Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、メルセデスAMG GT63S Eパフォーマンスのレビューです。


AMG GT63S

昨年の休暇では、ポルシェ・パナメーラで南フランスまで出掛けたのだが、これが失敗だった。アンティーブやジュアン=レ=パンなど、行く先々で駐車場が見つからず、同行者と何度も口論になってしまった。

アンティーブで駐車場を見つけるのは至難の業どころか、そもそも不可能だ。なので今年は歩いて散策しようと考えていたのだが、8月の南フランスの気温は岩をも溶かすほど暑くなってしまったため、それも不可能だった。

初日の夜、アンティーブの市場近くにある馴染みのイタリア料理店に歩いて行こうとしたのだが、到着する頃には服のまま水に飛び込んだかのように汗だくになり、食欲など失せて点滴が必要になった。

翌朝、貸別荘のガレージに充電中の自転車があるのを見つけた。電動アシスト自転車については本で読んだことがある。電動アシストがあれば疲れずに移動できるし、街で駐輪スペースを見つけるのも簡単だろう。

その日の夜、自転車で出掛けた。登り坂も難なく走ることができた。電気の力でペダルにほとんど力を入れなくても進むことができた。自転車で坂を登っているにもかかわらず、私の太腿は一切悲鳴を上げることはなかった。驚くべきことだ。

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その後、下り坂に差し掛かったので慣性で走ろうと思ったのだが、どうやらこの自転車ではそれができないらしい。この自転車は下り坂では充電に全振りするようにプログラムされているらしく、ペダルを漕ぐのをやめるとすぐに停止してしまった。

走り続けるためには、下り坂であろうとペダルを漕ぎ続けなければならない。そうこうしているうちに股関節から摩擦熱が発生し、自分の肉が焼けそうになったので、ギアを上げることにした。しかし今度はどんどんと加速していき、気付けば1100km/hを超えていた。

そのとき、私は短パンとTシャツを着ていた。私はそもそもサイクルウェアというものが嫌いなのだが、音速の壁に近づくにつれ、全身レザーの服とヘルメットで防御する必要性を実感した。

フランスの大部分では、幹線道路を走る車が側道から出てくる車に道を譲るべきだという馬鹿げた風習が失われている。しかし、アンティーブではまだその考えが根付いている。自転車でリチャード・ノーブルを超える速度を出していた私は、ボロボロのクリオに乗った高齢者が側道から飛び出してこないかがずっと心配だった。

レストランまでの3kmの道程を4秒で走りきった私は、空気抵抗によって傷んだ髪と乾いた目を癒してから、美味しいラグーパスタとビールを味わって帰路についた。帰り道は登り坂だけなので問題ないだろう。登り坂なら電動アシスト自転車をちゃんとコントロールできるはずだ。そう思っていたのだが、なんとこの自転車、電気で動くにもかかわらず、ライトが付いていない。なのでスマートフォンのLEDライトを点灯させたままポケットに入れ、ロザリオを握りしめて走ることになった。

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しかし、それでも問題が起きることはなかった。南フランスの人々の大半は自動車を使うことを諦めていた。ルノー・トゥイジーやシトロエン・アミも見かけたのだが、大半はもっと小さな乗り物を使っていた。

ジュアン=レ=パンに向けて500km/hほどでゆっくり走っていると、電動一輪車のような乗り物に乗っている男に追い越された。歩道を240km/hくらいでのろのろ運転する電動スクーターも大量に見かけた。やがて喧騒から離れて車も人もいなくなると、むしろ心地よささえ覚えるようになった。

話は変わるが、今回の主題であるメルセデスAMG GT63S Eパフォーマンスは、テキサスのモンスタートラックフェスティバルと同じくらい電動アシスト自転車とは対極的な存在だ。

この車の価格は17万8000ポンドで、ハイブリッドカーではあるのだが、このシステムはメルセデスAMG史上最強の車を作り上げるために開発された、言うなれば武器化された環境主義だ。充電器に行けばバッテリーを充電することもできるのだが、これはあくまで、オックスフォードのような頭のおかしい地域で無料駐車場を確保するために付いているものだ。バッテリーだけではせいぜい10kmくらいしか走れないだろう。

電気モーターはあくまで、ツインターボV8エンジンが生み出す最高出力639PSに、さらに200馬力を上乗せするためだけに存在している。モーターが生み出す爆発的なトルクは、ルイス・ハミルトンのために開発されたシステムによって瞬時に後輪に伝達される。

アクセルを踏めば、直後にジョニー・ウィルキンソンに背中を蹴られたかのような衝撃を感じる。加速を始めて3秒後には前輪にも駆動力が伝わり、100km/hに達する。ただ、その程度の速度であれば電動アシスト自転車に簡単に抜かされてしまうだろう。

インテリアも魅力的だ。エアコン吹出口はジェットエンジンのような形でバックライトも付いており、ダッシュボードは全面ガラス張りとなっている。すぐにでも走り出したいと思ったのだが、どのスイッチもイグニッションをオンにしなければ点灯しない。しかしイグニッションスイッチはどこにあるのだろうか。

ステアリングの裏側にスイッチを見つけ、それを押したところ、他のスイッチも点灯した。しかし、どれも意味のあるものには思えなかったので、ステアリングとペダル以外は一切いじらずに運転した。

この車にはどこか物足りなさがあった。速いのは確かだ。相当に速い。けれど、その性能のほとんどが、性能を生み出すために搭載された部品の重量のために相殺されているように感じた。コーナーでの軽快さはないし、AMGらしい咆哮もない。

この車は、現代の車に蔓延る典型的な問題を抱えている。複雑すぎて、大きすぎて、重すぎる。もちろん、だからといって電動アシスト自転車が正しい選択だと言っているわけでもないが。


The Clarkson review: the Mercedes-AMG GT 63. Not as thrilling as riding an ebike in your swim shorts