米国「Motor1」によるアキュラ TLXの試乗レポートを日本語で紹介します。



TLX

新型アキュラ TLXはアキュラ最新の高級セダンだ。アキュラといえばかつて”Precision Crafted Performance”(精緻に造り込まれたパフォーマンス)というキャッチコピーを使っており、レジェンドという名車も生み出した。

そんな1990年当時の魅力を取り戻すため、ブランドチーフのジョン・イケダ氏をはじめアキュラ一丸となってスポーティーな新型車を生み出すことに専念した。そうして誕生した新型TLXは果たして、どんな車に仕上がっているのだろうか。

スペック的には魅力的に思える。新型TLXにはアキュラ専用のプラットフォームが採用されており、高性能グレードのタイプS以外は全車に2.0L 直列4気筒ターボエンジンが搭載される。RDXとも共通のこのエンジンは最高出力276PS、最大トルク38.7kgf·mを発揮する。これは従来の2.4Lエンジン比で67PS/13.5kgf·m向上しており、従来型にオプション設定されていた3.5L V6エンジン(294PS/36.9kgf·m)と比較しても、出力では劣るもののトルクでは勝っている。

トランスミッションは優秀な10速ATで、さらにSH-AWD (Super Handling All-Wheel-Drive) が組み合わされることでパフォーマンスを高めている。しかし果たして、実際の走りはどうなのだろうか。

アキュラはスポーティーで自然なハンドリングを実現するため、数多くの工夫を加えている。フロントサスペンションはダブルウィッシュボーン式となり、ハードなコーナリング中や悪路での接地性を高めている。

アルミニウムやプレス硬化鋼などの強度の高い材質を採用したことで、新設計プラットフォームは従来型と比べて50%高剛性化されている。エンジンフードやフロントフェンダー、ダンパーマウント、バンパーサポートにアルミニウムが採用され、バッテリーがトランク内に搭載されたため、前後重量配分も改善している。

しかし、それだけしても前輪には車重の57%の重さがかかっている。実際にコーナーを走ってみても、スキール音とともにはっきりとしたアンダーステアを呈し、フロントは予想以上にロールする。

今回試乗した「A-Spec」および「Advance」はいずれもSH-AWD装着車だった。このSH-AWDは後輪と左右トルク配分を状況に応じて100:0から0:100に変更することができるため、スロットルをオンにしている状態でのアンダーステアはかなり抑えてくれた。

rear

しばらくタイトなワインディングを運転してみて分かったのだが、この車はトレイルブレーキングが苦手だ。十分減速してからコーナーに進入し、コーナーに入ってからアクセルをしっかり踏むことで滑らかに走ることができる。それさえ意識すれば4WDシステムが優秀なトランスミッションとしっかり協調し、ラグの少ないターボエンジンとともに楽しく運転することができる。

また、試乗車はいずれもオールシーズンタイヤを装着していたのだが、グリップ性能の高いサマータイヤを選択すればコーナーの進入もより滑らかになるだろう。

SH-AWDの左右トルク配分のおかげで、緩やかなコーナーはかなり安心して運転することができる。電動パワーステアリングはアキュラらしく、応答性が高くてフィールも十分にある。

「A-Spec」には「Advance」に装備されているアダプティブダンパーが付いていないのだが、いずれも操作性は高い。おそらく標準ダンパーのセッティングはアダプティブダンパーのスポーツモードとノーマルモードの中間くらいなのだろう。

新型TLXの実物は写真で見るよりも堂々としていて安定感のある見た目だ。ホイールベース2,870mm、全長4,943mmと旧型より大型化し、ボンネットは長くなり、トレッドも拡大しているため、より高級感が増している。エンジンフードの膨らみは車外から見ても車内から見ても魅力的で、「A-Spec」、「Advance」ともに美しい19インチホイールがフェンダーにほぼ隙間なく収まっている。

インテリアも魅力的だ。センターパネルはまるで未来の宇宙船の操縦席のようで、操作ダイヤルはNSXのものがそのまま使われている。ベースグレードおよび「Technology」、「A-Spec」には本アルミパネルが採用され、「Advance」はアルミと木目が併用されている。タッチパッド操作用のパームレストも大きめで、各所にパッドがしっかり使われているため、エルゴノミクスは良好だ。私は腕の長さに比べて脚が長めなのだが、私の体型でもシートポジションはしっかり決めることができた。

直線道路において、TLXはアキュラ史上最高の高級車と言ってもいいだろう。内装は上質で前後ともにシートのサポート性も高く、乗り心地も、特にコンフォートモードではかなり上質だ。

前席は左右が従来以上に離れているため、大柄な大人2人が並んで座ってもかなり快適だ。リアシートも十分に広く、同価格帯のメルセデス・ベンツ C300やBMW 330iよりも余裕がある。

interior

TLXの「A-Spec」および「Advance」にはELS Studio 3Dオーディオシステムが標準装備されている。このオーディオは中高音域がかなり澄んで聞こえるし、低音もしっかりと響く。ストリーミングでも音は良く、音楽好きにはうってつけだろう。

先進装備も充実している。10.2インチディスプレイは見やすい場所にあるのだが、ドライバーの手の届きにくい場所にあるので、代わりにタッチパッドで操作を行うことになる。タッチパッドでの指の操作はそのまま画面に反映される。基本的に直感的で使いやすい。

「Advance」には10.5インチのヘッドアップディスプレイも装備され、より運転に集中することができる。それに、もし運転中にうっかりしてしまったとしても、全車標準装備の運転支援システム「AcuraWatch」がしっかりサポートしてくれる。これには自動ブレーキやアダプティブクルーズコントロールも含まれる。その他、ベースグレード以外にはブラインドスポットモニタリングやリアクロストラフィックアシスタンス、前後パーキングセンサーも装備される。ただ、残念ながらサラウンドビューカメラは設定されない。

アキュラは他社の車と比較を行って優位性をアピールしている。例えば、1クラス上のBMW 530i xDriveと比較しても、TLXのほうがエンジンの応答性は高く、内装も上質だそうだ。また、メルセデス・ベンツ C300 4MATICやアウディ A4より圧倒的に室内は広い。しかし現実的には、メルセデスやBMWのほうが操作性は高く、まして3シリーズと比較したらなおのこと差は大きい。

とはいえ、アキュラは存在感の薄いTLXの魅力を最大限に向上している。ベースグレードは37,500ドルで、この価格で十分快適で広い車に仕上がっている。今回試乗したA-Spec SH-AWDは46,250ドルで、Advance SH-AWDは48,300ドルだ。

Advanceは諸経費込み49,325ドルで、この値段で上質な内装、快適な乗り心地、存在感のあるスタイリング、高いパフォーマンスを持つスポーツセダンを手に入れることができる(低速域のハンドリングの悪さは欠点だが)。TLXは完璧な車ではないのだが、旧型から順当に進化しているし、競合車と比べても遜色ない車に仕上がっている。


2021 Acura TLX First Drive Review: Making Strides Toward Excellence