Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
私は今、とても忙しい。農場を経営し、3本のテレビ番組の司会をし、週に3本新聞のコラム記事を書き、35人の従業員を抱えるファームショップまで経営している。家造りは予定より7ヶ月も遅れているし、追加で牛も飼いはじめた。
朝の8時頃になると、農場にバンやショベルカー、ホイールローダー、三菱 L200、グレーのフォルクスワーゲン・ポロ(ファームショップの通販担当の若い女性はどういうわけか全員これに乗っている)が集結し、大渋滞になる。そうこうしているうちに庭師のゴルフに猟師のランドローバー、獣医のシュコダ、秘書のボルボ、清掃員のフィアット、農業番組のプロデューサーやクルーが乗った数台のディスカバリーがやってくる。しかも、リサがネットで注文した荷物を届けるために大量の配達車も来るので、今やカンパラ中心部よりもコッツウォルズ・ヒルズのほうが混んでいるに違いない。
なので、どこかのメーカーから試乗用の広報車が届けられたところで、その存在に気付かない自信がある。実際、数週間前には存在すら認識していなかった広報車を回収にヒョンデの従業員がやってきた。色すらも分からないので、残念ながら今回はそのレビューを書くことはできない。
ランボルギーニのトラクターと建設業者のシトロエンの間に隠れていたアウディ SQ2のレビューを書くこともできない。一応、パブに行くときに少し乗ってみたのだが、存在意義が分からなかった。実用的で合理的な小型SUVに不合理な高性能エンジンを積んだ車など、誰が求めているのだろうか。そんな人間などいるはずがないし、それにシートの出来も酷かった。
グランド・ツアーのプロデューサーとZOOMで打ち合わせをしながら牛舎のアナグマ対策をしていたとき、最近マイナーチェンジされたメルセデスAMG E63S エステートが来たことに気付いた。それ以来、ロンドンと自宅の往復に何度もこの車を使った。先日受けたCOVID-19の検査が陰性だったのもこの車のおかげかもしれない。ウイルスはこの車の速さに追いつけない。
E63Sには良いところがたくさんある。荷室は広く、リアシートを畳めば容量は1,800L以上になる。競合車と比べても圧倒的に広い。それに、荷室を確保するためにデザインが犠牲になっているわけでもない。スタイルが良く、太いタイヤがよく似合う。

エンジンも優秀だ。もちろん、アメリカンな昔のAMG製V8エンジンが恋しい気持ちもある。アクセルを踏み込むと聞こえた、あの野太い咆哮。シャシがその莫大なパワーを扱いきれるはずもなく、常に横向きに滑りながら走った。あまりに楽しかったので、私はこれまでに3台もAMGを購入している。
しかし、今はもうそんな時代ではない。今はグレタの時代だ。昔のAMGのようなゴムの無駄遣いは反社会的であるとみなされてしまう。そのため、エンジンにはターボが追加され、音も抑えられた。残念な話だ。けれど失望する必要はない。表面上は大人しくなっている一方で、その内側には猛々しいパワーが健在だ。新型もかなり速い。
流れるように優雅に、安定してコーナーを抜けることができるし、レースモードのスイッチさえ押さなければ快適性も高い。ただレースモードにしてしまうと、乗員の糞便が垂れ流しになってしまう。
しかし、褒められるところはここまでだ。それ以外は非常に苛立たしい。身長188cmのリサを後席に乗せるためにシートを前に出していると、リサが「あ、ズボン破れちゃった」と呟いた。振り返って確認してみると、彼女の尻が丸見えになっていた。そうやって確認している間もシートは前にスライドし続け、止めようとスイッチを押しても止まらなかった。そして私は映画『ザ・コア』ラストのスタンリー・トゥッチのような状態になってしまった。
別の日には、シートヒーターをオンにしてから数分後に勝手にオフになってしまった。エンジンを始動するたびに車線逸脱警報システムがオンになるのも同じくらい厄介だ。そのたびに使いづらいトラックパッドを操作してオフにしなければならない。
問題は他にもある。駐車時や低速走行時には前輪から振動が生じる。他の車でも似たような経験はあり、ほとんどの場合、ディファレンシャルが温まれば振動もなくなるのだが、メルセデスの場合、いつまでも振動が続く。

特にA40の渋滞は最悪だった。走行中にありとあらゆる警告灯が点灯した。墜落中の飛行機のコックピットでピンク・フロイドのライブを見ている気分だった。老眼鏡をしていなかったので警告が何を意味しているのかも理解できず、仕方ないのでエンジンを再起動してみることにした。こうすると大概の不具合は治るのだが、いつまでもつのかは分からない。おかげでメルセデスが信用できなくなり、それ以来、E63Sには乗らなくなった。
普通、広報車は社内の技術者が丹念にメンテナンスを行っているので、試乗中に不具合が発生することはほとんどない。ところが、このメルセデスは5日間で4回も不具合を起こした。パワーシートの不具合がリサの尻に気を取られた自分のせいだとして除外してもまだ3個もある。これは平均的な車で考えても多いし、10万ポンドのメルセデス・ベンツであることを考慮すればなおさらだ。
問題は他にもある。2021年のF1の結果は悲惨で、メルセデスのチームが不満を持つのは当然だろう。チーム代表であるトト・ヴォルフの最終ラップでの姿を見て、彼に同情したのは私だけではないはずだ。
それでも、レース後の彼らの姿は見るに堪えないものだった。ルイス・ハミルトンはあくまで冷静に、その悔しさを笑顔の内側に包み隠して、マックス・フェルスタッペンに祝福の言葉を送っていた。しかし、彼以外の人間たちは、子供のように駄々をこね、結果に不満を叫び続けた。
確かに結果は公正ではなかった。しかし、怒るのはコメンテーターやファンに任せておけばいい。駄々をこねている暇があるなら、職場に戻って市販車の不具合を解消することを優先するべきだろう。
The Clarkson Review: Mercedes-AMG E 63 S estate
メルセデスは不具合多い印象あったけど、
試乗中も4回は酷いな。
エンジンオイルがエンジンコンピュータに行っていく不具合はよく聞くし、
10万キロでエンジンかミッションから不具合発生するし、
購入してる人はよく大金出せてるなと思います。
auto2014
が
しました