Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、ジープ・レネゲード 4xeの試乗レポートです。


Renegade

ロックダウン開始からおよそ1週間後、私は旅行をしようと思い立った。しばらく太陽を見ていなかったし、そもそもCOVID-19に罹ったあとだったので、感染する危険も、誰かに感染させる危険もないだろう。

当然、だからといって外出していいわけではないだろうし、国中にいる自粛警察は常に我々を監視している。なので私は巨大なフェイスマスクを装着し、”I am Piers Morgan”と書かれたTシャツを着ようと考えた。

調べてみると、カリブ海にビジネス目的で開放されている場所があることが分かった。飛行機もちゃんと飛んでいるようだ。なので私は重要な仕事があると申告し、そこへ旅行することにした。

心が躍った。私はこうやってずるをするのが大好きだ。学生時代、私はありとあらゆる校則を破ろうと考えた。そしてこの目標を16歳で達成すると、さらに悪いことをしてみようと考えた。教会で煙草を吸ったり、化学の授業を下半身裸で受けたり、母のアウディ 80に乗って運動場を暴走したりした。学校中のドアの鍵に接着剤を塗ったこともあった。

私は人生をそうやって過ごしてきた。マスクを着用し、ソーシャルディスタンスをとり、ステイホームしろと命令されても、やすやすと従う気にはなれなかった。そして私はアンティグアに行くことにした。

糾弾されることもないはずだ。今後数ヶ月間はテレビの収録もないので、日焼けしてもバレる心配はない。ところが、出発日の2日前になって突然罪悪感が押し寄せてきたため、急遽旅行を中止することにした。

実のところ、私はコロナ禍ではバーナード・キャッスルにも行かなかったし、知人やインスタグラマーとのパーティーにも行かなかった。それどころか、必要不可欠な場合を除いて外出すらもしなかった。

そうやって家に籠もっていたので、試乗車として貸し出されていたジープ・レネゲードにもまったく乗れていなかった。名前だけ聞けばかなり男らしい車に思える。ジープといえばその歴史は第二次世界大戦中に遡る。ジョージ・マーシャル元帥はジープを戦争最大の功労者と称えている。そしてレネゲードという単語からは葉巻を吸う渋い男を想像する。

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グレード名にも男らしさを感じる。「ロンジチュード」、「ナイトイーグル」、「トレイルホーク」。しかしよくよく考えてみるとおかしい。バッジを外し、その内側を覗き込めば、基本設計はフィアット 500Xと変わらない。

なので、別に試乗しなくても構わないだろう。殺し屋の皮を被ったネズミなど、誰が乗りたいと思うだろうか。

しかし、そうこうしているうちに雪が降ってしまった。当然、政府は依然として自宅待機し、手を洗い、会話をする際は顔用コンドームを着用するよう呼びかけていた。ただ、四輪駆動車を持っている人が雪の降る日に外出してはいけないという文言は、政府のガイドラインにはなかったはずだ。

普段、四輪駆動車の燃費の悪さや操作性の低さに我慢しているのだから、1年の中でたった数日だけ四輪駆動の実力を発揮できる日くらい、どうしても外出しなければならない用事を作り出したっていいはずだ。

私は昼食を買いに近くの村に出かけるという重要な用事を思い出した。そして村へと行く途中、不思議な現象を経験した。

通常、狭い道を大きな4WDが走っていると対向車が端に避ける。ところが雪の日の場合、まったく逆の現象が起こる。普段は道など譲ろうとしない4WDが自分から道の縁ギリギリまで寄って避ける。そうすることで、雪の日にも普段通り走れるSUVを購入した自分たちの頭の良さを顕示している。

向こうからBMW X5がやってくると路肩にはみ出そうな勢いで私の車を避けた。次に来たゲレンデヴァーゲンに至っては舗装路からはみ出て避けた。

当然、ジープも同じように自由自在に雪道を走れると誰もが予想するだろう。対向車に迷惑などかけるはずがない。ところがそれは的外れで、ジープの実力は絶望的だった。

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レネゲードにはさまざまなラインアップがあり、エンジンの選択肢も豊富にある。しかしそのほとんどが2WDであり、つまり実のところジープではない。ただ、私が試乗したのは4WDのプラグインハイブリッドモデル、トレイルホーク4xeだった。

まず欠点について話そう。価格は36,500ポンドと割高感があるし、車の重さも気になる。ステアフィールは曖昧で、エンジンは粗いし、トランスミッションは常に混乱しており、風切り音は笑えるほど大きく、内装の質感は1970年代の三洋製レコードプレーヤーと同等だ。

まだまだ序の口だ。運転席には左足の置き場がないし、シートにはホイールバックチェアと同等のサポート性しかない。パフォーマンスはカタログスペック上は存在するのだが、実際は皆無だ。燃費も同様で、公称値では45km/Lとなっているのだが、現実世界ではその半分も厳しい。

では、オフロード性能はどうなのだろうか。トレイルホークという名前はカリフォルニア州シエラネバダ山脈を越える険しい山道、ルビコントレイルを走破したジープに与えられる名前だ。一見すると凄い称号に思えるのだが、実際のルビコントレイルはほとんどが花崗岩で覆われている。花崗岩の滑りやすさは『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』でトム・クルーズが着けていたグローブと糊の中間くらいだ。タイヤが1つでも接地していれば前へ進み続けることができる。

雪に覆われたオックスフォードシャーとは完全に条件が異なる。スノーモードを選んだはずが、間違えて「腹下しモード」でも選んでしまったかのように走る。それに、普通のタイヤを履いているので未舗装路での走りも期待できない。

リチウムイオンバッテリーとモーターで後輪を駆動し、エンジンで前輪を駆動するハイブリッドシステムの複雑さも気になる。この機構は故障せず長期的に使い続けることができるのだろうか。川を渡っても大丈夫なのだろうか。川魚を感電死させてしまわないだろうか。

ただ、正直そんなことは気にならない。こんな車、誰も買うはずがないのだから。気でも狂わない限りは。