Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
先日、車を運転しているとき、紫色の顔をした自転車乗りが必死で腕をバタバタさせて、私の車のスピードを落とさせようとしてきた。それに気付いた私は速度計を見たのだが、そこに表示されていた数字は11km/hだった。誤植ではない。11km/hだ。おそらく、その女はすべての車が速度違反していると思っているのだろう。車に乗るような人間は例外なくろくでなしであり、人殺しのブタ野郎なのだ。
車を止め、11km/hはスピード違反ではないと彼女に説明しようとしたのだが、これまでの経験から、自転車乗りと議論するのは椅子と議論するのと同じくらい無意味だということを私は学んでいた。自転車乗りこそが正義であり、自動車に乗るような人間は人殺しのブタ野郎で、資本主義のトーリー党員がすべて悪いという結論になってしまう。
この問題は特にコッツウォルズで深刻だ。コッツウォルズは比較的治安が良く、公共サービスも行き届いているため、コッツウォルズの住人に現状に対する不満を尋ねると、きっと悩んだ末に「車がスピードを出しすぎていることかな」と答えるはずだ。これが地方議会の耳に届けば、対策会議が開かれることになる。その結果、ありとあらゆる重要な議題を無視して、スピード違反をするブタ野郎問題と、30km/hの速度制限の策定についての議題について延々と話し合うことになる。
テムズ・ウォーターの汚水排出問題がさらに拡大すれば、議会にも仕事ができて、必要のない速度制限についての会議などなくなることだろう。しかし現実問題、汚水問題はそれほど拡大していないため、30km/hの速度制限が導入されることになった。
コッツウォルズにはFoul Brook(泥川)を語源とするフルブルックという村があり、おそらくテムズ・ウォーターが事業を始めるより前からこの地域の川は汚かったのだろう。しかし今や、そのフルブルックも、ノルマン様式の教会や洒落たパブが建ち、440人が住むのどかな場所となった。ただし、村内を通る交通量の多いA361だけはのどかさとは無縁だ。
そんなこともあり、30km/hの速度制限が設けられたのだが、フルブルックでA361を30km/hで走っている車は1台もいない。ほとんどの車が、他の幹線道路と同じように60km/h以上で走行している。結局、速度制限がもたらしたのは、これまで合法であった運転が違法になったという事実だけだ。
言うまでもなく、狭い住宅街や通学路で30km/h制限を設けるのは合理的だ。しかし、住民の自己満足のためだけに30km/h制限を設けてもそれが機能するはずがない。幹線道路を30km/hで走行するなど、そもそも不可能だ。
実際に試してみるといい。下り坂になればすぐに40km/hから50km/hに加速してしまう。30km/h以下の速度を維持するためには、常時速度計を見続けなければならない。要するに、進行方向を見て車を運転することができなくなる。
ご存知かもしれないが、ウェールズの社会主義者は最近、住宅街の道路の制限速度を一律で30km/hまで引き下げた。その決定を受け、50万人(住民のほとんど)が反対署名を行い、結局制限速度が元に戻ろうとしている。
ウェールズ以上の社会主義が蔓延るロンドンでは、40km/hで車を運転し、スピード違反で免許を失った人がいる。こんな状況で我々はどうすればいいのだろうか。いずれ車にスピードリミッターが付くことになるかもしれない。そうすることで、法律、もとい左翼の陰謀に則った運転をすることができるはずだ。
そんな車に乗らざるをえなくなる日も近いだろうが、現時点では、あらゆる問題行為に対して警報が鳴る車が蔓延っている。運転姿勢が悪くても、休憩無しで長時間運転しても、速度を出しすぎても、鬱陶しい警報が鳴る。しかも、そういった機能を一括でオフにできるようなスイッチを設置することをEUの法律が禁じているため、平穏な心で運転するためには、いちいちサブメニューを掘っていかなければならない。
もはやそんなことにも慣れてしまったのだが、先日スズキ・スイフトに乗ったときには当惑してしまった。あらゆる機能を無効にしたのだが、速度制限の警報音だけは切ることができなかった。しかも、車が制限速度を30km/hと勘違いしていたため、常に警報音が鳴り続けた。制限速度が30km/hなはずがない。300km/hにしておけ。
私は墜落している飛行機を立て直そうとするパイロットのごとくあらゆる操作をしてみたのだが、結局警報音は消せず、スイフトは放置して自分のジャガーに乗ることにした。
残念ながら、これ以降はスイフトを運転していない。つまり、スイフトのレビューを書くのは不可能だ。リサはこの警報音をかき消すためにラジオを大音量で聞いて運転したらしく、彼女はスイフトを気に入ったようだ。しかし私は64歳の年寄りで、車に説教されるのを許容できるほど従順にはなれない。
私はスイフトが好きだった。楽しくて、価格も安く、見た目も魅力的だ。新型スイフトは見た目こそ悪くなったが、試乗したマイルドハイブリッドモデルの価格は18,699ポンド(オプション込みで20,499ポンド)で、付いている装備も考慮するとコストパフォーマンスは非常に高い。信頼性も高いだろう。しかし、1.2Lの3気筒エンジンの実力については、分からないとしか言えない。
今回はレビューができなかったが、それでも構わないだろう。今後も自転車レーンや30km/h制限道路が増え、車嫌いによる街作りが続けば、いずれ車をレビューする意味もなくなる。そんな世界で誰が車を欲しがるだろうか。
Jeremy Clarkson: ‘It’s not actually possible to drive at 20mph’
記事を掲載頂けないでしょうか。
auto2014
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