Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
マツダ3セダンのデザインは決して醜悪ではないのだが、ひょっとしたら最も退屈なデザインと言えるのかもしれない。あまりに地味なので、チャールズ国王の戴冠式の最中にウェストミンスター寺院の中を通り抜けたとしても、誰も気付かないかもしれない。しかし実のところ、この車は現在販売されている中でも至高の車と言えるかもしれない。
ご存知の通り、現在販売されているファミリーカーのほとんどは、馬鹿げたほどに複雑なハイブリッドシステムを搭載したコンパクトSUVか、あるいはそれ以上に馬鹿げている電気自動車だ。ところが、マツダはこのような的外れな時流に逆らっている。二酸化炭素の排出を低減するためには、長年の実績がある内燃機関を廃止するのは適切ではなく、内燃機関を進化させるべきであると論じている。可能性を隅々まで探るべきであると考えている。そして事実、マツダはそれを成し遂げた。
少し専門的な解説をさせてほしい。マツダ3に搭載される2Lの4気筒ガソリンエンジンにはディーゼルエンジンとガソリンエンジンの両方の特性が融合されている。圧縮比は15:1と非常に高く、このおかげで燃料効率が向上している。具体的に説明すると、非常に薄い混合気がシリンダー内に噴射され、圧縮によって高温高圧の状態として着火させる。何を書いているのか自分でもよく分からないのだが、19.1km/Lという燃費性能の凄さは理解できる。しかも、この車を運転していても”未来の車”を運転しているような違和感はない。
16バルブエンジンが初めて登場したとき、低回転域の性能不足が批判された。ディーゼルが流行していた頃は、エンジン音が粗雑であると批判された。ターボエンジンが登場した頃は、アクセルを踏んでから実際に加速が始まるまでにかなりのギャップがあった。電気自動車では遠方の家族に会いに行くのに1週間ほどかかってしまう。ところが、マツダの技術には明らかな問題点が一切存在しない。
加えて、この車には並外れた快適性がある。これは多くの苦労の末に達成されたものだ。シャシはあらゆる衝撃を排除するよう設計されている。シートはクッションの役割を果たせるよう設計されている。タイヤも快適性を追求してソフトな設計となっている。浮気調査をする私立探偵が使う車としては、目立たず快適なこの車こそ最適だろう。
万が一尾行がバレて相手に追いかけられたとしても、マツダ3は十分な直線加速と、かなりのコーナリング性能を併せ持っている。この車の運転は楽しい。特に昔ながらのマニュアルトランスミッションが良い。
これほど楽しい普通のファミリーカーを運転したのはかなり久々だ。最近の車のメーターには意味不明な記号や象形文字が並び、充電に時間のかかる重いバッテリーを積んでいるため、長靴でバレエを踊るくらい軽快さがない。一方、マツダにはそのような要素が存在しない。操作系はすべて分かりやすいし、エンジンの性能は恐怖を感じるほど過剰ではなく、必要なときに使い切れるだけの性能を有している。
加えて、本革ステアリングの感触も最高だった。どこもかしこも、決して壊れることはなさそうなほど頑丈にできていた。もちろん欠点はある。死角はかなり多いし、リアシートは狭いし、荷室は広大ながら開口部は狭い。まるで郵便ポストだ。ただ、これが気になるならハッチバックを選べばいい。
警報音も鬱陶しい。走り始める前にあらゆる安全装備をオフにするために格闘するのだが(最近の調査によると、ドライバーの41%が同じことをしているそうだ)、毎回何かをオフにし忘れてしまう。おかげで運転するたびに騒音に悩まされてしまう。
最終日になってようやく、足元右側のスイッチを押すことですべてをオフにできることに気付いた。EUの法律でこんなスイッチの存在が許されているのかは知らないのだが、マツダは何らかの法の抜け穴を見つけてこのスイッチを装備したに違いない。
これこそがマツダ流だ。マツダは創業当初、コルクと三輪車の製造を行っており、戦時中には銃の製造を行った。戦争は日本、特にマツダが本拠地を置く広島に多大な被害を与えた。それでもマツダはなんとか自動車メーカーとして生き残り、それ以来、他とは少し違ったやり方で挑戦を続けてきた。
ロータリーエンジンもそのひとつだ。誰もが諦めたロータリーを、マツダだけは作り続けてきた。1970年代にはフォードが資本参加したことで、マツダらしさは失われるかに思われた。ところが違った。マツダは他のメーカーが諦めた低価格な小型2シーターコンバーチブルを発売した。そして今、トヨタと手を組んでいるマツダはコーンスターチ製の内装を開発している。
マツダ3は最近運転した中でも久々の、印象的で満足の行く車だった。静粛性が高く、控えめで、作りが良く、よく考えられていて、EV信者を蹴散らすことができる車だ。しかもこの車では、ソウルレッドクリスタルという、基本的に赤い車が嫌いな私すら認める、最高のボディカラーを選択することができる。
The Clarkson review: Mazda 3 — probably the most amazing car in Britain
auto2014
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