Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、トヨタ・ランドクルーザー250のレビューです。


Land Cruiser

私は40年間ずっと勘違いしていた。私はこれまで、他の自動車評論家同様、オフロードカーの評価においては、普通なら走らないような極限状態の性能を基準にしてきた。それゆえ、オフロードカーを評価するときには、トルクカーブやデフロック機能、最低地上高などを確認した。しかし、現実的に重要なのは、荷台に羊の死骸を載せたあと、その残骸をどれだけ簡単に洗い流せるかどうかだ。

ランドローバーはイースナーにある試験場でディフェンダーを走らせる。そして、あらゆる山を登り、あらゆる川を渡ることができることを実証する。それを見た自動車評論家は、その凄さを言葉を尽くして原稿に書き連ねる。

しかし、現行ディフェンダーの荷室にある小さなフックは、チェーンソーや資材を引っ掛けただけですぐに壊れそうだ。それに、荷室に羊の死骸を載せたら、きっとカーペットに汁が染み込んで臭いが取れなくなってしまうだろう。

田舎ではシンプルさが求められる。その需要を満たすため、イネオス・グレナディアという車が開発されたのだが、作り込みが不十分で、価格はあまりにも高い。

価格は重要だ。かつて、農家や林業家は古いランドローバーや農機具店で売られていた鉄板剥き出しのスバルで仕事に行っていた。それらはオフロード性能が突出して高いわけではなかったのだが、壊れやすい装飾も、臭いのこもるカーペットも付いていなかった。そしてなにより、価格が安かった。

その後、彼らはピックアップトラック、特に三菱 L200に乗り換えた。ところが、三菱がL200の輸入を中止してしまい、そのうえ、レイチェル・リーヴスがダブルキャブのピックアップトラックの税制優遇を中止したため、ピックアップのコストパフォーマンスは大幅に悪化した。

トヨタの新型ランドクルーザーは7万5000ポンドもするので、到底安い車とは言えない。そのうえ納期は24世紀半ばになるだろうから、そもそも手に入れることすら不可能だ。にもかかわらず、忍耐強い友人たちはランドクルーザーに興味を持っているようで、私にレビューをしてほしいと言ってきた。なので、今回はランドクルーザーを取り上げようと思う。

rear

見た目が良いのは間違いない。今回乗った個体はみすぼらしい犬のような色だったのだが、それでもこの車には幼児用のミニカーのような愛嬌がある。私も気に入った。

問題点もある。エンジンは最悪だ。いずれ別のエンジンも選択できるようになり、ハイブリッドまで登場するらしいのだが、現時点では2.8Lのターボディーゼルエンジンしか選べない。その音や性能は1956年レベルだ。あまりにもやかましく、そして弱々しい。

問題はそれだけではない。今やほとんどの自動車メーカーがオフロードカーにもモノコック構造を採用している。モノコックとは、簡単に言えば車体が一体になっている構造のことだ。そうすることで高い強度が確保できる。ところが、ランドクルーザーはボディとフレームが別々になっており、サスペンションは車軸式だ。運転してみるとそれを実感する。昔の映画に出てくる車のように落ち着きがなく、常に修正舵を入れなければならない。

しかし、騒音対策のために耳にティッシュを詰めて14km/hで走行してみると、その頑丈さ、耐久性の高さを実感することができる。この車は田舎での生活に耐えられるだけの実力を持っている。何年も、何十年も。

何十年も経てばこの車の装備についても理解できるようになるだろう。ご存知の通り、ビジネスの世界では世間一般には通じない略語が用いられることが多々ある。普通は広報部門がそれをちゃんと通じる言葉に翻訳してくれるのだが、ランドクルーザーには通訳が存在しない。RCTA。RVAI。RCD。SEA。どれもオンオフができる機能が付いているのだが、それぞれが何を意味するのか、私にはさっぱり分からない。

次々に鳴り響く警告をオフにしようとしたのだが、その方法は私には分からなかった。あるとき、メーター内に「目を開けて運転してください」と表示された。意味が分からない。本当に目を閉じていたのだとしたら、この表示を読めるはずがない。

YouTubeで調べて、ディファレンシャルや運転支援機能などのオンオフのやり方をようやく理解できた。この車なら、もしチャドの真ん中で迷子になったとしても、走り続けることができるだろう。この車には、自動車評論家を喜ばせるような多彩な機能が付いている。

interior

しかしイギリス国内ではどうだろうか。これだけの装備が本当に必要なのかは分からない。ドアまで水に浸かって走る農家の車など見たことはない。そもそも、イギリス国内でL200が浅瀬を渡る姿さえ見たことはない。

ランドクルーザーという車は、明らかにアフリカを主眼に置いて開発されている。石油探査や国連や鉱山での使用を考慮して開発されている。それゆえ、イギリスに割り当てられた輸入台数は少なく、エンジンの選択肢も少ない。ランドクルーザーはイギリス向けの車などでは決してない。

ランドクルーザーは砂漠やツンドラで本領を発揮するのだが、イギリスの高速道路で運転するのは疲れる。そもそもイギリスの都市部には大きすぎる。ロンドンでランドクルーザーを運転するのは馬鹿馬鹿しい。

田舎ではそれなりに使えるし、十分な頑丈さもある。それでも、75,000ポンドもする車に羊の死骸を載せようとは思えない。

レンジローバーも同じだ。私が持っているレンジローバーは古い型でもう価値もないので、毎日農場で使っている。一方、リサが乗っているのは新型のレンジローバーで(農業従事者より店員のほうが給料が良い)、そちらには犬すら乗せたくない。15万ポンドの車に泥だらけの動物を乗せることなどできない。

ランドクルーザーはやりすぎだし、レンジローバーは豪華すぎる。スバルはもう鉄板剥き出しのトラックなど作っていないし、グレナディアはまだ完成していない。リーヴスのせいで普通のピックアップトラックも市場から姿を消した。今でも自動車評論家を喜ばせるようなオフロードカーはあるのだが、田舎の道具としての車選びはかなり難しくなっている。

けれど心配無用だ。いずれ田舎自体が消えてなくなるだろうから。田舎から人々は消え、風力発電所とメガソーラーだけが残るだろう。その維持管理の仕事くらいなら自転車で事足りるはずだ。


The Clarkson review — Toyota Land Cruiser: can it carry a dead sheep?