Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
最近、車の流れが遅いと感じないだろうか。昔から日曜になると時間を持て余した人が交通の流れを妨げていたのだが、最近ではシトロエンでホームセンターに出掛けるのが流行しはじめ、土曜日にも同じことが起こるようになった。そして今や、そんな状況が毎日のように起こっている。
こんな状況になったのはきっと政府のせいだ。政府はどんな犯罪よりも、テロリズムよりも、コロナウイルスよりもスピード違反を敵視している。ありとあらゆる場所にオービスが設置され、その場所すべてを記憶したとしても曲がり角の先にはバンに乗った公務員が隠れており、躍起になって集金活動を行っている。
それか、ロックダウンのせいかもしれない。わざわざ外に出掛けなくても政府が我々に金をくれるのだから、急いでどこかに移動する必要などなくなった。そんな時代、たんぽぽの綿毛のようにのんびり走ろうとも生きていくことができてしまう。
当然、遅い車がいても追い越してしまえばなんの問題もない。ところが、最近の人たちは前の車が40km/hで走っていてもおとなしくその後ろを走り続け、決して追い越そうなどとはしない。
さらに困ったことに、どうやら最近道路交通法が改正されたらしく、自転車が横並びになって走るようになった。つまり、近い将来、我々は自転車に乗った高齢の社会主義者たちとまったく同じ速度で走らなければならなくなるだろう。
そんな未来に希望などない。運転が遅い人がいたら、その人の顔をぜひ見てほしい。口をぽかんと開け、死んだ目をしているはずだ。そんな人間の人生に意義も目的も存在しえない。しかも、そんな人間のせいで我々の時間が失われていく。このままでは、たとえこのパンデミックが終わろうと、活力も、野心も、希望もない人ばかりの国になってしまう。景気回復の見込みなどあろうはずがない。我々は速度を上げなければならない。
先日、オックスフォードとレディングの間で馬運車を見かけた。その後ろには11台もの車が連なっており、どの車も追い越そうなどとはせず、延々と20km/hで走り続けていた。
しかし私は後ろを走り続けられるような状況ではなかった。私は遅刻していた。私の口から遅刻なんて言葉が出ることはほとんどない。私は決して遅刻などしない男だ。ところがその日、私は遅刻していた。そのとき乗っていたレクサス LC500 コンバーチブルには地球上で最も無能なナビゲーションシステムが装備されていた。
最近のレクサスのレビュー記事を読むとことごとくナビが批判されているのだが、どういうわけかトヨタはナビを改善しようとはしない。タッチパッド上の指の動きと画面上のカーソルの動きはまるで連動していない。路面が悪くなって衝撃でタッチパッドに触れてしまうと、必要としていない機能が立ち上がり、行きたくもない場所に目的地が設定されてしまう。元に戻すのも一苦労だ。
レクサスのナビは運転中に操作すると非常に危険なので、わざわざ車を停めて設定を戻し、目的地を設定しようと試みた。ところがこの操作に25分もかかってしまった。その結果、私は遅刻してしまったというわけだ。
幸い、このレクサスなら遅刻を取り戻すこともできる。LC500には史上最高峰のエンジンが搭載されている。このエンジンはターボチャージャーの付いていない5.0L V8で、グレタ・トゥーンベリの教義に反する本物のパフォーマンスを発揮する。
想像していたほどトルクはないのだが、その代わり10速のトランスミッションが装備されている。おかげで12台の車を追い越そうとアクセルを踏み込んだ直後、車がどのギアを選択しようか悩み、わずかなタイムラグが生じる。そしてわずかな時間のうちに、無事に追い越せるか不安になってしまう。
しかし心配する必要はない。適切なギアが選択されたあとは滑らかに馬力の波が発生し、脳内からセロトニンやドパミンなど、人間に活力と知性をもたらすありとあらゆる物質が分泌される。
この車には他にも良い点がある。2人乗り(リアにも荷物置き用のシートはある)の内装は非常に美しく、装備も充実しており、メーターパネルの表示を一変させることができるボタンもあるので、決して飽きることはないだろう。シートのサポート性が高いのも嬉しい。なにせこの車は操作性もグリップ性能もかなり高い。
ランフラットタイヤを履いているせいで乗り心地が悪化していると批判している人もいるのだが、個人的にはそれほど問題だとは感じなかった。オプションとして設定したほうがよかったのかもしれないが、ただそうするとただでさえ狭いトランクがスペアタイヤで埋まってしまうだろう。
馬運車の後ろを走っている速度ではルーフを下げることもできた。そうすることで、馬運車のドライバーは私が追い越し際にしたジェスチャーをよく見ることができただろう。
ただし問題点もある。まずデザインだ。派手だし独創的で面白いデザインなので、これを商品化したレクサスには称賛を贈りたい。けれど良いデザインかと言われると、どうだろうか…。
価格はスポーツプラスパッケージが96,625ポンドだ。これは本格スポーツカーのポルシェ 911と同等だ。また、911ほど本格的ではないものの、見た目の美しいジャガー F-TYPE Rも同じくらいだ。そしてなにより、フォード・マスタングの存在がある。この車はドナルド・トランプに投票するような馬鹿げた車なのだが、レクサスと同等の性能を約半額で実現している。それに、マスタングのV8は騒々しいので、ゆっくり走ることすら楽しめる。今の時代に重要なのはそこだろう。
ひょっとしたらレクサスはマスタングの2倍作りが良いのかもしれない。しかし、私が試乗した個体は駆動系から変な振動を感じることがあった。しかしレクサスに欠陥などありえるのだろうか。まさか。きっとラジオの選局をしようとしてタッチパッドに触れた際、誤って走行モードを「ギクシャク」にしてしまったのだろう。
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