Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
いきなり本題と関係ない話になってしまうが、ある寒い日曜日、私は暖房をつけて『空軍大戦略』を見ることにした。オリヴィエの情けない姿や、ロバート・ショウのセーターは何度見ても飽きることはない。
言うまでもなく、この映画を見るときに字幕など必要ない。当時の映画の台詞に聞き取れないような呟きなどないし、そもそも私はこの映画の台詞をほとんど暗記している。ところが、見始めたときに字幕が流れており、消す方法を調べるのが面倒だったので字幕付きで見てみることにした。
残念なことに、この字幕を書いたのはおそらく英語のネイティブスピーカーではなかったのだろう。あるいは私くらい耳が遠かったのかもしれない。いずれにしろ、字幕のせいでこの名作映画がコメディになってしまった。字幕ミスが出てくるたび、ついつい笑ってしまった。God strewth(驚いた)がGod's truth(絶対的真理)になったり、Heinkel(航空機会社名)がiron korps(鉄の軍団)になったりしていた。2時間ほど時間があるときに是非とも確認してみてほしい。
主要キャストのうち何人が今でも生きているのか確認するのもいいだろう。おそらくイアン・マクシェーンとマイケル・ケインの2人だけだろう。それから、クリストファー・プラマー演じるスピットファイアの操縦士と、MG PA(TAだと勘違いしている人が多いが、正しくはPAだ)以上に相性のいい車と男が存在するかも考えてみてほしい。
彼だけでなく、『殴り込み戦闘機隊』ではケネス・モアもMGに乗っていた。ちなみに彼が演じたダグラス・バーダーも実際にMGに乗っていたそうだ。当時、若い男たちは皆スポーツカーに乗っていた。

スポーツカーはかつて、荒々しくエンジンを響かせながら、明確なメッセージを発信していた。俺の人生に実用性など不要だ。自由気ままに風を感じて、昼はドイツ野郎に銃口を向け、夜は愛する女にナニを向けるんだ、と。
スポーツカーの魅力がいつから薄れてきたのかは分からない。いつの間にか、スザンナ・ヨークと寝ることよりも、地球上の気体の組成のほうが重要であると考えられるようになってしまった。
ところが、ここ最近はその限りではなさそうだ。1月と2月は需要と供給の関係で統計結果を全面的に信用できないのは理解しているが、電気自動車の販売台数は明らかに減少している。人々は電気自動車がさほど環境に優しいわけではないことや、コストがかかりすぎることや、充電をすることが難しいことに気付きはじめている。充電スポットは明らかに不足しているし、仮に充電器を見つけたところでほとんどが壊れている。
つまり、スポーツカーが危機に瀕している理由は、環境保護精神などではないのかもしれない。あるいは、ボンネットの高さを制限する安全規制のせいでもなさそうだ。スポーツカーが不人気となった真の原因は、社会全体の停滞にあるのだろう。取り締まりや規制や自転車専用道路のせいで、運転を楽しむという感覚自体が消えかけている。運転を楽しめないのであれば、白物家電のような乗り物で移動しても別にいいはずだ。燃費の良いエンジンを積んで、渋滞に巻き込まれても退屈しないインターネット環境があればいい。
リサは未だに前に借りたヴォクスホール・アストラのことが忘れられないようだ。彼女にとってはアストラこそが最善の車のようだ。息子は今乗っているフィアット 124スパイダーからボルボに乗り替えようとしている。実際、124スパイダーに代わる低価格のスポーツカーといえば、マツダ MX-5(日本名: ロードスター)しかない。フィアットはなくなったし、ルノーも、他のどのメーカーも作っていない。MGすらもだ。そもそも、今MGが何を作っているかなど誰も知らない。

そしてここからがGR86の話だ。GR86には屋根が付いているので、これまでに話題にしてきたスポーツカーとは別種のものだ。しかし、GR86はコンパクトでエンジンに活力があり、後輪駆動で価格も安い。驚くほど安い。3万ポンドを切る価格で購入できてしまう。
先代モデルであるGT86(日本名: 86)を覚えている人はほとんどいないだろう。スバル BRZ(こちらも忘れ去られた車だ)の姉妹車として登場したGT86は理論上は素晴らしい車だった。コンパクトFRスポーツカーにプリウスと同じグリップのあまり良くないタイヤを履かせ、そうすることで、世界中の若者たちがクリストファー・プラマーの気分を味わうことができる。
私のような自動車評論家はGT86を大いに気に入ったのだが、自分で買うことはなかった。誰一人として買わなかった。しかしトヨタはめげなかった。トヨタはエンジンに問題があると考えた。トルクが足りなかったと考えた。そして、GR86と名前を変えて新型モデルが登場した。
エンジンは変わらず水平対向4気筒(重心を下げることができる)なのだが、排気量は2.4Lまで拡大された。その結果、最高出力は35PS、最大トルクは4.6kgf·m向上した。しかも、成層圏の先にあるレッドゾーンまで回さなくても、低回転域からしっかりとトルクが発揮される。おかげで、卵を溶くようにシフトレバーを必死に操作しなくても、十分な性能を引き出すことができるようになった。新型のエンジンは素晴らしい。トップギアで60km/hで走っていても、湧き上がるような力強さを感じることができる。
誤解しないでほしいのだが、これは3万ポンド未満で買える車だ。ポルシェやフェラーリとは違う。髪を引き裂くような加速をするわけではない。とはいえ0-100km/hは約6秒と十分に優秀だ。同様にハンドリングも優秀だ。トヨタは誰もドリフトなどしたがらないことに気が付いた。そんなことをしても怖いだけだし、最終的には裁判所行きになってしまう。なのでGR86は、洗剤のように滑るタイヤではなく、まともにグリップするタイヤを履いている。
私はこの車の走りが大好きだ。最初は音も気に入ったのだが、それがスピーカーから出ている人工的な音だと知ってからは嫌いになった。
ただ、そんなのは些細な欠点に過ぎない。GR86は見た目が良く、乗り降りもしやすく、必要な装備は全て揃っている。これは完璧な車であり、もし昔ながらの車が欲しいのなら絶対に買うべきだ。トヨタによると、イギリスに来た最初の割り当て分である数百台は既に売れてしまったらしい。追加で入荷する予定はあるのだが、どうやらその次はないらしい。
しかし、GR86が買えなくても絶望することはない。トヨタにはGRヤリスがある。GRヤリスはGR86よりさらに楽しい車なので、代わりにこちらを買えばいい。そう言って締めようと思ったのだが、トヨタに連絡してみたところ、どうやらGRヤリスも買えなくなってしまっているようだ。
The Clarkson Review: the Toyota GR86, sporty but nice
イギリスのYouTuberのマットも大好きでしたし、
ライトウェイトスポーツカー発祥の国では受け入れられる車のようですね。
しかしジェレミーはGRヤリス大好きとは、
86より好きとは思いませんでした
auto2014
が
しました