Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、アストンマーティン DBXの試乗レポートです。


DBX

アストンマーティン DBXはアストンが初めて参入するカテゴリーに属する新型車だ。しかも製造拠点はまだ実績のない新工場で、新型コロナウイルスのパンデミックのせいでショールームに客がたくさん来る見込みもない。

それ以外のランボルギーニやベントレー、フェラーリなどの自動車メーカーは大手自動車メーカーの傘下にあるため、親会社の持つ最新技術を利用することができるし、コロナ関係のリスクからもある程度は守られるだろう。一方でアストンマーティンの株主はズボンを売って生計を立てている資産家くらいしかいない。

株主らはアストンに5億ポンドの投資を行った。大金に思えるかもしれないが、ルノー換算だとエアコン用ダイヤルの開発費くらいだろう。ちょうどその頃、メルセデスAMG出身の男が新CEOとなり、間もなくDBXも完成した。

要するに、DBXは株価が死にかけた会社が低予算で作り上げた車だ。電気自動車版DBXの開発計画など早々に頓挫し、新設計のV6ハイブリッド搭載計画も延期となり、結局搭載されたのはメルセデス製の4Lエンジンで、それ以外にも最新(およそ10年前)のメルセデスの部品が採用されている。

このような背景があったので、良い車に仕上がっているなどとは到底思っていなかった。しかしそんなことを言ったら読者に怒られてしまう。なにせイギリスでアストンの文句を言うのは違法だ。女王が嫌いだと公言するようなものだ。我々は生まれながらにしてアストンを愛するようにできている。

ともかく、話を進めよう。まず驚いたのがDBXのサイズだ。まるでリチャード・オスマンだ。テレビで見ると普通の大柄な男性程度に見えるのだが、実物は電信柱よりも背が高い。私は5日間DBXを借りており、その間ずっとポルシェ・マカンと同じくらいのサイズだと思っていた。ところが実際はレンジローバーより5cmほど長い。

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しかしレンジローバーよりもよっぽど背が低く、おかげで見た目は非常にスタイリッシュだ。見た目の良さには低さだけでなくピラーレスドアや巨大な22インチホイールも関係している。そして何より魅力的なのがボディカラーだ。試乗車は深い黒色だった。しかし太陽が昇るとダークグリーンへと変化する。実に素晴らしい色だった。

DBXのカスタマイズの豊富さにも惹かれた。バッジの色からシートの縫製まであらゆる選択肢が用意されている。リアバンパープロテクターとパーティションが付くペットパッケージまで用意されている。そしてスノーパッケージもある。

助手席に金庫を装備することもできるし、荷室に銃保管庫を装備することもできる。少なくとも、ベース価格の158,000ポンドはコンフィギュレーターをしばらくいじっているだけで遥かに超えてしまうだろう。

最近のアストンマーティンはあまりに高価だ。アストンのインテリアには価格に見合った特別感がない。けれどDBXだけは例外だ。特に嬉しいのが、最近の流れに反してステアリングが四角形ではなく円形になっている点だ。メルセデスの旧式インフォテインメントシステムを批判する人もいるだろうが、当時のシステムはまだ過剰に複雑になる前のものだ。なのでむしろ今のシステムよりも使いやすい。

ただし、シフトレバー代わりに用意されているボタンは使いづらい。私の記憶が正しければ、ボタン式のシフトセレクターが初めて登場したのは1990年代初頭に発表されたフォード・フィエスタのコンセプトカーだったと思う。使いづらさはその時からまるで変わっていない。

レザーの縫い目にも問題がある。ある自動車評論家は失敗した整形手術のようだと批判していた。しかもアームレストの縫い目は運転中に腕に刺さるためかなり鬱陶しい。

interior

しかし、なにより鬱陶しいのは乗り心地の悪さだ。DBXには48Vの電動エアサスペンションが装備されているため、浮くような乗り心地を想像していたのだが、実際はまるで違った。大径ホイールのせいでもあるのだろうが、路面の衝撃を直に拾ってしまうため、ロンドンでは悪夢のような乗り心地だし、高速域ではふらついてしまう。車内で歌えばビブラートとはどういうものなのかを学ぶことができる。

どうしてこうなってしまったのだろうか。こんな車を購入するのは50代から60代くらいであろうことなど、アストン自身も理解していたはずだ。この年代の人間にとって何より重要なのは快適性のはずだ。

確かにDBXは高回転域まで回せば速くて楽しいし、ディファレンシャルは前後の駆動力配分を細かに調整してくれる。しかし、SUVをそうやって運転したいと思う人間などいない。多少のロールやアンダーステアを許容してでもリラックスして運転できることを望んでいる。間違ってもトタンの上を走る気分を味わいたいなどとは思っていない。

ちなみに、悪路走破性についてはまったく検証していないし、そもそもこんな車で悪路を走ろうとする人間などいないだろう。確かにDBXには悪路に対処するためのさまざまな技術が搭載されているのだが、舗装路用の高性能低扁平タイヤを履いているので、濡れた草地に入ろうものなら、そのまま徒歩で家に帰らざるをえなくなる。

私はどうすればいいのだろうか。アストン信者しかいないようなこの国で、アストンの新型車がそれほど優秀ではなかったと結論付けてもいいのだろうか。

ただ、DBX以外に最近登場した高級SUVも同じように問題を抱えている。ベントレー・ベンテイガはマイナーチェンジでましになったものの、やはり見た目は決して美しくはない。ロールス・ロイス カリナンは恣意的に見た目が悪くなるようにデザインされている。ランボルギーニ・ウルスからはランボルギーニの信念というものが感じられない。マセラティ・レヴァンテには存在価値がない。ジャガー F-PACEは優秀なのだが車格が下だし、アルファ ロメオ・ステルヴィオは結局のところジュリア クアドリフォリオの下位互換でしかない。

そんな競合車と比べた場合、DBXの存在が光ってくる。しかし忘れてはいけない車がまだあった。50年以上にわたって頂点に立ち続けてきたSUV、レンジローバーだ。歴史あるパイオニアに勝てる存在はいまだ登場していないようだ。