Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、ロータス・エミーラのレビューです。


Emira

建築という世界では、威厳ある中世の大聖堂に目を奪われる人もいれば、ガラスと鉄でできた最新の高層ビルに心奪われる人もいるし、シンプルで古典的なジョージアン様式を好む人もいる。昨年の娘の結婚式には、チッピング・ノートンの教会のステンドグラスを見たいがために参列したような人もいた。

しかし、私が一番好きなのは橋だ。橋は私を魅了する。ヨークシャー・デールズの小川にかかる太鼓橋だろうが、名前も発音できないような中国の巨大橋だろうが関係ない。イザムバード・キングダム・ブルネルが設計したメイデンヘッド鉄道橋を見て、息をするのも忘れて夢中になったこともある。

19世紀後半に建設されたこの橋は、ターナーの絵画『雨、蒸気、速度』にも描かれており、そのアーチは幅が39mあるのに対し、高さは7mほどしかなく、現在においても世界で最も幅広なアーチとして知られている。その上を200トンの最新式都市間鉄道が走る姿を見ると、どうして橋が崩れないのかと不思議に思ってしまう。

リサも私が橋好きであることを知っており、昨夜、「世界の橋ベスト25」というサイトのリンクを送ってきた。そのサイトではヴェネツィアのコスティトゥツィオーネ橋が1位になっていたのだが、そんなのはナンセンスだ。確かに美しい橋ではあるのだが、世界最高の橋とは決して言えない。

サンフランシスコとカリフォルニア北端を結ぶ橋やスウェーデンとデンマークを結ぶ橋のように、重要な機能を果たしている橋でなければ上位に入れないと考える人もいるだろうが、私は違う。私のお気に入りは、バートン(人口11,300人)とヘスル(人口15,000人)を結ぶ橋だ。世界的に見ればなんの役にも立たない橋なのだが、それでもこの橋は美しい。

この橋の名前はハンバー橋といい、建設当時は世界最長の吊り橋だった。塔の間隔はあまりに離れており、設計段階では地球の曲率を考慮する必要があったそうだ。そして建設に使われた鉄の量は地球を1周できるほどであった。朝、北海の霧の中に佇むその姿を見れば、何もかもがどうでもよくなる。その美しさは私を虜にし、震え上がらせる。そしてこれが、ロータス・エミーラの話に繋がる。

エミーラは不思議な車だ。ハンバー橋のように美しいため、フェラーリとよく間違えられる。しかし、立ち位置としてはポルシェ・ケイマンGTSの競合車とされている。しかしこれはロータスだ。今のロータスはどんな立ち位置にあるのだろうか。

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小さい頃、テレビでダイアナ・リグがロータス・エランを乗り回す姿を見た覚えがある。それを見た私は今まで知らなかった不思議な興奮を覚えたのだが、ダイアナとエラン、どちらに興奮したのかは当時よく分からなかった。今になって思えば、きっと前者だったのだろう。そうはいってもエランは素晴らしい車で、後のロータスの礎となった。軽くて、危険で、壊れやすく、そして楽しい。言うなればヘッドランプの付いたキーファー・サザーランドだ。

その後、まったく毛色の違うエスプリが登場した。私はエスプリを気に入っており、特にV8ツインターボエンジンを搭載する最終モデルが大好きだ。数時間ほどターボラグはあるのだが、その後にはアドレナリン、スピード、音が大炸裂する。そして運転中は常に「ステアリングが外れるのではないか」という恐怖に苛まれることになる。

エスプリ以降のロータスは再び小型軽量のスポーツカー作りに専念し、その後マレーシアの自動車メーカーに買収された。それ以降は大した車を作ってこなかったのだが、今はボルボと同じ中国の自動車メーカー傘下となった。そして、スーパーカーのような、スーパーカーではないミッドシップマシンを生み出した。

ややこしい車なのだが、前評判は上々だった。YouTuberのハリー・メトカーフはエミーラを購入したらしく、私に散々その素晴らしさを語った。そんなこともあって、クリスマスにエミーラを借りられると決まったときにはかなり嬉しかった。

いろいろあって結局あまり乗れなかったのだが、それでも特別な車であることは分かった。いや、むしろしっかり乗るべきだったのかもしれない。なにせ、これはかなり久々に運転したマニュアル車だった。本物のシフトレバーとクラッチペダルがある正真正銘のマニュアル車だ。固定電話と再会したような気分だった。

実際のところ、この車はスーパーカーなどではなかった。性能は高いのだが、皮膚を剥ぐほどのスピードはない。楽しめるスピード、スポーツカーのスピードだ。

そしてエンジンはトヨタ・カムリと共通の3.5L V6エンジンなので、やはりスーパーカーとは程遠い。スーパーチャージャーが追加されてはいるのだが、それでも音は平凡だし、たまにラグも生じる。近いうちにAMGの4気筒エンジンも選択できるようになるのだが、こちらのほうが良さそうだ。価格も4気筒のほうが安い。

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ロータスといえば、ハンドリング性能の高さに定評があるのだが、私はあまり同意できない。ハンドリングに関して世界最高と言われているエリーゼすら、本気で走らせるとアンダーステアを感じた。エミーラの重量配分が後輪側60%であると聞いて、この車も同じような特性なのだろうと想像していた。しかし、エミーラのフロントはしっかりとグリップするため、その分リアを遊ばせることができた。これもエミーラをスーパーカーではなくスポーツカーたらしめている理由だ。

内装に関しても同じようなことが言える。私のように背が高かろうが、多少太っていようが、普通に乗り込むことができる。キルティングレザーも手縫いのパネル装飾も存在しない。非常に質実剛健な作りだ。あまりに質実剛健で、一部のプラスチックは1972年頃の家庭用オーディオ機器の部品のようだ。

エミーラが超高価な車なら、こういった点が問題となるだろう。けれど価格は75,995ポンドから(AMG製エンジン搭載モデルはさらに安くなる)となり、フェラーリを買う金があれば3台買えてしまう。コストパフォーマンスはかなり高い。

ここで話題を橋に戻そう。派手な橋、緻密な橋、特別なギミックのある橋を見ると、リチャード・ブランソンのロケットより金がかかっているように思えてしまう。しかし、見た目も性能も妥協せずに、普通のセダンと同等の価格のスポーツカーが作れることを、エミーラが証明してくれた。

なので、それと同じ手法で第二のハンバー橋を作ってほしい。1971年に作られたロンドンのホガース・ラウンドアバウトの上にかかっている橋の代わりに作ってほしい。あるいは、ハマースミスあたりでテムズ川に橋をかけるのもいいかもしれない。


Lotus Emira review — supercar looks for the price of a saloon