Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
ジャガーが自動車を作ることをやめ、代わりにピンク色の家電製品を作ると発表されると、多くの人々が悲しんだ。この移行を示すために公開された広告はおぞましいものだった。ダイバーシティとインクルージョンを誇示し、そこに車は登場しない。
バドワイザーの再来とも言われた。バドワイザーはトランスジェンダーのインフルエンサーであるディラン・マルバニーを広告塔とし、批判を浴びた。ジャガーの経営陣は正気を失ったのかもしれない。マクドネル・ダグラスがジェット戦闘機から撤退してハンドクリームを作り始めるようなものだ。当然、ナイジェル・ファラージもジャガーを強く非難した。
私は考えをまとめたかったので、ジャガーの転換についてコメントを控えていた。ようやく整理がついたのでここで語ろうと思う。ファラージはじめ、ジャガーを非難している人々は、かつてのジャガーの理念である”Grace, Space, Pace”(優雅さ、広さ、速さ)を重視しているのだろう。かつてのEタイプやル・マンの栄光をジャガーらしさと捉えているのだろう。彼らの主張も一理ある。しかし、それを主張している人々のほとんどはそもそもジャガーを購入していない。
2019年にジャガーはイギリス国内で161,601台を売り上げていたが、2023年には33,320台まで減少した。多くの人は、XJの見た目の良さや速さを評価しつつも、実際にはBMWを購入した。F-TYPEも同様だ。「素晴らしい車だ」と感激しながら、結局はメルセデスを選ぶ。
このまま続けてもジリ貧だ。まだブランドは死んでいないものの、緩やかに死へと向かっていた。生き抜くための唯一の道は、ブランドを刷新することだった。世界の流れを考えれば電動化以外に選ぶ道はないし、安価な中国製大衆EVと競うなど無意味なので、高額モデルに賭けるのも自然な流れだ。
跳躍する猫のエンブレムもスクラップと化した。ファラージの立場から考えれば、新しいジャガーはLGBTフレンドリーすぎるし、ポリコレに寄りすぎればジャガーは破滅すると言いたくなるだろう。しかし考えてみてほしい。アメリカ大統領選では7500万人もの人が超リベラル派のカマラ・ハリスに投票した。つまりそれだけ巨大な市場があるということだ。特にカリフォルニアには、ピンクのジャガーEVを購入できるような金持ちの左派がたくさんいる。皮肉なことだが、トランプが大統領に選ばれれば、彼らはさらに金持ちになるだろう。

当然、私が新しいジャガーを買うことはないだろう。それでも、ジャガーが今より売上を伸ばすことはできるはずだ。このまま老人たちのロマンを追い続けても、結局は破滅するだけなのだから。
そしてここからがBMWの話だ。過去50年間、BMWは素晴らしいクーペを作り続けてきた。3.0 CSLに始まって、6シリーズも、グランクーペも、そして昔の850も、どれも欠点があってリセールバリューも悪かったのだが、少なくとも見た目は最高だった。
そんな中で登場したのが、3シリーズの2ドア仕様であるM440iなのだが、これがまた微妙だ。決して醜悪なわけではないのだが、かといって見蕩れるほどの美しさもない。これまでのBMWのボディは、限界まで引き締まっていてかろうじてタイヤを覆っているような印象だったのだが、440iはホイールアーチが浮いている。私はモハメド・アルファイドの裸など見たことはないのだが、きっとそれに近いだろう。胴体ばかり大きくて、脚はか細い。
インテリアにも問題がある。もともとBMWの内装は派手ではないので、宝石が散りばめられたような絢爛さを期待していたわけではないのだが、かといって果てしなく広がる灰色が許せるわけではない。この車の内装はまるでオフィス家具だ。
走行性能はどうだろうか。440と書いてあるので4.0Lエンジンが搭載されていると予想していたのだが違った。この車には4.0LのV8エンジンではなく、3.0Lの直列6気筒エンジンと48Vハイブリッドシステムが搭載される。

この車に乗っているとき、100km/h制限の直線道路を60km/hで走っている忌々しいMGの中国製SUVに出会ってしまったため、追い越そうと反対車線に出た。ところが、追い越しが済むまで予想以上に時間がかかってしまい、おかげでMGのドライバーはパニックに陥ってクラクションを鳴らした。私がわざとゆっくり追い越しをかけていると思ったようだ。しかし、この車は見た目ほどは速くない。
ステアリングも気に入らなかった。フィールが欠けている。とはいえ、快適で静かだし、4WDなので安定していて安心感もある。四輪操舵も付いているのだが、私は四輪操舵が嫌いだ。これのおかげでサーキットのラップタイムは向上するのかもしれないが、サーキット以外の道路(つまり現実的にはほとんどの状況)では同乗者の車酔いを誘発するだけだ。
ここまで読んで、読者は私が440iを気に入らなかったと思うだろうが、その通りだ。それどころか、まだこの車の最大の欠点に触れていない。それはエアコンだ。リサのレンジローバーにも全く同じ不満を抱いているのだが、この車のエアコンには多種多様な機能が付いているのだが、暑いときに冷やすことと、寒いときに暖めることだけは上手くできない。
M440iが完璧な重量配分を実現した究極のドライビングマシンなら、以前のBMWのような美しさがあったなら、この程度の欠点など目に入らないだろう。けれど、これらの魅力は失われ、残ったのはただの車だ。
それでは不十分だ。中国企業が力を付けたときに備え、BMWのような企業には中国製の安価なタイヤ付き電子レンジに対抗する手段が必要となる。M440iにはそんな熾烈な競争に勝ち残れる資質はない。
1年前の私なら、競争に勝ち残るのはBMWで、ジャガーは敗北すると考えていた。しかしひょっとしたら、現実は逆なのかもしれない。


自分のもつ経済的主権は、好きなものに行使していきたいと改めて思いました。
翻訳、いつもお疲れさまです。
auto2014
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