Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、ジャガー F-TYPE コンバーチブル 3.0の愛車レビューです。


F-TYPE

フランスやイタリア、カリフォルニアといった晴れの日の多い地域を差し置いて、イギリスでオープンカーが人気を博している理由は謎とされている。しかしその理由は単純だ。普段から晴れている場所では、日に当たるという体験に特別感はない。むしろ日の当たらないエアコンの効いた室内でゆっくりしたいと思うはずだ。

しかし、ここイギリスにおいては、大雨が止んでも小雨が降り続けるだけだ。そんな国で、貴重な晴れ間を鉄の箱の中でなど過ごしたくなどない。

ところが最近は状況が変わってきている。2017年にはイギリスで5万台近くのオープンカーが売れたのだが、2022年にはその3分の1まで落ち込んだ。かなりの落ち込みであり、世間では、トーリー党や地球温暖化、皮膚癌予防キャンペーンなどが原因だと言われている。

そんなのはでたらめだ。オープンカーの売り上げが落ち込んだのは、オープンカー自体が変わってしまったからだ。シティボーイが325iコンバーチブルに乗ってフラムを駆け抜けたり、子供たちがMX-5(日本名: ロードスター)に憧れるような時代は終わった。もはや車は自由の象徴などではない。今や車は、高価で無駄なもの、公害の原因、そして右翼と左翼の政治的争いの手段でしかない。

その結果、自動車メーカーは悲観的に、自罰的になり、華やかで妖艶な車を作るのをやめ、地域社会で勤勉に働く持続可能な家族のための車を作るようになった。今や、コストパフォーマンスと燃費性能、そしてなにより環境性能がすべてだ。そんな世界において、髪を靡かせて走るオープンカーに居場所などない。

ミニが電気自動車のオープンモデルを販売することはありえるかもしれないが、それに何の意味があるのだろうか。電気自動車は自由の象徴などではなく、ただの家電製品だ。電気自動車のコンバーチブル仕様など、屋根のない電子レンジや幌付きの冷蔵庫と変わらない。

おそらく、数年後には新車でオープンカーが買えなくなることだろう。もはや中古市場でしか手に入れられなくなるはずだ。

話は今年のはじめに遡る。私はグランド・ツアーの撮影のためにモーリタニアに行った。現場にジャガー F-TYPE コンバーチブルに乗った私が現れると、クルーたちは大いに驚いた。ちなみにここで言う「驚いた」には「歓喜のあまり」という修飾語が付く。彼らはジャガーがサハラ砂漠に耐えられるはずなどなく、私はハゲタカのご飯になると考えたようだ。

しかし、彼らの予想は外れた。ネタバレになってしまうかもしれないが、今回使用した走行距離11万キロのジャガーは、旅程中に壊れたりすることは一切なかった。坂を越えてジャンプしたり、岩だらけの断崖絶壁地帯を走ったりしたにもかかわらずだ。スペシャル番組で使った車の中でも前代未聞の頑丈さだった。まるでタイソン・フューリーだ。

後で調べてみたところ、ジャガー・ランドローバーはすべての車で特別な耐久試験を実施しているらしい。その試験というのは、高速で縁石に突っ込んだり、荒れた路面を走らせたりするもので、元々はレンジローバーのために考案された試験なのだが、ジャガーのスポーツカーでも対応できないといけないそうだ。F-TYPEがやたら重いのもそのせいかもしれない。あちこちに強化のためのビームやクロスメンバーが設置されている。

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私は昔からF-TYPEが好きだった。史上最も美しい車と言ってもいいかもしれない。アフリカから帰ってきて、もう我慢できないと感じた。買わずにはいられなくなった。記事冒頭に載っている写真は私のF-TYPEだ。最初、ディーラーから27,500ポンドの価格を提示されたのだが、実際に払ったのは25,000ポンドだった。

買ったのはV8モデルではない。V8など何の意味もない。音も加速性能も大して良くならないのに、燃費ばかり余計に悪くなってしまう。しかもパワーシートもなく、メクラ蓋の付いた貧困仕様なのだが、よく考えてみてほしい。トヨタ・プリウスよりも安い値段で、走行距離わずか3万キロ、最高出力340PSのスーパーチャージャー付きV6スポーツカーを手に入れることができたのだ。

クラシックカーではないので、軋みやガタつきや雨漏りもないし、グローブボックスに紙の地図を入れておく必要もない。ナビもエアコンもエアバッグもBluetoothもちゃんと付いている。まだ10年しか経っていないので、十分に現代的で新鮮だ。動かない箇所はないし、アフリカでの経験を踏まえると、かなり頑丈なはずだ。

もちろん、いくつか問題点はある。トランクは狭いし、スペアタイヤは付いていないし、乗り心地は硬い。私の買った白いボディと黒いホイールという組み合わせもどうかと思う。しかし、新車が85,000ポンド以上する車をわずか25,000ポンドで買えたというのは驚きだ。どれだけ考えてみても、これ以上にコストパフォーマンスの高い車はないと思う。私の中に流れるヨークシャー人の血も非常に満足している。

オープンカーを屋根を下ろした状態で運転するのは、裸で車を運転するようなものだ。衆人環視の中、自尊心の存在する人間がやるべき行為ではない。しかし、私はもう63歳になった。そんな人間が田舎道をオープン状態で運転したところで、誰も関心など持たないだろう。

先日、健康診断を受けたのだが、医者にはビタミンDが欠乏している以外、健康そのものだと言われた。ひょっとしたらオープンカーはスパなのかもしれない。太陽の光に満ちた健康ランドだ。きっと夏のお供にぴったりだろう。

しかし、唯一問題があった。この車が届いても夏という季節は来なかった。7月は寒く、灰色で、常に雨模様だった。8月も大差なかった。それでも私はオープンにして走った。雨が車内に入らないくらいにスピードを上げて。

走りに関しても言及しておこう。と言っても、他のオープンカーと何ら変わりはない。50km/h以上出すと、マツダ MX-5もメルセデス SLも差はなくなる。すべての感覚が風に支配され、ハンドリングの粗やトルクの穴になど気付けない。くすぐられているときに細かいことを考える余裕がないのと同じだ。

私はF-TYPEが大好きだ。見た目が好きだ。排気音が好きだ。スピードが、力強さが、そしてオープンカーでしかできない経験が大好きだ。しかし、なにより気に入っているのは、見た目も感触もほとんど新車なのに、わずか25,000ポンドで買えたというお得さだ。


The Clarkson review: my new old Jaguar F-Type is a bit of all white