Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
2021年2月に起きたタイガー・ウッズの大事故は私には理解できなかった。警察の発表によると、130km/h以上で走行した結果、コントロールを失ったらしいのだが、走っていたのは広い道だし、タイガー・ウッズは頭の回転が鈍った老人などではない。
車は中央分離帯を乗り越え、反対車線に飛び出し、そのまま120km/hで木に激突したそうだ。この説明が正しいのだとしたら、彼はほとんどブレーキをかけていなかったことになる。そして車は数回転したのだが、事故後、車から出てきたタイガー・ウッズは脚を痛めていただけだった。これは奇妙だ。
そもそも、彼が乗っていた車がどんな車なのかも私はよく知らなかった。カリフォルニアの地元メディアによると、「ジェネシス」という車らしいのだが、その名前を聞いた私は、サターンのようなGMの新興ブランドだと思った。
しかし実際のところ、ジェネシスは韓国のブランドで、トヨタにとってのレクサスに相当する、ヒョンデの高級車ブランドだった。ジェネシスはヨーロッパ向けのちょっとした改良を受け、イギリス市場にも進出している。
私はジェネシス GV80の最上級グレードに試乗することになった。ヒョンデの意図はすぐに理解できた。外装に大量のメッキを使い、内装に大量のレザーを使い、ベントレー風の車を作り上げ、その上質なデザインと内装で、アウディやボルボ、BMW、メルセデスに乗っているヨーロッパのビジネスマンの関心を引こうとした。
日産は同様の手法でインフィニティというブランドを生み出し失敗したのだが、トヨタはわずか11兆ドルの投資でレクサスというブランドを確立した。そしてジェネシスというブランドを生み出したヒョンデは、今では優秀な車も作っており、特にスポーツモデルのNシリーズはかなり完成度が高い。しかし、GV80は酷い車だった。

GV80には「ロードプレビュー」という機能が付いている。カメラが前方の路面をスキャンし、路面の不整を認識するとサスペンションを調整し、乗員に衝撃を与えないようにする機能だ。
しかし、この機能はまったく役に立たない。コンフォートモードでも熱帯の雷雨に見舞われた小型飛行機のような乗り心地で、滑らかな路面を走っていても常によろめき、衝撃が伝わってくる。日産 GT-R NISMOという車に乗った経験もあるので、「史上最悪の乗り心地」という表現は使えないのだが、GV80の乗り心地も大して変わらない。誰かを乗せるときにはエチケット袋が必須だ。
この車には安全で法に則った走行を支援するための制御装備が付いているのだが、このシステムを設計した人間はコッツウォルズに行ったことがないのだろう。他の車にも付いている装備なのだが、前方の車線を認識し、車線の逸脱を検知した場合、車が操舵に介入して元の車線に戻そうとする。他の車の場合、介入は穏やかで少し苛立つくらいなのだが、GV80の場合、ステアリングの裏側でタイソン・フューリーが操作をしているため、勝手に道の端に寄っていってしまう。
狭い田舎道では車線に近付かないことなど不可能なので、頻繁にタイソンが介入してくるし、狂ったサスペンションのせいで車は跳ね回り、制限速度を1km/hでも超過するたび、フロントガラスのヘッドアップディスプレイに赤い警告灯が点灯する。走り慣れた道を81km/hで走ると、レッドアローズで曲技飛行をしている気分になる。疲労困憊どころの騒ぎではない。
しばらく運転したあと、私は車を停め、取扱説明書を取り出し、どうやったら運転支援システムをオフにできるか調べることにした。荒れ狂ったサスペンションはどうしようもなかったが、制限速度の警告とタイソン・フュリーはオフにすることができた。その結果、GV80は耐え難いほど酷い車から単に出来が悪いだけの車へとランクアップした。
しかし30分後に再び車に乗り込むと、信じられないことが起こった。すべての運転支援システムが勝手にオンになってしまった。仔牛を連れ去られたときの牛の悲鳴を聞いたことはあるだろうか。私はそれほどの悲壮感を覚え、牛のような悲鳴を上げながら再びステアリングと格闘することになってしまった。

少し前、イギリス市場でヒョンデ・ジェネシスという高級車が発売された。そのときはわずか50台しか売れず、ひっそりと販売が終了した。50台でも大失敗なのだが、GV80はもっと売れないだろう。
試乗車に搭載されていた4気筒エンジンはかなり非力だったのだが、二酸化炭素排出量はかなり少ないそうだ。ディーゼルエンジンはさらに優秀な数字らしいのだが、今どきディーゼルを選ぶ人がどこにいるのだろうか。
この車には、ウインカーを出すと自動的に側方のカメラ映像がメーター内に映し出されるという機能が付いている。このおかげで、左折時にジェレミー・ヴァインを巻き込む可能性は減るだろう。しかし、そんなに安全性を重視するならボルボを買うべきだろうし、側方の確認がしたいならミラーを使えばいい。鏡は信頼できる。ただし洗面所の鏡は例外だ。朝方の洗面所の鏡を信じてはいけない。
ヒョンデは自分たちの能力を超えた車を作ろうとしてしまった。ヒョンデが高級車を作るのは、マクドナルドが高級ディナーを作ったり、私がクラシック音楽の記事を書いたり、フェラーリが帽子を販売したりするようなものだ。
ヒョンデ最初の車は、1960年代にライセンス生産していた左ハンドルのフォード・コーティナだった。その後、ブリティッシュ・レイランド出身の社員を何人も雇ったのだが、ミッドランド人である彼らは、何も気にせず車に「ポニー」という名前を付けてしまった。しかし、ポニーは残念な名前など物ともせず、韓国で大ヒットを記録した。その後、ヒョンデは成長に成長を重ね、キアを買収し、今や世界で3番目に大きな自動車メーカーとなった。そして今度は、高級車市場への参入を企てた。
しかし、ヒョンデにまともな高級車を作ることはできなかった。GV80に乗って、なぜタイガー・ウッズが事故直前にブレーキをかけられなかったのか理解できた。GV80に乗っているとき、私も彼と同じようなことを考えていた。
「頼むから、一刻も早くこんな車から降ろしてくれ。」
この馬鹿した評論家は誰だ?
auto2014
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