Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、ランドローバー・ディフェンダーの試乗レポートです。


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ここ最近、私は車のレビュー記事だけでなく農業に関する記事も書いているのだが、今回はランドローバー・ディフェンダーの記事、すなわち車と農業の両方に関わる記事だ。

ディフェンダーをデザインしたのはランドローバーのチーフデザイナー、ジェリー・マガバーンで、昔のディフェンダーに似せてデザインされているそうだ。しかし意味が分からない。Appleが新しい電話機を開発するとき、小便の匂いのする2mの高さの四角い箱を作ろうなどとはしない。

小柄なジェリーは私のことを嫌っている。何故なら彼は私よりもずっと背が低いからだ。そんな彼は賢明な判断をしたのかもしれない。イギリス人は変化を嫌う。旧型ディフェンダーは第二次世界大戦直後に発売され、それ以降67年間ほとんど変化がなかった。

ランドローバーがディフェンダーの製造を終了することが明らかとなると、ブレクジットを支持するような正統派英国紳士たちは角張ったディフェンダーの生産継続を要求した。

私はそもそも旧型ディフェンダーが嫌いだったし、新型ディフェンダーはその現代版として私のことが嫌いなチビが設計した車なので、私が気に入る要素など存在しないだろうと予想していた。

ところが困ったことに、私は新型ディフェンダーの見た目を気に入ってしまった。私が乗ったショートホイールベースのディフェンダー90はミニカーのような可愛らしさと肉々しい存在感を両立していた。しかも見掛け倒しではない。およそ90cmの水深まで進んでいけるし、電気系統は1時間水に浸かっても大丈夫なように設計されている。

つまり、新型ディフェンダーは角張っただけのレンジローバーなどではない。あらゆる状況に対応できるようにしっかりと強化されている。これは非常にありがたかった。というのも、試乗車が私の農場に届けられた日はちょうど舗装路の工事をしていたため、工事期間の1週間は農場から外の世界に出るために未舗装路を走らなければならなかった。
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しかもその未舗装路は泥だらけで、道と呼べるか怪しい箇所すらあった。そんな道を難なく進んでいくディフェンダーの性能には驚いた。その泥道は私のトラクターすら滑るような場所なのだが、ランドローバーは進み続けた。

特別な設定をする必要もなかったのでありがたかった。設定を変更するためにはボタンを押したあとにiPad風のタッチスクリーンでメニューを掘っていかなければならない。そんな仕様は12歳の子供にしか受け入れられないだろう。

その日の午後、農場の向こうのほうから銃声が聞こえたため、誰かが私の鹿を撃ったのではないかと心配になり、泥道を抜けて林へと入っていった。小柄なディフェンダー90なら木の間をすり抜けるのも容易だった。また快適性も高く、試乗車に搭載されていたエンジンはわずか2Lで、トルクのあるディーゼルですらなかったのだが、元気よく前へ前へと進んでくれた。

そのまま林に入った目的も忘れて調子に乗って遊んでいたら沼にはまってしまい、トラクターで引っ張り上げる羽目になった。なので少し残念に思ったのだが、翌日ディフェンダーを他の人に貸したらよっぽど浅い轍でスタックさせてしまったそうだ。名誉のために彼女の名前は伏せておこう。彼女の名前はLで始まってisa Hoganで終わる。

オフロードにおける快適性や走破性以上に驚かされたのが内装だ。明らかに意味のないフェイクのネジがあるのは残念なのだが、車内にはかなり多くの収納スペースがあるため、何かを隠せば誰にも見つかることはないだろう。フェイクのネジ以外は見た目も良く、特にキャンバス地のサンルーフは気に入った。祖父が乗っていた昔のローバーを彷彿とさせる。

3日後にはディフェンダーが欲しいと考えるようになったのだが、価格を見て考え直した。小排気量エンジンを搭載したショートホイールベースのモデルがなんとオプション込みで62,000ポンドもするそうだ。あらゆる装備を省略したとしても最低5万ポンドは必要だ。野山を駆け回るための車に5万ポンドもかけるくらいなら、ずっと安い値段で購入できるピックアップトラックを選ぶだろう。
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ピックアップなら警報も鬱陶しくないだろう。ディフェンダーはドアを開けてもシートベルトを締めていなくてもやかましく警報音を鳴らし、草や灌木に近づこうものならヒステリーを起こしてしまう。こういった機能は道具として使おうとした際にはかなり厄介だ。

翌日、ロンドンを運転してみると他の欠点も見えてきた。高速道路では風切り音が酷く、1960年代の海峡横断フェリーのようなピッチングが常時発生した。これが優れた走破性の代償なのだろうか。それとも、昔の車の雰囲気を出そうとあえてこういう設計になっているのだろうか。

その日はロンドンのロックダウン2.0直前だったので、かろうじて自転車レーン化していない残りわずかの車道に大量の車が集まっていた。ストランドからハマースミスのリバーカフェまで3時間もかかったのだが、その間にディフェンダーは周囲のありとあらゆる障害物に反応し、衝突事故寸前であると警告してくれた。

ただ、周りの人達はディフェンダーに好意的な視線を寄せていた。実際、細部の装飾も凝っていて、ディフェンダーの見た目は魅力的だ。悔しいが私を嫌っているチビの功績だ。しかもちゃんと本格的なオフローダーらしい仕上がりになっている。

私はディフェンダーを酷評しようと思っていたのだが、それはできなかった。警報はやかましいのだが、それ以外は完成度が高い。けれど、この車の存在価値は私には見出だせなかった。

荒野を駆ける道具として考えるとあまりにも高価だし、最上級モデルともなるとなんと8万ポンドを超えてしまう。今後、より安価な商用仕様も登場する予定らしいのだが、個人的にはずっと安価で税制的にも有利なフォード・レンジャー ラプターを選びたい。

田舎から都市部に通勤するビジネスマンなら8万ポンドを払うことはできるかもしれない。けれどディフェンダーは彼らが今乗っているであろうレンジローバーに総合力で勝てるような車ではない。

The Clarkson Review: Land Rover Defender