Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、レクサス NX450h+ F SPORTのレビューです。

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今回の主題となっている電化製品に興味を持っている人なら、私が最近購入した新しい冷蔵庫にも興味があるはずだ。私が購入したリープヘル IXCC 5155 Prime BioFresh NoFrostには、GlassLineドアポケットや70Lの冷凍室が付いているにもかかわらず、年間消費電力はわずか188kWhだ。

レクサス NX450h+ Fスポーツのようなプラグインハイブリッドカーをレビューする際は、このような専門用語を理解して使いこなす必要がある。まず主なスペックから説明しよう。230V/32A接続の場合、出力6.6kWの車載充電器を用いることで、バッテリーの充電はわずか2時間30分で完了する。WLTP複合サイクル基準だと、都市部の場合、バッテリーのみで最高98km走行することができる。これはきっと素晴らしいことなのだろう。しかし私のような人間にとっては、この車のドアハンドルが使いものにならないことのほうが重要だ。

ドアハンドル自体はまったく動かない。ドアハンドルの内側に小さなスイッチがあるが、それを押しても何も起こらない。2回押しても変わらない。そうこうしているうちに脇をバスが通り抜け、水しぶきをかけられてしまった(そのときいたのはマンチェスターだったので雨が降っていた)。そして自転車乗りからは邪魔だと暴言を浴びせられる。焦りながら再びスイッチを押すのだが、やはり何も起こらない。

レクサスによると、このドアは襖を開ける所作をイメージしたものらしいのだが、それは間違いだ。日本の旅館にあるような襖はちゃんと開けることができる。あらゆるものを電動にしたがるような電気アタマが設計したNXとは違う。

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しかし、最大の問題は車内からドアを開けるときに起こる。ドアハンドルのように見えるものはあるのだが、それはドアハンドルではない。そこにはスイッチがあるだけだ。それはドアを開けるためのスイッチなのだが、センサーが自転車を感知するとドアは開かない。今の時代、自転車はそこかしこを走っているため、目的地に到着してから翌朝の4時まで車に閉じ込められてしまう。それに、自転車がいなくなったところで結局ドアは開いてくれない。

試乗車が私のもとに来たあと、私はマンチェスターに行くために必要なものを車に載せた。スーツケースも載せ終わり、リサが家を出る準備をするのを待った。彼女は家を出るまで45分という新記録を達成し、ようやく車に戻ると、ドアがロックされていた。キーを車内に置いていたにもかかわらずだ。

どうやら、エンジン始動などに関与するバッテリーは駆動用バッテリーとは別にあるようで、エンジンが稼働していなかったためにこのバッテリーが上がってしまったらしい。しかし、その最後の電気を振り絞ってやったことが私を締め出すことだったのは、まるで意味が分からない。瀕死の人間が最後の力を振り絞って自分の家に火をつけるようなものだ。

結局、荷室から車に乗り込み、リアシートを乗り越えてキーを取り出し、荷室から車を出て、ちゃんとした車(古いレンジローバー)を使ってNXのバッテリーに電気を供給した。ここまで読んだ読者はきっと、私が怒りでNXを破壊したと想像することだろう。しかしこの車は長距離移動には適していた。静かで乗り心地も良く、経済性も高い。私の計算が正しければ(基本的に間違っていると思ってもらったほうがいい)23km/Lという燃費を実現していた。

しかし、高速道路を走ったあとには再び苛立ちはじめた。ナビ操作をするためにスイッチを押すたび、ピーピーと音が鳴る。それに、車が事故を起こしそうだと判断したときにも(つまり常時)警告音が鳴る。こういった音をオフにする方法が分かるまで2日かかり、ようやく警告音が聞こえなくなったと思ったら、今度はエンジン音の不快さに気付いてしまった。

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しかも、エンジンはアクセル操作とは無関係に回転するし、そもそもギアが存在しないのにどうしてシフトパドルなどが付いているのだろうか。新居のタッチパネル操作式の暖房システム以上にこの車が嫌いになってしまった。

純粋な内燃機関が恋しくなるのは私だけではないはずだ。3日間NXに乗ったあとなら、トライアンフ・ドロマイト スプリントだろうが、ランチア・フルヴィアだろうが、キーを捻ってすぐ走り出すことのできる、ドアハンドルが文字通りドアハンドルである車ならなんでも喜んで受け入れられそうに思えた。

最近の車らしくNXにも車線逸脱防止機能が付いており、車が車線から外れそうになると、車線逸脱を防止するためにステアリング操作に介入が起こる。ただその介入はただの補助ではなく、無理やり引っ張られるような感覚だ。田舎道でシカに出会い、回避しようとステアリング操作をしたらどうなってしまうのだろうか。正直なところ、私には分からない。『Who Killed Bambi?』の答えはレクサスなのかもしれない。

確かに、この車はかなり先進的で、作りもかなりしっかりしている。複雑なハイブリッドシステムの電子制御システムも相当に手が込んだものだ。しかし、果たしてそんなものが必要なのだろうか。地球環境を守りたいなら、あるいは燃料代を節約したいなら、自転車や電車に乗ればいいはずだ。

NXは竹馬を履いたプリウスであり、顔を派手に整形したUberタクシーだ。そして私にとっては、煩わしい電子部品や使えないドアハンドルが付いているだけの、冷蔵庫と同種の魅力しかない白物家電に過ぎない。雨に濡れることなく、23km/Lの燃費を達成できる(慎重に運転すればだが)移動手段が欲しいなら、どうぞNXを買えばいい。NXなら、この要求をしっかり叶えてくれる。

けれど、そんなNXの横を、私は16バルブのシングルカムエンジンの音を響かせながら、ドロマイト スプリントで駆け抜けていくだろう。あなたが車線逸脱防止システムをオフにする方法で悩んでいる脇を、私は満面の笑みを湛えながら駆け抜けていくだろう。

もう、車を楽しむことなどできない。道路から車を排除しなければならない。そんな風に言われているのは理解している。けれど63歳になった私は、過去が恋しくて仕方ない。


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