Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、JIA レンジローバー チーフテンの試乗レポートです。


JIA Chieftain Range Roverjpg

加齢現象は気付かぬうちにこっそりと進行していく。スナイパーのごとく死角から音もなく忍び寄ってくる。脳が破壊されるまでそれに気付くことはできず、そうこうしているうちに死んでしまう。

新聞で誕生日の記事を見るたび、有名人の年齢に驚いてしまう。例えば、ゾーイ・ボールはつい先日まで子供だったはずなのに、今やもう50手前だ。

ジャネット・ストリート・ポーターは73歳だ。そんなまさか。ジョン・プレスコットは82歳、グロリア・ハニフォードは80歳だ。かつて『ロクサーヌ』を歌っていたスティングはもう68歳で、年金受給者になってしまった。デール・ウィントンに至っては既に死亡している。

子供の成長速度にも驚かされる。ついさっき、ベビーチェアに座ってスパゲッティをこぼしていたはずの子供が、一瞬目を離した隙にInstagramで大きくなったお腹を自慢している。

人間が20歳になるまでには20年間かかるのだが、おそらく20歳から80歳までにかかる期間はせいぜい5分程度なのだろう。実際、私自身、自分が60歳であるなんて信じられない。

まるでSF映画の中にいるような感覚だ。毎分のように誕生日を迎えている。そして次の誕生日には私は61歳になる。ちょうど私の父親が死んだ年齢だ。

けれど、感覚的には自分はまだ19歳だ。しかし、柵を飛び越えようとすると膝が痛くなり、自分が若くないことを実感してしまう。それに、昨晩は寝る前に牛乳を飲んだあと、自分の眼鏡を冷蔵庫の中に置き忘れてしまった。

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毎日毎日同じことの繰り返しのように感じるのだが、実際は違う。加齢現象は私の関節を、そして脳をひっそりと蝕んでいく。私は気付かぬ間に劣化を続けている。

それは車も同じだ。私はときどきクラシックカー専門サイトを眺めながら、1966年式のアルファ ロメオ GTAを所有する生活を妄想している。あるいはランチア・フルヴィアHFやBMW 3.0 CSLのこともある。魅力の欠如したエコ箱ばかりの現代の新車よりも、こういったクラシックカーのほうがずっと魅力的に思える。

けれど、本当はそんなはずがないということは自分でも分かっている。最近の車にはエアコンもカーナビもパワーシートも装備されており、クラシックカーなんかよりもよっぽど使いやすい。

ワイパーが好例だ。1970年代のワイパーはまともに動かなかった。もちろん、スイッチを操作すれば左右に動きはしたのだが、80km/h以上で走行するとワイパーが窓から浮いてしまった。そして80km/h未満で走っているときには船が座礁したときのような耳障りな騒音が鳴る。

暖房も効かないし、ステアリングは特に駐車場の速度域ではあまりに重く、まともに操作することすらできない。

しかし、何より今の車と違うのは快適性だ。最新の車はどんな安物であろうともある程度は路面の衝撃を抑えてくれる。一方で思い出の中のクラシックカーの乗り心地は最悪だ。暴れよろめき、軋んで揺れて、乗員に着実にダメージを与える。

そしてこれが今回の主題となっている車の話に繋がる。どういうわけか、昔のレンジローバーは憧れの対象となっている。しかしこれは意味が分からない。GTAやフルヴィアHF、3.0 CSLなんかとは違って、レンジローバーは見た目が美しいわけでもなければ希少なわけでもなく、そもそも車自体に特別な魅力があるわけでもない。ただ古いだけにもかかわらず、状態の良い個体が5万ポンドから10万ポンドの間で取引されているのは意味が分からない。

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私のある友人は何台あるのか分からないほどたくさんのクラシックカーを所有している。彼はエンジンを他の車と入れ替えることに喜びを感じるらしい。先日、彼は私にアストンマーティンのV12エンジンを搭載する昔のレンジローバーを貸してくれた。それは非常に興味深い車だったのだが、自分の所有している現代のレンジローバーのほうがよっぽど乗りやすい。

別の友人は昔のジェンセン・インターセプターを復刻する企業に投資しており、今は昔のレンジローバーを復刻したチーフテンという車を作っているらしい。その友人にも「試乗してみるか?」と言われ、断る言い訳を考えているうちに私のもとに車が届いてしまった。

私が農場で使っている12年前のレンジローバーの隣に停めると間抜けな感じがした。そしてもう1台所有している3年前のレンジローバーと比べるとあまりに小さく、こんな車など使い道がないように感じた。とはいえ、借り物なので義務感で乗ってみたところ、その週は他の車を運転する気になれなかった。

チーフテンにはもともと搭載されていたV8エンジンに代わり、シボレー・コルベットに搭載されている6.2LのV8エンジンが搭載されている。最高出力は430馬力で、GM製の6速ATを介してランドローバーの4WDシステムを駆動する。

アクセルを踏み込むと、丘を駆け下りる幌馬車のように荒々しい変速が起こり、同乗者が悲鳴を上げるほどの勢いでリアが沈み込む。

嬉しいことに、チーフテンを製造しているJIA(ジェンセン・インターナショナル・オートモーティブ)は走行中に部品が落ちてこないように車を製造している。シャシも変更されており、サスペンションは完全独立懸架となり、ブレーキも強化されている。それでも、完成した車はまともに運転することはできない。ただひたすらにしがみつくだけだ。そんな車に乗るのは非常に楽しい。

好みに応じてホイールアーチを膨らませたり、ボディカラーを派手派手しくすることもできるのだが、試乗車はオースチン・プリンセス風のベージュで、ホイール以外はほとんど素のままだった。手作りのステンレススチール製排気システムを装備しているのだが、排気音もそんなに特別感はない。

おかげで周りにはごく平凡な昔のレンジローバーだと思われるので、そんな車が圧倒的な加速を見せれば周りの人間達は口をあんぐりと開けて驚くだろう。最近、青信号でアクセルを全開にすることなど滅多になかったのだが、この車はそうする気にさせてくれた。若返ったような気分だった。

久々に自分の現代的レンジローバーを運転すると、また60歳に戻ってしまった。それはとても憂鬱で、また古いレンジローバーに乗りたいとすら思ってしまった。ただし、チーフテンを入手するためには176,400ポンドも払わなければならない。車としてはあまりにも高い。けれど、若返りの万能薬として考えればかなりお買い得だ。