Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
先日、ロンドン西部のA40で永久に続く渋滞にはまったとき、周りにいる車どれもが私の嫌いな車ばかりであることに気付いた。MGのSUVにプリウス、テスラ、特徴のない箱型のフォード。速さや楽しさ、刺激を求めて設計された車などどこにも存在しなかった。
私が自動車評論家業を始めた当時は、楽しさこそが全てだった。そして楽しさは0-100km/h加速によって数値化することもできた。当時はモーリスすらもそれを重視し、新型イタルがサーブより加速性能が高いことを宣伝していた。それはひとえに、消費者が楽しさを求めていたからにほかならない。
消費者向け雑誌の『What Car?』はテストする車に計測用の補助輪を付け、タイヤやクラッチをすり減らし、『AUTOCAR』よりも優れた0-100km/h加速タイムを出そうと躍起になっていた。
自動車メーカーが不正を働くこともあった。広報車のウェイストゲートを開かないように細工したり、バルブを成層圏まで持ち上げるカムシャフトを装備したりすることで、0-100km/h加速を(1回きりだが)向上させた。
『Car Magazine』に書かれていた0-100km/h加速8.1秒という数値を信じ、私はシロッコGLiを購入した。8.1秒という数字は、友人が所有していたシェベットHS(8.2秒)よりも優れていた。そして私はその友人と、差の0.1秒について何時間も議論をした。なにせ、自分の車の加速性能こそが、人間としての価値、人間としての魅力の尺度なのだから。
しかし、時代は変わってしまった。燃料費の高騰だけが理由ではないはずだ。過去にも燃料費の高騰は何度も経験したはずだし、そもそも燃費が良い車の中にも楽しい車は存在する。私が昔乗っていたウーズレーのペダルカーなど、ガソリンをまったく使わないのに楽しかった。

どうして人々の価値観が激変してしまったのか、その理由は分からないのだが、もはやファミリーカーに楽しさを求める人間などいなくなってしまった。彼らが求めているのはUSBポートだけだ。
先日、A40の渋滞にはまったときに乗っていた車の話をしよう。その車はキア・スポーテージGT ハイブリッドで、前席に2つ、後席に2つのUSBポートが装備されていた。しかも、通常のUSBとUSB-Cの両方が装備されていた。現代人にはこれさえあれば十分だ。0-100km/h加速に1年かかろうと誰も気にしない。
ダッシュボードは、映画『ジェイソン・ボーン』でボーンを追跡するCIAが使っていた機材のように一面ガラスで覆われており、なかなか目を引くデザインだ。スイッチを押すとリアルタイムの駆動状況(この車はモーターが後輪を、エンジンが前輪を駆動する)を知ることができる。これに何の意味があるのかは知らないが。
渋滞が解消されると、むしろ苛立ちが強くなってしまった。まるで私を下手くそと罵るかのごとく、私のハンドル操作に反発してきた。このシステムをオフにするためには、まず画面に表示されているエアコン操作パネルを消して、設定画面に変える方法を見つけなければならなかった。ただ幸い、そうやって画面をいじっている間も、車が勝手にハンドル操作をしてくれていた。
10種類の選択肢の中から一つ選んでタッチすると、さらにまた別の選択肢が表示される。そうこうしている間も、ハンドル操作は車に任せきりだ。そのメニューをどういじっても自動操舵システムをオフにすることができないことが分かったので、今度はステアリングスイッチをいろいろと操作してみたのだが、するとメーター内の緑色のランプが消えた。それでも自動操舵はオフにならず、そのスイッチを長押ししてみたところ、今度は別のランプが消えた。そしてようやく自動操舵をオフにすることができたのだが、高速道路に入るとまたそのランプが点灯し、再び自動操舵がオンになってしまった。
自動操舵システムは、運転中に居眠りをしたいときや、後部座席の乗員にUSBポートの場所を教えるときには使えるのかもしれないが、対向車が車線をはみ出してきて、車線を越えて避けなければならないときにはかなり不便だ。こういう状況だと、キアは自分から正面衝突しようとハンドルを切ってしまう。

走行性能については、あえて言及する必要などあるのだろうか。韓国製SUVに興味を持っている人が走りに興味を持っているはずがない。少なくとも言えるのは、スポーツモードにするとエンジン音がやかましくなり、低速域ではブレーキから異音がする。年寄りが椅子から立ち上がるときに出すうめき声のような音だ。
おそらく、以前なら足回りや駆動系の開発に割かれていた人員が、今ではiPhone用の充電器やカップホルダー、床下収納などの開発に割り当てられるようになったのだろう。特に床下収納は気に入った。もっとも、スペアタイヤは装備されなくなるのだが。
そうなると、パンクした場合はどうすればいいのだろうか。バッテリー切れになったテスラと一緒に、路肩でRACが来るのを待つしかない。
スポーテージの試乗車を返却してからも、この車が良い車なのかずっと考えていた。私が車に求めているものは、この車にはまったく存在しない。この上なく退屈な車だ。しかし今の時代、そんなことは誰も気にしていないのではないだろうか。
今の時代、スマートフォンとの連携や経済性、あるいはインテリアのライティングのほうが重要なのだろうか。だとしたら、キアは素晴らしい車といえる。私の家にある食洗機と同じだ。問題なく機能してくれるし、信頼性も高い。
しかし、フォルクスワーゲン・ティグアン、MG HS、ヒョンデ・ツーソン、シュコダ・エンヤック、日産 キンカン、フォード・クーガ、BMW X3、プジョー 3008、セアト・アテカ、ホンダ CR-V、マツダ CX-5、トヨタ RAV4、シトロエン C5エアクロスなどと比べた場合はどうだろうか。他にも比較対象となる車はあるが、これ以上調べる気にならないので割愛させていただこう。
自動車評論家は、より楽しい車、より快適な車、より実用的な車を常に探し求めてきた。0-100km/h加速などの数字を参考にしつつ、数字では測れないものを数値化しようとしてきた。けれど、今や顧客が求めているのはたくさんのUSBポートだけだ。そんな情報は自動車評論家がいなくても知ることができる。それでも一応調べたので書いておくが、USBポートの数が最も多い車はシボレー・トラバースだ。つまり、買うべき車はトラバースということになる。
驚異を感じるというか
欧州では既に日本車より韓国車の方が売れているようですね
auto2014
が
しました