Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、レンジローバー P530のレビューです。


Range Rover

リサの所有するレンジローバーは最近、あちこちの警告灯が点灯するようになった。そろそろ買い換えが必要だと考え、小排気量のディーゼルエンジンを搭載するランドローバー・ディフェンダーを購入するつもりだった。しかし、クリス・パッカムがテレビで不愉快なことを言ったため、彼に対する嫌がらせとして、代わりに最高出力530PSのV8ガソリンエンジンを搭載する新型レンジローバーを購入することにした。

パッカムが地球環境について講釈を垂れた結果、地球環境がむしろ悪化することになったので私の気分は晴れやかだ。それにそもそも、私は本心ではレンジローバーのほうが欲しかった。

ディフェンダーも魅力的な車ではあるのだが、ディフェンダーを買うのは「レンジローバーを買える金がない」と吹聴するようなものだ。もっとも、それは事実であり、私も新車のレンジローバーを購入することはできなかった。最上級グレードともなると20万ポンドを超えるため、私は状態の良い中古車を購入した。

レンジローバーを購入するのは大変だ。2022年にはイギリスで5,000台以上のレンジローバーが盗まれ、サランダに運ばれた。この結果、保険会社は大混乱に陥り、保険金は非常に高額となり、加入することすら大変になった。

苦労せずに自動車保険に入りたいなら、アルバニアで人気のない車を選ぶ必要がある。キアならいいだろう。しかし、パッカムに対する怒りを鎮めるためにはレンジローバーでなければならなかった。インドよりも多く二酸化炭素を排出するV8ガソリン車でなければ駄目だ。たとえ元傭兵を雇って24時間体制で車を警備しなければいけなくなったとしてもだ。

保険の担当者からは鍵のかかったガレージで保管するように言われたのだが、そこまでするつもりはない。新型のレンジローバーは盗むのがかなり難しい。盗難対策のために大金が投資されている。発売以来盗まれたのはわずか3台だそうだ。にもかかわらず、保険会社はカバーをかけろだの、数千ポンドする追跡装置を付けろだのと主張してきた。

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納車日には専用のスマートフォンアプリをインストールさせられた。アプリを使うためには、メールアドレスを入力して、候補の中からパスワードを選ばなければならなかった。パスワードの条件に合うように、ポーランドの町の名前と記号を組み合わせてパスワードを作ることで、私自身がロボットではないことを証明した。

ところが、認証用のメールが届かず、入力をやり直すことにしたのだが、その頃にはポーランドの町の名前も記号の位置も忘れてしまっていた。結局、ディーラーの担当者がノートパソコンを使って手続きをすることになった。これからアプリのパスワードを覚えなければならない。確かWarmątowice Sienkiewiczowskieだったか。そこにいくつかコロンが入っていたはずだ。

悪戦苦闘の末、ようやくアプリが使えるようになった。ところが、不具合が発生してアプリと車の連携がうまくいかず、2週間ほどディーラーに預けることになった。その結果、車がまったく動かなくなってしまった。しかしどうやらこれは仕様のようで、2週間車を使わなかった場合、車が強制的にスリープ状態になってしまうらしい。

アプリを使えばスリープ状態を解除できるらしいのだが、インストールするのに4年ほどかかるようなアプリを使いこなせるはずがない。試すまでもない。そもそもこのアプリはなんのためのものなのだろうか。担当者に尋ねてみたところ、このアプリを使うと、暖房をオンにすることができるそうだ(以前乗っていた17年落ちのレンジローバーはアプリを使わなくてもできる)。それに、どこからでも遠隔でドアを解錠することができるそうだ。

そういえば、私のロンドンの自宅の風呂は、ロサンゼルスからでも遠隔操作で沸かすことができるそうだ。素晴らしい技術だとは思うが、そんな機能をいつ使うのだろうか。

ディーラーの担当者は、困惑している私の姿を見て、遠く離れた国からでも遠隔でドアを解錠できるメリットについて説明してくれた。誰かがコートを車の中に忘れてもどうのこうのと語ってくれた。そんな状況がそうそう起こるとは思えない。なので結局、私のスマートフォンには、長い時間をかけてインストールした、決して使うことのないアプリがまた一つ増えてしまった。

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そんなこんなでようやく車に乗り込めた。キーのボタンを2つ同時に長押しすることで車のリアサスペンションが上がると説明され、担当者が「見ててくださいね」と実演しようとしたのだが、何も起こらなかった。

エンジンが始動していないとこの機能が使えないことが判明し、改めて試してみたのだが、やはり何も起こらなかった。どうやらハザードランプが点灯している状態でないと作動しないらしい。まったく意味が分からない。

続いて、操作系についての説明を受けた。オフロードで使う予定もあると話したところ、担当者はかなり驚いていた。とはいえ、オフロード用の機能は数多く設定されていた。ほかにも、タイヤの影に犬が隠れていないか確認できるカメラまで装備されている。言うまでもなく、これらの機能も大排気量V8エンジンが始動している状態でなければ使えない。

私はこの車のV8エンジンにパッカムと名付けることにした。そうすることで怒りも少しは鎮まった。パッカムが起きている間なら、アプリを介して車の状態を確認することもできるらしい。しかし既にアプリのパスワードを忘れてしまったので、それもできない。

リサは私と違ってこういった電子機器に強いので、レンジローバーの機能についてもすぐに理解できると思っていた。ところがリサは、この車に乗って出掛けて5分もしないうちに戻ってきた。そして前のレンジローバーに戻してほしいと言ってきた。

なにか問題でもあったのか?
この車、リバースに入れられないのよ。