Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、クプラ・フォルメントールの試乗レポートです。


Formentor

近所の田舎道を走っていると、家族連れが道の真ん中で楽しそうに運動をしていた。ファッションカタログの1ページのような幸せな光景だったのだが、ただ一人、父親だけは例外だった。彼は怒りで腕を上下にばたつかせながら私の方を睨んできた。

きっと私に速度を落とすように促したかったのだろう。しかしそのとき私は既に子供の存在に気付いており、半分止まっているような速度で走っていたので、それ以上減速することなど到底できなかった。なので仕方なく(あくまで仕方なくだ)窓を開け、その男に失せるようお願いした。

ここ数ヶ月、私の家の近所にはアウトドアファッションに身を包んだ人々が集結し、道行く地元住民の車に文句を言い続けている。先週末に見かけた女性は怒りのあまり顔が歪んでおり、何かの発作でも起きているのかと思ってしまった。

こんなこともあった。自宅の敷地内の農場でトラクターを走らせていると、共産主義者風の男がトラクターの前に立ちはだかってこう叫んだ。
そんな乗り物、今使う必要があるんですか!?

私は人に指図されるのが嫌いだ。特にパンデミックでは、休日に出歩くことが「違法」とされ、新聞紙上にはその規律を乱した家族が自粛警察によって襲われたという見出しが躍っている。あまりに苛立たしい話だ。

今や、国中の道路にアマチュア警察官が存在し、拳で制限速度を遵守させようとしている。すべての町に政府のスパイが潜伏し、COVID-19に関わる(自分で勝手に制定した)ルールを破った人間を通報している。

さらに厄介なことに、車まで私の運転に口出しするようになった。常に速度を監視し、どの時点でアクセルペダルを離せばブレーキを使わずに次の赤信号で停止できるかを計算する。
アクセルから足を離してください。
頼むから黙っといてくれ!

rear

指示通りアクセルを離してみると、確かに正確な位置で停止させることはできた。しかし後続車も同様に交差点の数百メートル手前から10km/hで走らされる羽目になる。そこから9km/h、8km/hとゆっくり減速していく。アクセルを踏まずにそれだけの距離を走れるのは凄いことだ。しかし、周囲のドライバーは私のことをちゃんと免許を持っている人間だと思ったのだろうか。

私が運転していた車にはクプラというバッジが付いていた。クプラはセアトの別ブランドであり、価格は4万ポンドもする。トヨタがトヨタというバッジでは高すぎる車にレクサスのバッジを付けるのと同じ理屈だ。そしてヒョンデはタイガー・ウッズ向けのモデルにジェネシスのバッジを付けたのだが、近いうちに別のバッジにすり替わることだろう。

このクーペSUVの正式な車名はクプラ・フォルメントールという。エッジと曲線が上手く使われており、ブロンズのアクセントも効いていてなかなか恰好良い。バッジもSFの宇宙戦艦に付いていそうな見た目だ。しかも、フォルクスワーゲングループの部品が上手く使われており、内装のライティングはベントレーっぽいし、ドアミラーはランボルギーニっぽい。

性能も高い。今回試乗したモデルにはフォルクスワーゲン・ゴルフRと基本的には同じエンジンが搭載されていた。

しかし、ロックダウン中の世界において、それが意味を成すかは別の話だ。どういうわけか人々はやたらゆっくりと車を運転するようになった。フィアット・ドブロは29km/hで走り続けた。怒りを燃やす歩行者のせいで追い越すこともできない。そうこうしているうちに、ドブロの前には6km/hで走るプジョーが立ちはだかる。

操作性に関しては、FFモデルならばやや暴れがちになるだろうが、少なくとも今回試乗した4WDモデルに関しては問題なかった。特別楽しいわけではなかったのだが、破綻するようなこともない。タイガー・ウッズもこれに乗るべきだったのろう。

ただ、タイガー・ウッズがこんな車を欲しがるとは思えない。私もそうだ。インテリアはフォルクスワーゲンよりも明らかに質感が低い。ドアパネルは安っぽく、ドアポケットやグローブボックスに内張りなどないので、物を入れると音が気になる。

interior

室内空間は広く、特にリアはかなり余裕があるのだが、どこを見ても「予算による妥協」を感じてしまう。例えば、物理スイッチを装備するとコストがかかってしまうので、操作系はタッチパネルになっている。

走りにも問題がある。太いタイヤのせいで騒音が酷いし、風切り音も気になる。乗り心地は設定をどのように変えようともただただ硬い。舗装の悪い道ばかり運転したのでうんざりするほど実感した。

歩行者はむしろ舗装の悪い道を好む。舗装が悪ければ車の速度が遅くなるので、気兼ねなく道路の真ん中で遊べるし、雨が降れば水たまりができるので子供たちも喜ぶだろう。

クプラはスタイリッシュで楽しいスポーツSUVを作ろうとしたのだが、実のところ別に楽しくはないし、スポーティーなわけでもない。ロンドンから運転したときには75分が1週間に感じられた。その日はロックダウン中で道が空いていたにもかかわらずだ。それほど退屈で、そして快適性が低い。

家から数百メートルの場所で飼っているブタに餌をやる必要があったのだが、レンジローバーは点検中で、トラクターも使用中だったので、私は穀物とパン、牛乳、野菜を持って徒歩で豚舎へと向かうことにした。

帰ってきてから4WDのクプラの存在を思い出した。私はこの車に穀物やらを載せて泥道を走る気にはなれなかった。それどころか、どんなシチュエーションでもこの車を運転したいとは思わない。