Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、アルファ ロメオ・ジュリア コンペティツィオーネのレビューです。


Giulia

今回の主題となっているアルファ ロメオには非代替性トークンが搭載されているらしい。ここでひとつ疑問が生じる。非代替性トークンとは何なのだろうか。

存在しない何かにお金を払い、その対価として、存在しない何かを所有しているということを証明するメールを貰える。私の知る限りでは、そういうもののことだ。

おそらく私の認識は間違っているので、ネットで調べてみたところ、Wikipediaには「非代替性トークン(NFT)とは、ブロックチェーン上に記録される一意で代替不可能なデータ単位である」と書かれていた。ブロックチェーンが何なのかも分からなかったので、調べてみたところ、「暗号学的ハッシュによって安全にリンクされた、レコードのリストが増大する分散型台帳」であると書かれていた。

では、暗号学的ハッシュとはなんだろうか。Wikipediaによると、「ハッシュ関数のうち、任意の長さの入力を固定長の出力に変換する関数」のことらしい。

10~15分くらい真面目に調べてみて、最終的に私の認識は間違っていないということが分かった。非代替性トークンとはただのナンセンスだ。同じ結論に至ったのは私だけではなく、昨年はNFT市場の価値が90%も下落している。存在しない絵を買っても、絵を所有していることになどならないということだ。

では、アルファ ロメオに搭載されているものは一体何なのだろうか。何度も文章を読み直してみたのだが、さっぱり分からない。車の点検記録の管理に関係するものだということはなんとなく理解した。しかし、アルファ ロメオという会社は方向指示器の配線すらまともにできない企業であり、そんな企業が自社の車を電子的に管理できるなどとは到底思えない。手書きでノートに記録したほうがよっぽどましだ。

rear

なので、そんな話題は無視して、アルファ ロメオの得意分野の話に移ろう。アルファの得意分野といえば、私のような車好きが買いたくなる車を作ることだ。今回の主題となっている車も例外ではない。いや、それ以上の存在だ。

ジュリアの通常モデルには小さな欠点があった。それを購入した場合、「本当はフェラーリの血を引くエンジンを載せたクアドリフォリオが欲しかったけど、金がなかったので妥協した」と言っているようなものだ。アルファの標準車を買うのは、イングランドで休暇を過ごすようなものだ。

「私は南フランスよりコーンウォールのほうが好きなんだよ」なんて言っても、そんなのは嘘に決まっている。

ともかく、新型モデルでは標準車も華やかな見た目になっているので、クアドリフォリオと並べてみてもそれほど貧弱には見えない。私はそんなジュリアの「コンペティツィオーネ」というグレードに試乗した。

わずか4年後にはアルファ ロメオの全モデルが電気自動車になる予定らしく、現行モデルの改良に大金を費やす予算など存在しなかった。なので、ジュリアも大した変化はしていない。ヘッドライトのデザイン変更と、グレード構成の見直し、新ボディカラーの追加くらいだ。

内装に目を向けると、メーターは液晶表示になり、現代の車らしく、特に理由もなく多種多様な警報音が鳴り響く。幸い、ほとんどの警報をオフにすることができるのだが、コンピュータ工学の専門家がやったとしても設定に1時間はかかる。

interior

中身はまったく変わっていない。2Lターボエンジンは最高出力280PSを発揮し、カーボンファイバー製のプロペラシャフトを介して後輪を駆動する。前後重量配分は50:50で、ZF製のトランスミッションと機械式LSDを搭載している。それでも、これはあくまで標準車だ。

ただ、標準車も悪いことばかりではない。この車には軽やかさがある。浮くように、踊るように走る。エンジンも、1970年代のツインカムのような音こそないものの、思わずシフトダウンしたくなる、背筋をなぞるような音を響かせる。

それに、標準車でも速い。あまりに速かったので、間違えてクアドリフォリオに乗ってしまったのではないかとさえ思った。

数日間試乗して、これがクアドリフォリオの単なる下位互換ではないということを理解した。まったく別種の車だ。クアドリフォリオは全身を刺激し続ける車であるのに対し、標準車には遊び心や楽しさがある。正真正銘、優秀なスポーツセダンだ。しかも、クアドリフォリオより2万ポンド以上安い。

アルファ贔屓の私が言っても説得力はないかもしれない。今やヴォクスホールと同系列になってしまったにもかかわらず、未だにミラノの風を感じることのできるアルファ ロメオが私は大好きだ。

けれど、私のアルファに対する愛は決して盲目的なものではない。ジュリアのナビ周りは安っぽいし、エンジンの設計も7年前のものなので、環境性能が現在の無意味な規制の基準を満たせず、ビジネス用途だと税制的には不利になってしまう。けれど、真の車好きならそんなことは気にしないはずだ。

この車なら、標準車を購入したのはお金がないからではなく、小排気量モデルの軽快さに惚れ込んだからだと、胸を張って語ることができる。

ここで最大の疑問が生じる。2Lクラスの中型セダンを購入するとき、あらゆる点を考慮しても、本当にBMW 320iよりジュリアのほうが良い選択なのだろうか。BMWは見た目が良く、走りも洗練されており、作りもしっかりしている。すべての面で完成度が高い。しかし、誰かに「何乗ってんの?」と尋ねられたとき、「BMW」と「アルファ ロメオ」、どっちだと言いたいだろうか。

あるいは、非代替性フェラーリだろうか。