Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、フェラーリ・ローマの試乗レポートです。


Roma

今回は真面目にやろうと思う。この記事の主題はフェラーリで最も安価なモデル、ローマだ。記事のほとんどを本題とは関係のない雑談で占めて、本題の車については最後に少し触れるだけ、なんて記事を読者が望んでいるはずがない。当たり前だ。

私はローマに乗って友人のエリックの元へと向かった。彼はこれまでに何台もフェラーリに乗ってきたほどのフェラーリ好きで、フェラーリにはとても詳しい。フェラーリの魅力も知り尽くしている。そして彼は映画『ラッシュ/プライドと友情』の製作にも携わっている。

エリックはローマの車内に乗り込み、液晶表示のメーターパネルや超複雑なステアリングを見てこう言った。
フェラーリは自分たちのやり方を見失っている。

フェラーリいわく、ローマは70%が新設計となっているらしいのだが、暇を持て余したオタクたちは、ホイールベースが(評判の悪かった)ポルトフィーノと同一であることに気付いた。つまり、車の基本設計、そしてエンジンはまったく新設計などではないということだ。他にも噂があり、どうやらローマはもともとマセラティのモデルとして開発されたのだが、最後の最後でフィアットの気が変わり、跳ね馬のバッジを付けられることになったらしい。

さまざまな人に意見を聞いてみると、新型ローマがアストンマーティンにそっくりだと考えている人も多いようだ。しかし私はそうは思わない。私から見れば(ローマより10万ポンド安い)ジャガーのF-TYPEに似ているように思う。

要するに、ローマは熱烈なフェラーリマニアからの評価は低く、そもそも本来はフェラーリですらなかった可能性すらあり、そしてコストパフォーマンスも決して高くはない。

私は最近のフェラーリは方向性を見失っていると思っていた。最近のフェラーリはあまりにも巨大であまりにもパワフルなので、今やサウジアラビアの大富豪にしか適さない車になっている。イギリスで812 GTSを乗り回すのは、骨董品店の中で牛に乗るようなものだ。

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なので私はローマの登場を楽しみにしていた。ローマは小さいし、エンジンも無駄にパワフルではない。それに、フェラーリが一番輝いていた時代と同じく、フロントにエンジンが搭載されている。それに、ジャガー F-TYPEに似ていることのどこが問題なのだろうか。女性に「アリシア・ヴィキャンデルに似ている」と言うようなものだ。

価格は17万ポンドで、ジャガーやポルシェより高く、フォード・マスタングなどとは比べ物にならない。しかしフェラーリには魔法があるのだから、そこを気にする必要はないだろう。事実、ローマにもフェラーリの魔法がかかっている。

ステアリングを操作すると、たとえそれほどクイックな操作でなくとも、車から心を熱くする感覚が伝わってくる。まるで世界が一変したように感じる。胡散臭いと感じる読者もいるだろうが、本当の話だ。

アクセルを踏み込めば、見事な音と情熱が湧き上がる。1.5Lのセロトニンを一気飲みし、ドパミンのプールに頭から飛び込んだような感覚だ。理屈は分からないが、フェラーリとそれ以外の車では決定的に何かが違う。より軽く、より鋭く、そしてより楽しい。

私は初めてフェラーリ 355を運転したときにこの感覚を知った。それ以降、V8エンジンを搭載する小型のフェラーリに乗るたび、同じような感覚を味わってきた。ただただ楽しかった。当時のフェラーリはパワーを味わい尽くすことができた。

最近のフェラーリの場合、一度アクセルを踏み込もうと思っても、自衛本能によってアクセルに置いた足を緩めてしまう。イギリスの一般道でV12フェラーリのアクセルを2秒以上踏み込み続けられる人間など存在しないはずだ。当然、この「人間」の中にはルイス・ハミルトンも含まれている。

つまり、最近のフェラーリを買う場合、使い切れないパフォーマンス、活かされることのない排気量に金を払うことになる。けれどローマは違う。ツインターボV8エンジンの最高出力は620PSとかなり高性能なのだが、最大トルクは77.5kgf·mに抑えられている。十分に力強いのだが、踏み込んだら最後ではない。楽しめるパワーだ。

フェラーリ・ローマという車はドライバーの感情を揺さぶり、フラットプレーンエンジン特有の音を響かせ、そして一般道でその実力を味わうことができる。つまり、私向けの車だ。

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ミッドシップの488のほうが操作性は高いのかもしれない。ただ488の場合、ノーズが低いのでちょっとした斜面でも減速しなければならない。一方、ローマならば何も気にせずに走り続けることができる。オールラウンダーとしての実力は高く、路面の悪い場所での乗り心地も悪くない。かなり滑らかだ。

実用性も高い。フロントエンジンなので荷室は十分確保されているし、荷室の開口部も広く、後部座席もちゃんとある。さすがに人間が座れる広さはなく、リチャード・ハモンドすら文句を言うくらいなのだが、ちょっとしたもの(赤ん坊など)を置く場所として便利だ。

ローマには液晶メーターなどの先進的な電子システムも満載されている。こういったガジェットは私の周りの自動車評論家への受けは悪いのだが、少なくとも使っていて困るような代物ではなかった。不思議なことに、ローマの場合はステアリングに集約された操作系に不便を感じることもなかった。ワイパーレバーやウインカーレバーをなくすなど馬鹿げているとしか言いようがないのだが、ローマの場合はライトの操作系も3日で慣れてしまった。

しかし、シートのせいですべてが台無しになってしまう。どれだけ調整しようとも十分なサポートは得られず、椅子に包まれて座っているというよりは、椅子の上に座っているという感覚になる。これは非常に恐ろしい感覚だ。ダイニングチェアのほうがまだましだ。

オプションでスポーツシートを選択することもできるのだが、今度は別の問題に直面する。狂気的な量のオプションだ。リアディフューザーをカーボンファイバー製にしたい場合、6,720ポンドかかる。ツートーンレザーは4,800ポンド、可倒式リアシートは960ポンドだ。ありとあらゆる装備がオプションで、試乗車の実際の価格はおよそ23万ポンドだった。

ローマは優秀な車だ。かなり優秀だ。上品で美しく、速く、そして実用的だ。とても気に入った。けれど、価格を考えると実際に買おうとは思わない。


The Clarkson Review: Ferrari Roma