェラーリに突っ込んだというわけだ。

結論を書こう。296は魅力的な車だ(った)し、数ヶ月も運転すれば複雑さにも慣れるだろう。ただ、疑問も残る。フェラーリがグレタ・トゥーンベリやEU議員の要求通りの車を作るのは、世界最高のシェフにカブとドッグフードだけを使った料理を作らせるようなものだ。

フェラーリの仕事は見事だったが、あくまで「求められた条件の中で」最善を尽くしただけだ。だからこそ、私なら中古で”本物”のフェラーリを購入する。


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