Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
コッツウォルズ近くの村に住む友人に会いに出掛けたとき、最高の一日になると思った。青空が広がり、スノードロップが咲きはじめ、まだ1月も半ばだというのに春の訪れを感じた。しかし同時に、私は一抹の不安を覚えていた。気の知れた仲間と気持ち良く美味いビールを飲んでいるとき、なにか悪いことが起こるような気がすることはないだろうか。そういう勘はよく当たる。
こういった現象に合理的な説明をすることはできない。これまでの経験論としか言えない。そしてコーンウェルに向かう途中に事件が起こった。下り坂に差し掛かり、アクセルから慎重に足を離して軽くブレーキを踏むと、まず「シューッ」と音がして、タイヤは洗剤の海に落ちた石鹸のように滑りはじめた。ABSがいかに足掻こうと負け戦だ。路面はいわゆるブラックアイスバーンの状態だった。
しかも私が乗っていたのはBMWだった。BMWと冬の相性は最悪だ。気温15℃未満になるとBMWは地下駐車場から出られなくなってしまう。そして、初雪が降る4ヶ月前の9月から高速道路で滑りはじめる。それどころか、同乗者が車内でスキー雑誌を読むだけで360度回転してしまうことすらある。
しかし、読者の期待には添えないかもしれないが、私は無事だった。道路脇の茂みに向けて慎重にステアリングを切り、片側のタイヤだけ草むらに乗せてなんとかグリップを確保した。そして一旦落ち着いてから、約1km/hで走りはじめた。
他に走れている車はいなかった。坂の下にはエアバッグが飛び出したプジョーが木に埋まっていたし、数百メートル先ではヴォクスホールが事故を起こしており、カーディガンを着た淑女が私に助けを求めていた。無事を確認するために彼女のところに行くと、彼女は相当に動揺していた。どうして事故を起こしたかすら理解していない様子だった。

そこから800mほど先でひっくり返ったバンを見かけ、ふと考えた。ひょっとしたら、凍結路をまともに運転できる人間がいなくなってしまったのではないのだろうか。いや、そもそも氷点下で車を運転することがどういうことかを誰も理解していないのだろう。これもきっと地球温暖化のせいだ。
面白いことに、私が乗っていたM4コンペティションにはオプションの4WDシステムが装備されていた。ヘルシンキやヴァル=ディゼールに住んでいる人には必要なのかもしれないが、下りの凍結路では何の役にも立たない。私なら、オプション代の2,765ポンドを使って中古のピックアップトラックを購入し、10年に1度の降雪日に備える。なにせこれはM4なのだから、後輪駆動に限る。
しかし、駆動方式にかかわらず、M4は非常に楽しい車だ。昔のV8を惜しむ純粋主義者もいるだろうが、新型に搭載されるツインターボ直6エンジンは滑らかで音も良く、最高出力は500PSを超える。
これで十分だ。500馬力を超えると、楽しさよりも怖さが勝ってしまう。しかし、500馬力くらいまでなら、アクセルを踏み込んでも恐怖ではなく歓びの悲鳴をあげることができる。
旧型M4はステアリングの出来が悪く、速く走らせたいとは思えなかった。しかし新型は、神の糸で操られているかのように完璧に意思疎通を図ることができる。昔のMほど楽しいわけではないのだが、新型M4はかつての90%の楽しさと、従来比1万倍の快適性を両立している。

これこそがM4の魅力だ。気分が乗っているときには飛ばして楽しむことができるのだが、そうでないときは穏やかに運転することもできる。狂人モードにしても快適性が大きく損なわれることはない。トランスミッションも同様だ。M4には、少し前まで未来のトランスミッションと持て囃されていたDCTではなく、普通のトルコンATが搭載される。
車内には私をしっかり包み込むシートと、高齢の私にも使いこなせる操作系が用意されている。おかげで飛ばすときのモードと疲れているときのモードを変えることもできた。ステアリングの赤いボタンを押すだけでいい。
ドリフトの点数をつけてくれる機能まであった。今はYouTubeの時代なだけに、こういった機能が必要なのだろう。若者が木に突っ込む姿を見る。これぞ未来だ。
YouTuber以外にとっても魅力的な部分はある。乗り降りしやすいし、後部座席も実用に耐えうるし、荷室も広い。価格もそれほど高くない。
この車の欠点を探すのは難しい。あえて挙げるならデザインだ。デザイナーはフロントが派手すぎると感じたのか、その代償としてリアがやたら地味になっている。しかし、これは大した問題ではないし、コンバーチブルを選べば問題ない。
ひょっとしたらこれが電動化前最後のM4になるかもしれないので、このような形でM4が登場したことを歓迎したい。強烈な刺激があるわけではないのだが(羽根付き軽量版のCSLは出てくるかもしれない)、満足のいく車に仕上がっている。
四駆でも優秀な車を作るのは流石ですよね
しかし純ガソリン車のスポーツカーとしては
最後になるかもしれませんが
EVでも楽しい車は続いて欲しいです
auto2014
が
しました