Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、レクサス LBXのレビューです。


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ある程度の年齢以上の読者なら、ルノー 5についてご存知のことだろう。けれど、モナコというグレードがあったことまで覚えている人はほとんどいないはずだ。モナコは特筆すべきモデルであり、当時としては画期的なモデルであったにもかかわらず、ヒットはしなかった。

1980年代当時、あらゆる自動車メーカーが競うように速くて狂気的なホットハッチを開発していた。ホットハッチは非常に速く、それでいて維持費は普通のハッチバックと大差なかったため人気を博した。言うなれば、犬や子供を乗せることができるスポーツカーだ。素晴らしいじゃないか。

そして、当時の自動車メーカーにとって重要だったのは、数あるホットハッチの中でも自社のモデルが最速であることを示すことだった。そのために各メーカーは、ディファレンシャルや4WDシステム、それに付けられるだけのバルブを車に装備した。挙げ句MGすらホットハッチを開発し、マエストロに業務用のゴミ箱サイズのターボチャージャーを搭載した。あまりに巨大だったので0-100km/h加速は1回しかできなかった。1回で爆発してしまった。

日本ではダイハツが100馬力の1Lエンジンを開発し、ヨーロッパではランチアとフォードがそれぞれ、デルタ インテグラーレとエスコート コスワースという剥き出しの狂気を生み出した。当時は狂乱と波乱と錯乱に満ちた時代だった。フラムのバーでは毎晩のように、フォルクスワーゲン・ゴルフGTIとプジョー 205 GTIのどちらが速いか論争が繰り広げられていた。

そして、ホットハッチの代名詞とも言えるルノーも登場した。ホットハッチとは名ばかりのミッドシップの5をはじめ、何台かの名車を世に出した。しかしやがて、速さだけでなく、快適性や静粛性を求めている人もいるということにルノーは気付いた。そうして5モナコという今は忘れ去られた車が誕生した。

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赤いストライプや太いタイヤや巨大なリアスポイラーの代わりに、モナコには分厚いカーペットと豪華なレザーシートが装備された。街中の足として使える豪華な小型車を求めているBMWやメルセデスのオーナーに向けた車だった。アイディアとしては良さそうなのだが、結局まったく売れなかった。

思い浮かぶ限りだと、これ以降に登場した同様のコンセプトの車といえば、アストンマーティン・シグネットという(悪い意味で)とんでもない車くらいしかない。けれど実際のところ、モナコとシグネットでは開発の意図が異なる。シグネットは小さなスーパーカーを求めている人のための車などではなく、EUの無謀な排出ガス規制を達成するためだけに開発された、トヨタ iQにアストンマーティンのロゴを貼り付けただけの車だ。

私には理解ができない。ロールス・ロイスに大金を払う人がいるのは、ロールス・ロイスが巨大だからなどではなく、ロールス・ロイスが静かで快適で豪華絢爛だからだ。それは小型車でも実現可能なはずだ。ならばどうして小さな高級車は流行らなかったのだろうか。

これがレクサス LBXの話に繋がる。簡単に言うと、LBXはトヨタのヤリスクロスにレクサスの高級さを取り入れた車だ。つまり現代版のモナコだ。小さな車で大きな車の価値を手に入れたい人のために開発された高級車だ。

LBXの中身が高床式ヤリスであることを隠すため、目に見えない小さな工夫が溢れている。しかし残念ながら、3気筒の1.5Lエンジンを採用するハイブリッドシステムはヤリスと共通だ。プリウスと同様、非常に経済性が高く、そして非常に退屈だ。そこに力強さや楽しさなど存在しない。加速も、ブレーキングも、すべてが平凡だ。

アクセルを踏み込んでも(そもそもそういう車ではないので踏み込むような人などいないだろうが)、0-100km/h加速は9.2秒もかかる。これは1989年の平均的なハッチバックと同等だ。これより遅い車が欲しいなら、4WDモデルを選べばさらに遅くなる。

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そもそも、この車は走り好きのために開発された車ではない。CVTが採用されているのもその証拠だ。エンジンの騒音やクラッチが滑る感覚を求めているなら、CVTが理想的だ。しかし私はそんなものなど求めていない。CVTのせいで、高級車とは思えない騒音が響き渡る。

操作性に関しては、少なくとも試乗中に事故は起こさなかったので、ある程度の性能はあるのだろう。ただ、ステアリングも、ブレーキも、コーナリングも、記憶に残らないほど凡庸だった。つい昨日試乗したはずなのだが、まるで印象に残っていない。

しかし、ここが重要なのだが、レクサスは熱意溢れる若者をターゲットにしているわけではない。レクサスがターゲットにしているのは、上でも書いたように、大きな車にあるような充実した装備を、取り回しのしやすい小さな車体に詰め込んだ車を求めている人だ。

ただ、レクサスはこの点でも失敗している。確かに、上質なオーディオや機能の充実したエアコンやカメラウォッシャーやヘッドアップディスプレイは装備されているのだが、どれもただのギミックやガジェットに過ぎない。こういったものだけで「高級」が定義できるのなら、家電量販店が地球上で最も高級な場所ということになってしまう。そんなはずがない。LBXのカーペットには靴が沈み込まないし、レザーも柔らかくないし、全体的に陰気な感じがする。

確かに作りはかなりしっかりしているのだが、これより圧倒的に安いヤリスと決定的な違いがあるとは思えない。そこで気になるのが価格だ。今回試乗した2WDモデルは35,000ポンド以上するのだが、装備の充実した4WDモデルだと4万ポンドを超える。小さくても居心地の良い車なら、この価格も正当化できるだろう。しかしLBXにはそれがない。そもそも車内が窮屈だ。この車に乗るとコンビーフの気分を味わうことができる。後部座席はさらに酷く、まともな人間が座れる空間はない。同様に荷室もかなり狭い。

要するにLBXは、速くもなければ楽しくもなく、大した高級感があるわけでもない、ただ小さくて高いだけの車だ。こういった類の移動手段が欲しいなら、ヤリスを買ったほうがましだ。もしどうしても小さな高級車が欲しいなら、LBXではなく中古車サイトを調べたほうがいい。先週、ルノー5モナコが5,000ポンドで売りに出ているのを見かけた。


The Clarkson review: Lexus LBX — a luxury hatchback missing the luxury