Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、メルセデスAMG GLE53 4MATIC+の試乗レポートです。


GLE53

アウディ Q5。BMX X3。レクサス UX。ポルシェ・カイエン。私はこういう車が嫌いだ。基本設計はセダンと同じで、意味もなく背を高くされ、意味もなく重くなり、そして多くの場合、ほとんど使われることのないようなオフロード機能が付加されている。

デイリー・テレグラフの広告に出ている19.99ポンドのガーデニング用ズボンがファッション業界でどんな立ち位置にあるか想像してみてほしい。あるいはガソリンスタンドで販売されているポークパイのグルメ業界での立ち位置でもいい。クロスオーバーSUVの自動車業界における立ち位置はそれらと変わらない。タイヤとシートさえあればいいという人のための、志の低い移動手段でしかない。

なので、メルセデス GLEの試乗車が来たところで楽しくなどないだろうと予想していた。しかもその車にはAMGのバッジが付いていた。GLEは7人乗りの巨大SUVだ。スポーティーになどなりえない。長靴にスポーティーなストライプを付けても長靴であることに変わりはないはずだ。

それだけではない。GLEのメーターパネルは普通のものではなく、航空機でいうところのグラスコックピットのようなものが採用されている。この設計の理由は明らかだ。コスト削減のためだ。普通のメーターパネルを作るためには何千ものパーツを組み合わせる必要がある。針、バネ、大量のネジやワッシャー、そして配線が必要となる。けれど液晶ディスプレイならすべて不要になる。これはかなりのコスト削減に繋がる。

ディスプレイにはダイナーの朝食メニューよりも多彩な表示メニューが用意される。速度表示をアナログにすることもデジタルにすることもできるし、表示させる情報をカスタマイズすることもできる。ワープ中の宇宙船エンタープライズ号のようなエフェクトを表示するまったく意味のないモードも選択できるようだ。それだけでなく、車内のライティングにも多彩な選択肢が存在する。

私はこういったまやかしが嫌いだ。そもそもこういったものを信頼していない。私は今、家を作っているのだが、建築会社の担当者に常々言っていることがある。iPadを使って遠隔で風呂を沸かす機能などいらないし、天井に格納できるキッチンも、地熱を活用した調理器具も必要ない。それどころか調光スイッチすらもいらないと思っている。

rear

特にいらないと思っているのがガレージ用の電動シャッターだ。ランナーに砂利が入り込めば(絶対入るだろう)電気モーターでは開閉できなくなってしまう。けれど手動であれば動かせる。

サーモスタットも嫌いだ。デジタルのメニューやコントロールパネルなどいらない。5,000種類の温度調整機能など必要としていない。オンとオフさえできれば十分だ。これだけあれば暖房として機能する。

スマートスピーカーもいらない。世の中には虚空に向かって喋りかけることに抵抗がない人もいるようだが、私は違う。なので私は代わりにスピーカーを置けるテーブルを購入した。スピーカーとは大きくあるべきだ。そして木製であるべきだ。

シフトレバーについても同じように考えている。シフトレバーはセンターコンソールから生えている棒であるべきだ。間違ってもメルセデスのようにステアリングコラムから生えている棒なんかであってはならない。これは機械的ではなく電子的に動いている。Wi-Fiルーターを使ったことがある人なら分かるだろうが、電子機器は信頼できない。もし私の家のルーターが変速の仕事をしようものなら、走行中に何の前触れもなくリバースに変えてしまうだろう。

先日、自宅のテレビ画面に線が入るようになってしまった。その結果、業者の手によってテレビシステムがすべてリセットされてしまい、これまで録画してきたすべての番組が消えてしまった。これはVHSの時代にはありえないことだ。

だいぶ話がそれてしまったのでここで読者に謝っておこう。ついでにメルセデスにも謝りたい。液晶メーターはしっかり使い物になった。ライティングを緑色にし、メーター表示を普通のタコメーターと普通のスピードメーターにしてしまえば、ごく普通の車として扱えた。

そしてもうひとつ驚いたのが車自体の性能だ。GLE53という名前から、5.3Lのエンジンが搭載されているのかと想像するのだが、実際は435PSの3L 直列6気筒エンジンが搭載されている。このエンジンは非常に滑らかで、9速ATを介して四輪を駆動する。この車は速いし、直線番長でもない。車重も想像していたより軽く(2.3トン)、十分に飛ばすことができる。

interior

唯一の不満点(もちろんもっと背が低ければ良かったのは間違いないだろうが、それは別としておこう)は、高速道路で走っていると4本出しのマフラーから延々と排気音が聞こえる点だ。

しかし、それさえ無視すれば基本的に快適性は高い。シートは大きくて快適だし、乗り心地も良い。特に気に入ったのがセンタートンネルの両端にある持ち手だ。ランボルギーニ・ミウラにも同様の持ち手があるのだが、こちらは片方にしかない。それからダッシュボードの見た目も気に入ったし、なにより後席の足元空間が広いのが嬉しい。床下収納可能な2座の3列目シートは小さく、かなり痩せた犬なら座ることができる。

数日乗って、自分がこのSUVに乗ることを楽しんでいることに気付いてしまった。なので価格を確認してみたのだが、試乗したグレードの価格が81,000ポンドということを知って飛び上がってしまった。私のレンジローバーよりもよっぽど安い。

ちょっとした農作業に出掛けるなら、ひょっとしたらレンジローバーよりもこっちのほうが良いのではないかとさえ考えるようになった。

しかし、舗装道路でのパフォーマンスの高さには代償がある。あまりにも硬く、未舗装路での乗り心地はかなり悪い。轍のできた道を走ると、トタンの上でローラースケートをしている気分になった。自分の眼球が取れなかったことが奇跡だとさえ思える。

悪路を走行するような人向けにはGクラスがある。GLEはより装飾的な、ボルボ XC90と同じ立ち位置の学校送迎用車なのだろう。しかしそうなると困ってしまう。

XC90は走りも乗り心地も見た目も、どれをとっても別に優秀ではないのだが、私は子供たちの送り迎えにずっとXC90を使ってきた。イギリス国内で車同士の衝突事故で命を落とした人間は1人や2人ではない。子供を乗せる車なら、最も重要なのはそういった部分なのではないだろうか。