Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
ルノーが5年前に小型スポーツカーのアルピーヌ A110を発売した際、Top Gearで試乗したジェームズ・メイはA110に惚れ込んでそのまま購入した。そのため、私はこれまでA110のレビューを一切してこなかった。
もしA110が魅力的な車だったらどうだろう。ジェームズ・メイが購入した車を私が褒めることになってしまう。そんなことなど決して認められない。「君の車、良い車だね」なんてことを言うのは、「君の靴、良い靴だね」と言うようなものだ。
以前、ロンドンのサヴィル・ロウにあるギーブス&ホークスでジャケットを買ったことがある。当時『GQ』の編集者だったディラン・ジョーンズに私のジャケットをどう思うか尋ねたところ、「駄目だね、間抜けに見える」と言われた。しかしこれが正解だ。私自身、男性の服装について訊かれたときはいつも「なんて服着てるんだ」と言うようにしている。
今の時代、こんなことを言うのは不適切かもしれないが、女性はそんなことをしないと思う。別に毎朝『Loose Women』を見ているわけではないのだが、番組中で女性同士が互いの服装を貶しあっている姿など想像できない。
しかし男は違う。同僚が魅力的なオーバーコートを着てきたらどうだろう。仕立ても良く、生地も良く、色使いも良い、文句のつけようがないコートだ。しかし、だとしても素直に褒めることなどできない。なにかネガティブなことを言わずにはいられない。
ただし、恋人や家は例外だ。新築に招待されたときには褒め言葉しか出てこない。赤ちゃんもそうだ。けれど、服や車はどういうわけか貶しても許される。特に称賛という文化が存在しないバーミンガムではなおさらだ。バーミンガムの人間に言わせれば、モナ・リザは「少し小さい」し、ピラミッドは「カイロに近すぎる」し、リンカン大聖堂は「風通しが悪すぎる」。
長年の鍛錬の末、バーミンガム人の批判は芸術的域にまで達している。フェラーリでバーミンガムのガソリンスタンドに行けば、隣で給油中の男は黙っていないはずだ。ジャスパー・キャロットの訛りで、「さぞ燃費が悪いだろう」だの「保険料は相当だろうな」だのと言われるはずだ。

私も以前、買ったばかりのランボルギーニでキングス・ヒースのガソリンスタンドに行ったことがある。すると、男が寄ってきて「私のマエストロのほうがよっぽど荷物が載るな」と言ってきた。
「本当だ。参ったなあ。なんで私はこんな車を買ってしまったんだ。」
ともかく、話をアルピーヌに戻そう。正直なことを言うと、私もアルピーヌに乗ってみたいと思っていた。楽しそうな車だと思っていた。それに、アルピーヌのF1チームの本拠地は私の家の近くにあるので、もともと応援もしていた。しかし、ジェームズ・メイがA110を購入してしまったので、レビューできなくなってしまった。
しかし嬉しいことに、アルピーヌはA110の高性能版であるA110Sを発売した。これはジェームズ・メイの車とは違う車なので、私もレビューすることができる。
A110はミッドシップレイアウトを採用している。まだ私が若くて無知だった頃は、エンジンをミッドシップに搭載すれば重量配分が改善し、コーナリング性能が上がると考えていたため、フェラーリやランボルギーニやフォード GTを購入した。
この理屈は間違ってはいないのだが、公道では実感できないほどのわずかな利点しかないし、その代償はあまりにも大きい。荷室はマエストロよりも狭くなるし、荷室がフロントにあるので、開閉するたびに手が汚れてしまう。それに、乗車定員は2人だし、ミッドシップ車のドライバーは外から見ると間抜けだ。
ただし、アルピーヌの場合、そもそもボディサイズがかなり小さいので見た目の問題はほとんどない。昔のフェラーリ・ディーノと比較してもなお小さいので、威圧感などというものは存在せず、アブダビの若者が深夜3時にハロッズの周りで乗り回すこともないだろう。
1.8Lターボエンジンは発進時に心地良い排気音を奏で、乗る人を笑顔にしてくれる。2速、3速、そして4速とレッドゾーンまで回したくなるのだが、そこまでやっても76km/hしか出ない。300PSのSでさえそれほど速くはない。ジェームズ・メイがこの車に惹かれたのも納得だ。

しかし、重要なのはスピードではない。フィールだ。ラグビーのような荒々しい車もある一方で、この車はバレリーナのように繊細だ。シャープで機敏で、夢を見ているような感覚がある。これはスーパーカーなどではない。生粋のスポーツカーだ。晴れた日、コッツウォルズを85km/hで走って、私はこの車が大好きになった。
標準車の魅力は、グリップ性能と快適性を両立した絶妙なシャシだそうだ。一方、Sは標準車よりスパルタンで乗り心地が悪化していると聞いていたのだが、実際に乗ってみると快適性の欠如などまるで感じなかった。ただし、交差点でタンポポの茂みに乗り上げたときは例外だ。この車は全長だけでなく車高も低い。最低地上高が雑草よりも低く、車重は雑草よりも軽い。
内装も基本的によくできている。ただし、窓を開けようとスイッチを押して、間違えてパーキングブレーキのスイッチに触れてしまうことがあるので危険だ。
けれど、これほどまでに魅力たっぷりの車において、これくらいの欠点など些末なものだ。なにより、これに似た車はどこを探しても他にはない。ポルシェは真面目すぎるし、アウディ TTは不真面目すぎる。
ただ、私がもしスポーツカーを買うなら、オープンカーが欲しい。これこそが問題だ。私なら、アルピーヌではなくマツダ MX-5(日本名: ロードスター)を買う。MX-5には同等の魅力があるうえ、価格はA110より安いし、頭上には1億5000万kmのヘッドルームが広がっている。
なので、今度ジェームズ・メイに会ったらこう言ってやろうと思う。
「君の車はMX-5と大差ないね」と。
やっぱりロードスターは世界一ぃぃぃ!!
auto2014
が
しました