Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、アルファ ロメオ・ジュリア GTAmのレビューです。


GTAm

数週間前の木曜の朝、私は農場で収穫作業を行うために早起きした。ところが、トラクターを小屋から出そうとしているとき、アルファ ロメオの関係者が私のところにやってきた。彼が持ってきたのは何ヶ月も前からずっと楽しみにしていた限定車、ジュリアGTAmの試乗車だった。

彼の話によると、私がGTAmを借りられるのは24時間だそうだ。それを聞いて私は困り果てた。収穫作業は絶対にやらなければならない。これは必須事項だ。けれど、この車にも絶対に乗らなければならない。これも必須事項だ。ところが、雨が降ってきてしまったため、そのどちらも結局はできなくなってしまった。

アルファ ロメオが履いていたのはミシュランのCUP 2だった。このタイヤは暑い晴れた日には圧倒的なグリップ性能を発揮してくれるのだが、ウェット路面では洗剤と水銀でできているかのごとく滑りまくる。車のポテンシャルを探ろうとすると、ハンガリーのバルテリ・ボッタスのようになりかねない。

昔はウェット路面でグリップ性能の低い車を運転することに抵抗などなかった。むしろ滑ることが楽しいとさえ考えていた。けれど私はもう61歳で、正直言うと、もうそんな風に考えることはできなくなってしまった。滑るのはただ怖いだけだ。

最近では怖いと思うことが多くなった。先日、柵を乗り越えようとしたとき、そのまま転んでしまうのではないかという恐怖心を抱いた。シャワールームから出るときも、足を滑らせてしまうのではないかといつも怯えている。夜ズボンを脱ぐときも、そのままバランスを崩してしまうのではないかと心配している。

これは現実的な恐怖だ。私のような機関車くらい重い61歳にとって、足はかろうじて体重を支える程度の力しかない。それ以上の衝撃を吸収する余力などない。ジャンプすることはおろか、段差を乗り越えることすら難しい。

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運転においても臆病になったと感じる。先日、移動式オービスを見かけたのでスピードメーターを見てみたところ、私は39km/hで走っていた。そんなことは初めてだった。

かつて私は、幹線道路の100km/hという制限速度は低すぎると思っており、その2倍の速度で運転していた。しかし今や、特に雨の日など、80km/hがちょうどいいと思うようになった。道沿いの木にぶつからないか、常に不安を感じるようになった。まるで私の頭の中で何かが反転してしまったかのようだ。きっと私の反射神経が膝同様に衰弱してしまったのだろう。事故を起こす前にブレーキペダルに足を伸ばすことができなくなってしまったのかもしれない。

もちろん、アルファに乗ってゆっくり運転することくらいなら今の私にもできる。しかし、そんな運転をしてもこの車の本領は発揮できない。1960年代に活躍したアルファのレーシングカーに由来する名前が付いたこの車にはGTAとGTAmの2種類が存在する。特に後者はリアシート代わりの突っ張り棒と巨大なリアウイングが装備される。

見た目は最高だ。鮮やかな緑色のボディカラーも魅力的なのだが、何より素晴らしいのが広くなったトレッドだ。ボディがタイヤを覆うように引き伸ばされているかのようだ。ボディの内側には筋肉がはち切れんばかりに詰まっているような感じがする。

しかも、ホイールはF1同様シングルナットで固定されており、カーボンセラミックブレーキが装備される。ザウバーの風洞でテストされた空力パーツのおかげで、GTAmは標準のクアドリフォリオの3倍のダウンフォースを生み出す。そしてエンジンはECUがいじられており、クアドリフォリオより最高出力が30馬力向上している。

もともとジュリア クアドリフォリオは私好みの車で、GTAmにはさらなる改良が施されている。だからこそ私は不安だった。私がかつて乗っていたCLKブラックのように、軽量化された地を這うサーキットモンスターになってしまったのではないだろうか。そんな車は61歳の男が雨の日に乗るようなものではない。

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しかし実のところ、GTAmは私の想像とは違う車だった。GTAmはまったくハードではない。路面の段差を見事にいなし、乗るほどに自信が生まれ、アクセルをどんどんと踏み込むことができた。そして最終的にはリラックスして走れるようになった。540PSという数字は大きいのだが、馬鹿げているというほどではない。時にディファレンシャルがギクシャクすることもあるのだが、基本的にパフォーマンスを扱いきることができる。これだけの性能を楽しむことができる。

グリップ性能は確かにそれほど高くなく、私の肛門括約筋がまだ衰えていないことを認識したのだが、基本的には標準のクアドリフォリオとそれほど変わらない。クイックなステアリングも、V6エンジンの咆哮も、操作性の高さも同じだ。それに、クアドリフォリオより速いとも思わなかった。実際、直線での加速性能は大して変わらない。

内装も標準車とほぼ同じだ。通常のシートベルトの代わりにレース用のハーネスを選択することもできるのだが、それ以外に目新しい点はない。ナビは画面が小さくて操作しづらいし、夜はステアリングスイッチがどこにあるのか分からない。

しかし、大きな変更点が一つある。価格だ。GTAmの価格は155,000ポンドだ。これは唯一の競合車であるジャガーのプロジェクト8より高価であるどころか、ポルシェのGT3よりも高い。標準のクアドリフォリオなら半額で買えるし、私ならばクアドリフォリオを選ぶ。

GTAmは魅力的な車だ。それに、世界中の他の企業がEVという欺瞞に注力している中でこういう車を生み出したアルファは称賛に値する。しかし、GTAmに乗ってもクアドリフォリオの良さを再認識するばかりだ。それに、クアドリフォリオなら収穫作業との優先順位を迷う必要もない。