Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、メルセデス・ベンツ CLE450のレビューです。


CLE450

かつて、メルセデスのラインアップは非常に単純だった。ルームミラーに芳香剤をぶら下げ、自宅からルートン空港まで送迎してくれる車はCクラスだ。それより少し大きい、ガトウィック空港に行くときに乗る車がEクラスだ。そして最上級の、ヒースロー空港ターミナル5に行くときに使う車が、豪勢で静寂なSクラスだ。

数字にもちゃんと意味があった。トランクに「200」と書かれている車には排気量2Lのエンジンが搭載され、「350」と書かれている車には3.5Lのエンジンが搭載されていた。そして「63」と書かれた車には6.2Lのエンジンが搭載されていた。0.1Lのずれについては理解できないが、それは置いておこう。

ところが、今のメルセデスにはありとあらゆる車が存在する。EQSがあり、EQAがあり、CLAがあり、GLBがあり、その他数え切れないほどの車種がある。そのどれをとっても名前に合理性はない。

先週、私の家にCLE450という車がやってきた。名前からして4.5Lのエンジンが搭載されているのかと思ったのだが、実際は3Lのターボエンジンが搭載されていた。ではCLEとは何なのだろうか。どうやらCクラスクーペとEクラスクーペの中間にあたる車らしい。つまりニッチの中のニッチだ。この車の開発会議はさぞ退屈だったことだろう。

CLEの価格は最も安いモデルで46,620ポンドで、その価格で、かなり美しいデザインと、上質なホワイトレザーが使われた居心地の良いインテリアを手に入れることができる。

走りを確かめるため、グランド・ツアーの会議に向かう際にこの車に乗ってみた。分かりきっていたことなのだが、最新型の車ゆえに、我らが偉大なる指導者たちが定めた環境性能や安全性能を実現するための装備のせいで、鬱陶しい警報音をオフにするために15分もの時間を棒に振ってしまった。

rear

ただ、それほど分かりづらいわけでもなかった。サブメニューを何回か選択し、何度かスクロール操作とスワイプ操作を行うことで、ブレーキやステアリングの操作を完全手動にすることができた。それからナビの目的地設定も簡単にできた。素晴らしい。

ところが、走り出すとすぐ、メーターとヘッドアップディスプレイの両方に30km/hの制限速度を超過しているという警告が出てきた。そのため、この機能をオフにするために20分ほど格闘したのだが、無理だった。

アクセルを踏むたびに警報が鳴るため、結局遅刻してしまった。途中、私の前を引越し業者の大型トラックが走っていた。かなり飛ばして走っていたのだが(最近、脚の折れたグランドピアノが届いた人がいるはずなのだが、私はその原因を知っている)、それでも大型トラックであることは間違いない。にもかかわらず、CLE450はそのトラックに追いつくことができなかった。

言うまでもなく、性能的に追いつくことはできる。しかし、そのトラックと同じ速度で走ると、法律に違反しているという警報が鳴り続け、気が狂いそうになる。結局、制限速度など自由民主党のお気持ちでしかないのだが、それでも私は参ってしまい、ニック・クレッグのように走ることにした。

しかし、1904年と同じ速度でしか走れないにもかかわらず、このような車を開発する理由がどこにあるのだろうか。そんなことを考えながら運転していると、「サッカーの試合結果を知りたいですか」という女性の声がした。

そのとき水曜日の朝7時50分だったので、大した試合があったわけではない。しかし本題はそこではなく、どうして車から突然そんな声が聞こえたのだろうか。何をするでもなくただ30km/hで運転しているときに、まるで脈絡のない質問をされた。それから少し経って、その女性の声が「学習をしたい」と言ってきた。SF作品をたくさん見てきた私が知る限り、自己学習する機械というのはろくなものではない。いずれすべてを理解した車はきっと人間が不要であると判断し、ステアリングとアクセルを勝手に操作して160km/hで木に突っ込んでいくことだろう。

interior

「ハイ、メルセデス」と言うと、「どうされましたか」と反応があるそうだ。要するにこれは車の形をしたアレクサということだ。なので私は「このクソ鬱陶しい制限速度の警告を切るにはどうすればいいのか」と聞いてみた。

それから私は夢中になって、今走っている村の名前は何なのか、私とは何者なのか、ペルーの首都は何か、などさまざまな質問をした。そして「タイタニック号で何人死んだか知ってるか?」と聞き、その質問にもしっかり答えてくれたので、今度は「じゃあその犠牲者の名前を全部言ってみろ」と言った。

それからは沈黙だった。AIが突っ込むべき木を探っているのかと思わせるような、長い沈黙だった。それから数日経って分かったのだが、難しい質問をしても彼女は答えてくれない。まるで「分かりません」と言うことを恥じているかのようだ。つまり彼女には自我があるということだろうか。しかし、車を操作しようとする自我のある存在が2つも同時に存在するなんて、そんなことを誰が望んだのだろうか。

何より最悪なのは、何度も質問攻めにしていると、彼女はまるで苛立っているかのように振る舞うことだ。何度も「ハイ、メルセデス」と言い続けると、返答が「どうされましたか」から、ぶっきらぼうな「はい」に変わる。つまり、単に自我があるだけでなく、気性の荒さまで備えているということになる。

なので、彼女に対し、彼女自身の電源を切ってもらうように頼んだ。それから再度長い沈黙が流れた。確認のため再度「ハイ、メルセデス」と言うと、彼女はそれに反応した。つまり彼女は自分の電源を切ることはできないということだろう。彼女は進化するスカイネットであり、我々人間が乗っている車をコントロールする力を持っている。

結局、これはどんな車なのだろうか。正直、完成度は高い。リアシートも十分に広いし、トランクも広大だし、作りもしっかりしている。快適性も高いし、EUの規制のおかげで引越し業者の大型トラックと同じくらい速く走ることができる。