Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、フェラーリ・プロサングエのレビューです。


Purosangue

大抵の人は、フェラーリの名声はレースで築かれたものだと考えている。フェラーリ自身もそうであると信じている。けれど、私はそうは思わない。

メルセデスは長らくレースに出場している。ルノーもそうだ。トヨタも、フォードも、ジャガーもレーシングチームを保有しているが、どのブランドもフェラーリと同格には扱われない。要するに、フェラーリに対する評価は、レース以外のどこかで築かれたと考えられる。

1950年代後半から1960年代にかけて、ジェット族というものが誕生した。裕福な若者たちは、サントロペで朝食をとったあとにヘリコプターで移動し、ミラノで夕食をとることができるようになった。さらに、コカインという薬物の登場により、こういったことを日常的にできるほどの活力も得ることができた。

彼らはコモ湖でリーヴァ・アクアラマに乗り、想像を絶するほど豪華なパーティーに参加した。ピーター・サーステットの『Where Do You Go to My Lovely』の世界だ。中にはマセラティに乗っていた人もいたが、大半はフェラーリに乗っていた。

ある男はパリのナイトクラブでバックギャモンに興じていたのだが、午前3時になって、午後にモンテカルロでテニストーナメントに出る予定だったことを思い出した。友人たちは「間に合わない」と断言したが、彼は急いで店から出て自分のフェラーリに飛び乗った。結局、彼はテニストーナメントに参加することができた。

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フェラーリの名声を築いたのは、ミハエル・シューマッハやファン・マヌエル・ファンジオ、ヴォルフガング・フォン・トリップスであると考えている人もいるだろう。しかし、少なくとも1995年にフェラーリ 355を買った私は、富豪の夢を見てフェラーリを選んだ。

ここからが本題だ。フェラーリの最新モデル、名前の発音はよく分からない。ポカホンタスだろうか。プルリエント(猥褻)だったかもしれない。ともかく、これは真っ当な4人乗りの、快適なSUVだ。ここで疑問が生じる。スポーツカーやグランドツアラー、スーパーカーのメーカーであるフェラーリが、どうしてこんな車を生み出したのだろうか。ジミー チュウが長靴を作るようなものではないだろうか。

理由は単純だ。金のためだ。フェラーリのマーケティング部門の人間は、フェラーリの優良顧客(GTOを6~7台、スーパーファストを2台保有しているような人)は大半がベントレーのSUVを保有しており、雨が降っている日や曇っている日、あるいはなんでもない日の足として使っていることに気付いた。フェラーリはここに商機を見出し、ボンネットに跳ね馬のエンブレムをあしらったベントレー式SUVを発売することにした。

プジーサソングのエンジン始動音が静かなのもこれが理由だ。それどころか、スポーツモードにしてアクセルを踏んでも大した音はしない。ちょっとした破裂音は聞こえるのだが、エンジンがポニーではなくサラブレッドであるという漠然とした感覚がかろうじてあるに過ぎない。ほとんどの状況、ほとんどの走行モードで、プルダンガの走りは落ち着き払っている。

実用性も高い。シートは4座がそれぞれ独立しており、後部座席に身長180cmの成人が乗ったとしても、ヘッジファンドの仕事の疲れを癒やすことができる。フェラーリでありながら、この車は人に運転させるという用途が想定されているようだ。

快適性は非常に高い。乗り心地はベントレーくらい良いし、荷室も広く、リアシートを倒して長物を積むこともできる。このように、プリングルスソーセージには現代のSUVらしい特徴が揃っているのだが、見た目はベントレーやレンジローバーとは全く異なる。見事なデザインだ。強調されたサイドシルやスーサイドドアのおかげで車高は低く、そして小柄に見える。実のところ、背は高いし、巨大なのだが。

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一般的なSUVとの違いは他にもある。ピューリタニカルはオフロードでの走行を想定していない。フェラーリの担当者に私の農場で走らせてみていいか尋ねたのだが、答えはノーだった。この車はオフロードカーなどではなく、グランドツアラーだ。

4WDシステムも普通とは違う。前後輪の駆動はそれぞれが独立しており、5速に入れると前輪は一切駆動しなくなる。このシステムは非常に複雑なのだが、フェラーリによると、通常の4WDを採用した場合、エンジンの下にプロペラシャフトを配置する必要があるため、エンジンの搭載位置が高くなってしまうそうだ。そうなればボンネットやフェンダーの位置が高くなってしまい、デザインに悪影響が出てしまう。イタリア人にとっては、見た目こそがすべてだ。

サスペンションはなおのこと異常で、一般的なスタビライザーやダンパーは存在せず、車体の姿勢制御は48Vモーターによって駆動するネジの動きとスプールバルブ技術によって行われる。簡単に言うと、車が右に曲がるとき、車両左側のネジが伸びて車体を水平に保つ。これによってコーナリングスピードが向上し、乗り心地も良くなる。この技術を用いれば、4輪のうちどれかが衝撃を受けたとしても、他の3輪には影響がない。不思議かもしれないが、実際、この車はかなり速く走ることができる。

6.5Lという大排気量のV12エンジンは、最高出力725PS、最大トルク73kgf·mを発揮する。普通のフェラーリだと恐ろしいくらいの数字だが、四輪駆動システムやネジ式のサスペンション、それに静かな排気音が組み合わさることで、ほとんど怖さは感じない。

結論として、ペリーウィンクルは非常に優秀な車だ。速くて快適で、先進性もあるし、見た目も良く、実用性も高く、そして…非常に高価だ。レザーにステッチを入れたり、家具に付いているキャスターよりまともな車輪を付けようと思ったら、50万ポンドはくだらない。あまりにも高価だ。けれど、1965年にアンティーブで幅を利かせていた若者たちの姿を思えば、それくらいの値段を払う価値はありそうに思えてしまう。


The Clarkson Review: Ferrari Purosangue — four seats, four doors but very fun