Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
ピックアップトラックの購入を検討している人がいたら、よく考えてみてほしい。今、自分の車の荷室に何が載っているか思い出してほしい。大して荷物など載っていないはずだ。せいぜい、上着と変なシミの付いた古新聞くらいだろう。そこから導き出される結論は、ピックアップトラックなど不要だということだ。
言うまでもなく、アメリカの田舎町となると話は別だ。そこの人たちは、普段から藁束やリーフブロワー、スノーモービル、チェーンソー、箱入りのビール、デッキチェア、セミオートマチックライフル、それに3~4頭の番犬を車に載せている。だからアメリカ人はピックアップトラックを必要としている。南アフリカやオーストラリアでも同じことが言える。
田舎に住む人は、柵用の木材とそれを設置するための工具類を常に持ち歩く必要がある。柵は頻繁に倒れるため、常に修復しつづけなければならない。おかげで着飾る暇もなく、アメリカ人は常にチェックのシャツと汚れた野球帽を着用している。
しかし、イギリスでは事情が異なる。どこに住んでいようと10km圏内に必要な店はあるし、どの家も舗装された道路沿いにあるので、友人に会うために18時間かけて大地を横断する必要もない。
それゆえ、イギリスにはピックアップトラックというものが存在しなかった。文化的なヨーロッパ人である我々は、ピックアップトラックに乗って荒野を駆け回りたいなどとは思わない。フォルクスワーゲン・ゴルフのほうがずっといい。
もちろん、イギリスにも仕事でピックアップトラックが必要な人はいる。しかし実際のところ、森に住んでいるような人が乗るのは、トタンでできたスバル車や古いランドローバーだった。普通の人間はピックアップトラックなど決して欲しがらない。

ところが、今やスバルは普通の車を作るようになり、ランドローバーはディフェンダーを街乗り用の車として作るようになった。その結果、田舎者たちの乗る車の選択肢がなくなってしまった。そうして、彼らはこぞって三菱 L200(日本名: トライトン)に乗るようになった。知り合いの農家は皆、一家に一台L200を所有している。唯一の例外はカレブ・クーパーだ。彼は2台持っている。
彼らがL200を気に入っている理由は私にもよく分かる。信頼性、コストパフォーマンス、積載性能、牽引性能、すべての面で優れている。しかし、何よりの魅力はそのシンプルさにある。
しかし、三菱はイギリス市場から撤退してしまい、田舎者たちは再び代わりとなる車を探さなければならなくなってしまった。しかし困ったことに、代わりになる車など存在しない。この国でピックアップトラックが必要な人が求めているのは、あくまで安い車だ。飾り物などいらない。余計な装備などいらない。しかし、そういう車は自動車メーカーにとっては利益にならない。自動車メーカーが売りたいのは、Apple CarPlayやクルーズコントロールやパワーテールゲートの付いた車だ。オプション満載の車だ。
それゆえ、自動車メーカーは農民ではなく、一般人にピックアップトラックを売ろうとした。現にアメリカではそれが成功している。4人乗りで、レザーシート、ナビ、エアコン、シートヒーター&ベンチレーター、パワーシートの付いたピックアップトラックを売ろうとした。数年前、日産やフォルクスワーゲン、メルセデスはそれを実行に移したのだが、失敗した。まともに駐車できないほど巨大で、地獄のような乗り心地の車を、そもそも上着と変なシミの付いた古新聞くらいしか車に載せないイギリス人が必要とするはずがなかった。
フォードは巧みな購入プランを提示することで、フォード・レンジャーを売り続けている。一方、いすゞは別の方法を選んだ。今回の主題となっているD-MAXは、収益性がギリギリの農家向けモデルとして登場した。
その後、アイスランドのチューニングメーカーであるアークティック・トラックスがD-MAXに手を加えた。私とジェームズ・メイが北極に行ったときに乗ったトヨタ・ハイラックスを改造したのもアークティック・トラックスだ。この企業は、D-MAXに巨大なタイヤを装着した。そうして誕生したD-MAX AT35には、その名の通り、脅威の35インチという巨大なタイヤが付いている。

これだけのタイヤを装着するためには、大幅な改造を加えて車高を上げる必要があった。おかげで、セントポール大聖堂の上を走っても十字架にぶつかることはない。サスペンションはビルシュタイン製のものに変更されている。しかし、いずれにしても分厚いタイヤがあらゆる衝撃を吸収してしまうため、サスペンションはあまり意味をなさない。この車でレンガを踏んでも気付くことはないだろう。
荷室には、オーストラリアの部品メーカー、ARBが手掛けたスライド式のキッチンユニットが装備され、ルーフにはテントまで付いている。ちなみにこれらはセットのオプションで、価格は6,000ポンドとなる。
Apple CarPlayやナビ、エアコン、さらにはテントまで付いた豪華仕様を売ることで、いすゞは利益を確保することができ、結果的に農業・林業従事者のための貧乏仕様を販売することができる。
ただし、AT35には問題点もある。この車は常に警報音を発している。制限速度に達すると警報が鳴り、バックすると警報が鳴り、乗員が呼吸をするだけでも警報が鳴り、私は1kmも走らないうちに発狂してしまった。
1.9Lエンジンのせいで私はさらにおかしくなった。誤植ではない。この車のエンジンの排気量はゴルフよりも小さい。そのうえ粗くて弱々しいエンジンだ。しかも1速がショートすぎるので、走り出して1mで2速に変速しなければならない。AT仕様のほうがましらしいのだが、そちらもかろうじて0-100km/h加速ができる程度の遅さだ。
幸い、アークティック・トラックスはトヨタ・ハイラックスの改造車も手掛けており、こちらには本物の馬力を発揮する本物のエンジンが搭載されている。
うっかり「ピックアップトラックなど、機関銃を載せるための車輪の付いた土台に過ぎない」といったことを書かずに記事が終わってしまった。私も歳をとったものだ。
海外じゃ乗用車作ってるのは知ってますが日本ではトラックメーカーですからね。
「ピックアップトラックなど、機関銃を載せるための車輪の付いた土台に過ぎない」
よく分かってらっしゃる。流石です。
auto2014
が
しました