Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
今年のバーレーングランプリの途中、私は元レーシングドライバーのポール・スチュワートと、ピンク・フロイドのドラマーであるニック・メイスンとともに朝食をとった。2人はサーキットでスーパーカーを運転したことについて熱心に語った。
「うまく走らせることができなかった。あるボタンを押したら、トランクのほうからとんでもない音がしてきたんだ。」
ニックがそう言うと、続いてポールが補足した。
「車が複雑すぎて扱えなかったから、結局帰りはタクシーを使ったんだ。」
そんな話を聞いて、私は「最新の車に適応できない年寄り」というポッドキャストの企画を思いついた。
第1回にふさわしい車として、私はマツダ MX-30 e-SKYACTIV R-EV Makotoという車を用意した。最初に私とポールが前席に乗り込んで、その後にニックが後席に乗り込もうとしたのだが、不可能だった。前席は前に倒すことができず、リアドアはあるのだが、ドアハンドルがない(厳密にはあるのだが、車内側にしかない)ため、外から開けることができない。
車を走らせようとしても、エンジンが始動する気配がない。アイドリングストップが作動しているからなのだろうか。それとも、私の操作が間違っていたのだろうか。ひょっとして、鍵が壊れているのだろうか。
MX-30には2種類のモデルが存在する。1種類目は電気自動車で、一般的な車の半分程度しか航続距離がない。もう1種類も電気自動車なのだが、こちらにはガソリンで動く発電用のエンジンが搭載されている。
私が借りたのはより面白そうなエンジン付きのモデルだ。マツダ以外の自動車メーカーは、滑らかながらも燃費性能や耐久性が低いロータリーエンジンに見切りをつけたのだが、マツダだけはロータリーにこだわり続けた。そして、このMX-30には830ccという小型のロータリーエンジンが搭載されている。
では、このロータリーエンジンの仕上がりはいかほどのものなのだろうか。それは分からない。私にはこのエンジンを作動させることができなかった。あらゆるボタン、あらゆるレバーを操作してみたのだが始動しなかった。おそらく、本当に必要な状況以外ではエンジンがかからないのだろう。そして私が乗っている間にそういった状況にはならなかった。
エンジンがかかってほしいタイミングはあった。MX-30で開けた道を走っていると、ゆっくりと走るホンダ・ジャズに追いついてしまった。なので追い越そうとしたのだが、できなかった。後でその原因を調べてみたのだが、どうやらMX-30 e-SKYACTIV R-EV Makoto(LとかGLとかSuperとか、普通のグレード名では駄目だったのだろうか)の最高速度は140km/hらしい。
私やニック、ポールのような年寄りにはMX-30は合わないと分かった。我々のような年寄りは、自転車よりも速く走れる車を求めている。

幸いにも翌日には別の車を借りることができた。車名はあまりにも長く、息継ぎが必要だ。その名も、ホンダ HR-V 1.5 i-MMD Advance Styleだ。ただ残念なことに、名前の長さ以外に語るべきことのない車だった。
その日はサイレンセスターに行って自由民主党の議員に会う予定があったので、そういう意味では適役だった。自民党の議員なら、退屈なホンダ製のハイブリッドカーをさぞ気に入ることだろう。
結局、予定の時間に遅れそうになってしまった。MX-30と比べればHR-Vはロケットのように速いのだが、古き良き時代の車と比べると悲惨なほど遅い。0-100km/h加速は10.7秒、最高速度は171km/hだ。エンジン1機とモーター2機を積んでいて、どうしてこんなに遅いのだろうか。
しかし経済性はどうだろうか。正直、この車の燃費性能についてはよく分からない。公式サイトには、Low燃費が21.7km/Lで、Extra High燃費が14.1km/Lと書かれていた。Extra Highとは何を意味するのだろうか。理解不能だ。
スペックで私が理解できたのは、変速機がCVTであるということくらいだ。30年ほど前には多くの自動車メーカーがCVTを使っていたのだが、ほとんどのメーカーは使い物にならないことに気付いてCVTを使わなくなった。ホンダは未だにCVTを使い続けているのだが、依然として使い物にはならない。アクセルを踏み込むと1.5Lエンジンが唸りを上げ、少し経ってから緩やかに加速が始まる。クラッチが滑り続けているような感覚だ。
サイレンセスターに近づいたので、自民党好みのEVモードに切り替えようとしたのだが、やり方が分からなかった。聞いたところによると、ゆっくり走ればモーターだけで走るようになるらしい。エンジンを動かさないように1km/hで駐車場に停めたところ、自民党員に歓迎された。
マツダ MX-30 e-SKYACTIV R-EV Makotoの車内には、ヴィーガンレザー(そんなものは存在しえない)やリサイクルデニムなどといった、インスタ映えだけを狙ったような素材が使われていた。とはいえ、まともな仕事に就いたこともなく、時間を守れと言われただけでハラスメントだと受け取るような若者なら、こういった素材を使った遅い車を気に入るのだろう。
一方、ホンダ HR-V 1.5 i-MMD Advance Styleはかなりまともだ。タッチパネルは昔ながらの物理スイッチと違ってまともに操作することはできないのだが、それ以外は至って普通だ。しかも、質感はかなり高い。
別にマツダの質感が低いと言っているわけではない。マツダも決して悪くない。しかしホンダには、かつて祖父が買っていたスーツのような安心感がある。
いずれにしろ、私はマツダにもホンダにも興味はない。どちらも今の時代にマッチした車なのだろう。電動だし、無害だし、今必要とされているあらゆる装備(スマートフォン連携機能など)もちゃんと付いている。これに乗れば行きたい場所に移動することができるし、雨が降っていても濡れることはない。しかしそれはバスも同じだ。
コーナリング性能がどれほどかは知らないし、知りたいとも思わない。そもそも、試そうとしたら何らかの安全装置が働いて勝手に減速してしまうだろう。メーターには常に制限速度が表示され、気を失ったら代わりに運転してくれるシステムも付いている。もちろん、こういった機能をオフにすることもできるのだが、その操作をできるのはテクノロジーに強い若者だけだ。しかし、若者はコーナーを速く走ろうなどとは考えない。
なので、いずれポッドキャストで今回の経験について語りたいと思う。ポッドキャストが何なのかはよく分からないが。
The Clarkson review: Mazda MX-30 v Honda HR-V — the battle of the hybrids
auto2014
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