Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、いすゞ D-MAX マッドマスターのレビューです。


Mudmaster

我らが偉大なる指導者たちは、農地に相続税を課すことを検討しているらしい。しかしこれによって、農家の子供が農家になるという何世紀も続いてきた慣習が失われてしまうかもしれない。おじいさんもお父さんも農家で、子供もいずれ農家になる。農地に相続税がかかるようになれば、そんな時代も終わることだろう。父親が死んだら農地を売らざるをえなくなる。年間40ペンスしか儲からない事業のために、誰が何百万ポンドもの税金を払うのだろうか。言うまでもなく、私は例外だが。

いずれキア・スターマーが自分の間違いに気付き、この計画を撤回すると予想している人もいるだろう。しかし、重要なことを忘れていないだろうか。スターマーを含め、多くの政治家の根本には革命的マルクス主義がある。革命的マルクス主義において、財産とは窃盗であり、土地を持つことなど許されざる行為だ。

政治家の多くは、国家がすべてを支配するべきで、土地や財産はすべて国家に帰属するべきであると考えている。そしてついに、彼らはこれを実現する方法を思いついた。農家が死に、その子孫が農家の売却先を見つけられなくなれば、いずれ税金が払えなくなり、国が農地を差し押さえることができる。

20年もしないうちに国は地方部を完全に支配するようになるだろう。国のやりたいことを邪魔する農家はいなくなる。国のやりたいことは明白だ。彼らは自分たちの気に入らないものすべてを禁止しようとしている。まずはタバコだ。次は肉食だろう。牛、羊、豚、鶏を飼育するために使われていた土地はすべて、やがて雑草の生い茂る野原に変わっていく。

農家が消えたあとは、自然享受権が取り入れられ、誰もが好きな場所に立ち入ることができるようになるだろう。牛がいなくなり、結核の危険性もなくなるので、アナグマが淘汰されることもなくなる。

国営農場が設立され、ケンティッシュ・タウンとイズリントンの人々が責任者に就任し、どのケールを栽培するべきか、電動トラクターを使っていかにオーガニックで持続可能な農業を行うべきかを検討することになる。

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オーガニックなので、除草剤や殺虫剤も必要ない。やがて私たちの川はサケが泳ぐようになり、綺麗に光り輝くことだろう。これこそ完璧な社会主義だ。パンを買うために1週間待ちの列ができ、ニュースキャスターは軍服を着るようになるはずだ。

気候変動大臣のエド・ミリバンドは現在、”The answer, my friend, is blowin’ in the wind”(友よ、答えは風の中にある)と歌いながら風車の下でパレードをすることくらいしかできない。これは実話だ。YouTubeに動画もあるのだが、見ないことをおすすめする。私は見てしまったのだが、吐きそうになった。テリーザ・メイがABBAのダンスをするよりも酷い光景だった。

ミリバンドは単なる社会主義者ではない。彼は気候狂信者であり、もし彼が農家のいなくなった地方部を掌握したら、そこら中を絨毯爆撃して風力発電所を建設するだろう。彼を止められる者などいない。

この素晴らしき新世界において、地方の住人が楽しんでいる娯楽の多くは失われてしまう。乗馬もキジ猟もできなくなるだろう。まして、4WD車で森に入っていって泥だらけになって遊ぶことなどできるはずがない。

今は、ランドクルーザーやランドローバーやジープに頑丈なサスペンションとゴツゴツしたタイヤを取り付け、エンジンを強化して、深さ1m以上ある泥沼に突っ込んだり、切り立つ岩壁をよじ登ったりしている人が大勢いる。結局は車を降りて泥の中に入り、爪が剥がれそうになりながらウインチを木に括り付ける作業をすることになる。こんなのは私の趣味ではないのだが、私は社会主義者ではないので、こういった人々から楽しみを奪おうとは思わない。しかし、グレタ・ミリバンドやカール・スターマーは違う。確実にいずれ禁止されることだろう。

いすゞにとってこれは悪夢だ。いすゞは新商品としてマッドマスターというピックアップトラックを発売した。ペイントボール場でよく見るようなフォントで、車体の両サイドに大きく「MUDMASTER」と書かれているので間違えることはない。この車にはオフロードを走るのに必要なありとあらゆる装備が付いている。

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以前にもD-MAXに試乗したことがあるのだが、それはキャンプ用のモデルで、キッチンユニットまで装備されていた。一方、こちらは本気のオフロード仕様であり、2WD/4WDの切り替えスイッチやデフロック、ヒルディセントコントロールが装備され、アプローチアングルやデパーチャーアングルも向上している。屋根まで水に浸かっても走り続けられるよう、シュノーケルまで装備されている。ナンバープレートの裏側にはウインチがあり、他にも―(息継ぎ)―ドアバイザー、ボンネットプロテクター、LEDライトバー、スチールアンダーボディプロテクター、7インチワークライト、ARBベースラック、オフロードサイドステップ、PEDDERSオフロードサスペンションキット、20インチアルミホイールが装備される。一般人には意味不明だろうが、オフロードマニアにとってはポルノ同然の代物だ。

しかし、これだけの装備の効果を実感することはできない。これだけ立派な見た目だが、その内側には4気筒の1.9Lディーゼルエンジンが搭載されている。この車体には明らかに力不足だ。現在販売されている車の中でも突出して古臭い。加速は鈍いし、トランポリンが金床に感じるほど乗り心地も悪く、10km以上は運転したいと思えない。

いすゞがこのような特別仕様車を作ったことは褒めたいのだが、こんな悲惨なエンジンを搭載している限り、15km/h以上出せない都市部は別として、この車は実用に値しないだろう。ひょっとしたら、いすゞはそれを狙って今度は都市部向けの「タウンバスター」というモデルを発売するかもしれない。しかし、近いうちに都市部での自家用車使用が禁止されるかもしれないので、出すなら早くしなければならない。