米国「MOTOR TREND」によるポルシェ 911ターボS カブリオレとマクラーレン 720Sスパイダー、メルセデスAMG GT R ロードスターの比較試乗を日本語で紹介します。


Comparison

こんな車を見たら、きっと子供たちは飛び跳ねて喜ぶだろう。大人は冷静を装うだろうが、本当は同じように飛び跳ねたいはずだ。中には子供のように喜んでしまう大人もいるだろう。

それほどまでにこの3台は希少で強烈な車だ。3台ともオープンカーで、それぞれが各メーカーの(ほとんど)最強モデルだ。「ほとんど」という表現をしたのは、マクラーレンには765LTがあるし、メルセデスにはGT R PROがある。それに、ポルシェからはGT2 RSが登場する。それに、それぞれハイパーカー(P1、セナ、プロジェクトワン、カレラGT)も手掛けている。

ここで疑問が生じる。どうして超高性能スーパーカーの屋根を取り去ってしまうのだろうか。そんなことをすれば剛性は低下するし重量も増加する。しかしそんな疑問はカリフォルニアの素晴らしい道路でこの3台を運転すればどこかへ消え去ってしまう。むしろ作らないほうがおかしいとさえ思える。

最初に言っておくが、今回は特別なテストなどはしていないので、具体的な数字で3台の性能を比較することはできていない。それに、マクラーレン 720Sスパイダーだけ317,500ドル(しかも試乗車は372,750ドルの仕様だった)と他の2台と比べて高く、公平を期すためには259,000ドルの600LTスパイダーを選択すべきだったのだろう。しかし、今回600LTは用意できず、やむをえず720Sになってしまった。

AMG GT R ロードスターについても注釈しておかなければならないことがある。この車は設計が古い。AMG GT Rロードスターが登場したのはつい1年前なのだが、AMG GTが登場したのは2014年のことだ。それに、C190/R190(C190はGTクーペ、R190はGTロードスター)はC197/R197、すなわちSLS AMGの改良仕様だ。要するに、シャシの基本設計は2009年から変わっていない。ホイールベースは50mm短縮されているものの、ボディの基本構造も同じだ。

わざわざこんな解説を入れたのは、ポルシェの992ターボSが完全新設計だからだ。おそらくAMGもGTの設計を近いうちに刷新するだろう。設計年次の差を言い訳にしたいわけではないのだが、当時は19インチが最先端だった。一方、ポルシェは21インチタイヤを履いている。そのあたりの時代的な違いは如何ともしがたい。

面白いことに、今回の3台はそれぞれまったく違った構造を採用している。AMGはフロントエンジンで、マクラーレンのエンジンはミッドシップに、911のエンジンは後輪の後ろに搭載されている。

GT R ロードスターはM178型と呼ばれるAMGの4.0LツインターボV8エンジンの高性能版を搭載している。一般的なV8のAMGに搭載されるM177型のドライサンプ版と考えてもらっていいだろう。ちなみに、紛らわしいのだがAMG GT63にはM177型が搭載されている。GT R ロードスターのM178型エンジンは最高出力585PS、最大トルク71.3kgf·mを発揮し、7速デュアルクラッチトランスミッションを介して後輪を駆動する。

720Sのエンジンもドライサンプの4.0LツインターボV8で、最高出力720PS、最大トルク78.5kgf·mを発揮する。しかし、AMGとはひとつ大きな違いがある。720Sは平面クランクシャフトを採用している。おかげでエンジンはよく回り、軽量化にも貢献している。その代わり、振動は大きく、強度もクロスプレーンV8エンジンには劣る。要するに、レーシングカーには適しているものの、日常使用では問題がある。トランスミッションはAMG同様にDCTだ。

ターボSは他の2台とは違い、3.8Lのツインターボ水平対向6気筒エンジンを搭載する。最高出力は649PS、最大トルクは81.6kgf·mを発揮する。トランスミッションは他の2台同様DCTなのだが、他の2台が7速なのに対し、ポルシェは8速となっている。また、他の2台は後輪駆動なのに対し、ポルシェは4WDだ。AMGとポルシェは四輪操舵システムを採用しており、カーボンセラミックブレーキは3台すべてに装備される。ちなみに、4人乗れるのはポルシェだけなのだが、ポルシェの後席も実質的には使い物にはならない。

加速性能はどの車も狂気的に高い。マクラーレン 720S(クーペ)は100km/hまで2.5秒で、0-400m加速は10.1秒(228km/h)を記録している。887PSのポルシェ 918スパイダーと比べてもわずか0.1秒差だ。しかも720Sは2WDだ。

旧型モデルの数字になってしまうが、991ターボS(クーペ)の0-100km/h加速は同じく2.5秒で、0-400m加速は10.5秒(212km/h)を記録している。0-400m加速時の最高速はマクラーレンに10km/h以上差をつけられている。もっとも、991の最高出力は580PSとマクラーレンより低いし、車重もマクラーレンのほうが軽い(ポルシェは1,613kg、マクラーレンは1,436kg)。

AMG GT Rのクーペモデルは車重1,669kgで、0-100km/h加速3.4秒、0-400m加速11.4秒(208km/h)を記録している。

992ターボSは旧型モデルよりも速くなっているだろうし、720Sスパイダーはクーペよりも(多少は)遅くなっているだろう。そしてAMG GT Rと他の2台の加速性能には大きな開きがある。

オープンカーは通常、クーペよりも重い。屋根がなくなって剛性が低下してしまう分、シャシに補強が必要になってくる。マクラーレンのようにもともと高剛性のカーボンファイバー製タブを採用している車であっても、ルーフのせいで車重は増加している。

720S
720Sスパイダー

720Sスパイダーの見た目は非常に魅力的だ。2014年に登場したランボルギーニ・ウラカン以来の素晴らしいミッドシップデザインだ。マクラーレンのデザイナー、ロバート・メルヴィル氏率いるチームは驚くべき偉業を達成した。スパイダーは屋根を開けた状態でも開いた状態でも恰好良い。そんなオープンカーはそうそうない。

GT Rはコンバーチブル化して失ったものはあるのだが、それでも角度によってはロードスターのほうが魅力的に見えることもある。超高額な有料色であるイエローを選択した場合はなおさらだ。特にリアエンドは最高だ。

一方、911ターボSはコンバーチブルのほうが見た目が明らかに悪く、それは屋根をおろした状態でも変わらないし、オレンジのボディカラーはどこか違和感があった。クーペでは感じなかった野暮ったさを感じた。ぜひともポルシェには見た目の良いタルガターボを作って欲しい。

マクラーレンの内装は賛否両論あるだろうが、ドイツ車にはない独創性はある。まるでウェットスーツから作った宇宙船のようなインテリアだ。

一方、ポルシェの内装は無難だ。赤いレザーが使われるくらいの遊び心はあるのだが、本質的に真面目さが漂っている。操作系は最低限で直感的に扱える。そしてポルシェとしては珍しく、カップホルダーが(70%くらいの確率で)使い物になる。

そして、3台の中で最も優れた内装を持つのがAMGだ。インテリアは豪華絢爛で、エアコン吹出口すら高級感があり、収納スペースも多数用意されている。ただし、シートは3台の中で最も劣っている。狭いしクッションも薄い。フロントエンジン車のため、トランスミッションが席を二分してしまっているので仕方ないことではあるが。シートの完成度はポルシェが一番高かった。

ルーフがあろうがなかろうが、この3台は間違いなくスーパーカーだ。ただし、今回はサーキットなどでのテストは行えなかったので、数字で3台の実力をお伝えすることはできない。

720Sスパイダーで山道を走ると、鳥肌が立ってきた。この車はあまりにも速い。かつて、速さの象徴といえば911ターボSだったのだが、マクラーレンはそれを超えるような存在だ。エンジンはかなり強力で、速さが脳を支配する。

これほど速い車は今まで経験したことがないかもしれない。この車は3速で160km/h出せてしまう。しかもそれをいとも容易くやってのけてしまう。これほど操作性が高く、そして速い車を運転するともはや不思議な気分になってくる。

160km/hを超えると頭上のガラスパネルから振動が発生し、170km/h以上になると収まるのだが、174km/hを超えると再び振動が起こる。これについても詳しく調べるべきなのかもしれないが、そんなのは後回しでいいだろう。

この車は尋常ではない。この車には直線という概念が存在しない。コーナーを抜けると、またすぐにコーナーに辿り着いてしまう。未知の技術の結晶のような車だ。

マクラーレンほどの異常性はないものの、AMGもなかなかのものだ。普通に運転していても、基本的に140km/hは超えている。スペック的には見劣りしてしまうのだが、他の2台と負けず劣らず速く感じられる。2台についていくのもそれほど難しくない。そしてなにより、音は3台のうちで圧倒的にAMGが魅力的だ。

ポルシェはスポーツエグゾーストシステムを作動させていない状態であっても、以前の911以上に勇ましい音を響かせる。しかし、AMGの音圧はそれを圧倒する。同様にマクラーレンも圧倒している。

ターボエンジンゆえにマクラーレンのエンジン音は大人しい。しかし、AMGのターボエンジンはかなり豪快だ。特にルーフを下げるとエンジン音や排気音をより楽しむことができる。何故あえてクーペではなくオープンカーを買うのか。その理由のひとつは音にあるだろう。特にAMGは最高だ。ただし、レッドラインが7,000rpmというのは少し低すぎる。せめて8,000rpmにしてほしい。

992ターボSは以前の911とはまったく違う車だ。もはやかつてのようなグランドツアラーではない。ターボSにはスポーツサスペンション「PASM」が装備されており、その走りは野獣のようだ。もちろんこの「野獣」という表現は良い意味で使っている。野生的な速さがある。649PSという数字ばかりが目立っているが、81.6kgf·mという大トルクと4WDシステムの組み合わせがあるからこそ、これほどのモンスターが生まれた。

911
911ターボS


マクラーレンは直線で驚異的に速いのだが、ポルシェはどんな道でも速い。特にコーナー出口からの加速は圧倒的だ。ワインディングロードではおそらくマクラーレンよりも速いだろう。

AMG GT Rクーペにはリアサスペンションが異様に硬いという問題点がある。シボレー・カマロ ZL1 1LE同様、マルチマティック製のスプールバルブダンパーが採用されている。スプールバルブとは、簡単に言えば、凹凸ひとつない滑らかなサーキットでは大活躍するのだが、現実の舗装路においてはハンマーで殴られるような衝撃を乗員に与える。GT R クーペもカマロも乗り心地は最悪だ。

なので、GT R ロードスターの最大の懸念点もそこだった。しかし、どういうわけかロードスターの乗り心地はクーペよりもよっぽどまともだった。クーペの場合、私ならGT RよりもGT Cをおすすめしたい。GT Cのほうが馬力は劣るが、それ以外のあらゆる点でGT Cのほうが優れている。しかし、ロードスターの場合、個人的にはGT Rのほうを勧めたい。

ハンドリングは3台の中で最も不安が大きい。ステアリングはクイックすぎるし、フードはかなり大きく感じる。運転していると後輪の上に座っているような感じがするし、ステアリングに対する反応も想像より早すぎる。

決してハンドリングが悪いというわけではない。あくまで感覚が変なだけだ。この感覚に慣れさえしてしまえば、実際のハンドリングは他の2台と大差ないレベルだ。ただ、運転していてそれほど楽しいわけではない。ステアリングがクイックなのは良いのだが、クイックすぎるのは考えものだ。

おそらく、これには四輪操舵のセッティングが影響しているのだろう。以前、GT Cのプロトタイプ試乗会でAMGのトビアス・ムアースCEO(当時、現在はアストンマーティンCEO)にポルシェとの四輪操舵の違いについて質問したことがある。彼いわく、ポルシェはモーターを1個使うのだが、AMGは2個使っているそうだ。それによりAMGのほうがリアタイヤの切れ角が1度以上大きいらしい。これによりコーナリング性能は上昇しているのだが、フィールはむしろ不自然になっている。

マクラーレンにもフィールの不自然さがある。怖すぎてステアリングを握る手が汗だくになってしまう。高速域ではキックバックがしっかりあり、その点は素晴らしいのだが、ブレーキを掛けた際には暴れがちになってしまう。ブレーキの制動力に対して、前輪のグリップ力が足りていないように感じる。常にステアリングに注意を払っていないといけない。

認めよう。マクラーレンのステアリングは芸術的だ。けれど一方で、運転していて恐怖を感じるのも事実だ。こんな感覚になる車はほかにはケーニグセグくらいしかない。ステアリングの重さは完璧で、軽く操作することができる。グリップ性能も高い。ただし、基本的にこの車は後輪のグリップで走っている。前輪は少し不安だ。前輪のタイヤ幅は245mmと比較的細い。個人的にはもう少しタイヤのグリップを向上してほしいと思う。

ポルシェにはマクラーレン同様にピレリのP ZEROが装着されている(ちなみにAMGはミシュランのPilot Sport Cup 2が装着される)のだが、こちらはハンドリングに不安はない。まるで射撃をするように、狙った場所に車が進んでいく。

ポルシェもAMGもマクラーレンほどの刺激はないのだが、ターボSで山道を運転するのはマクラーレンの3倍くらい気が楽だし、それに実際の速さもそれほど変わらない。

この安心感こそがポルシェの鍵だ。1kmも走らないうちに車の特性が理解できるので、すぐに車の能力を引き出すことができる。マクラーレンの場合、数キロは走らないとそのポテンシャルを発揮するのは難しい。ちなみにAMGはステアリングのせいでいつまで経っても自信を持って運転することはできなかった。

やはり今回もポルシェの勝利としたい。3台を並べると、ポルシェだけ面白みがない。オレンジのボディカラーもそれほど似合っていない。720Sは野性的なスーパーカーだし、AMGは筋肉質で派手派手しい。しかしそんな見た目に惑わされず、ポルシェの本質を見るべきだろう。

AMG
AMG GT R


Winner: ポルシェ 911ターボS カブリオレ
意外かもしれないが、今回はポルシェの勝利だ。ポルシェは以前にも増して進化している。新しいターボSはかつてのGT2 RSの領域に踏み込んでいる。

2nd: マクラーレン 720S スパイダー
この車はタイヤの付いた巡航ミサイルだ。それほどまでにエキゾチックだ。けれど、日常的に使うなら911を選んだほうが無難だろう。

3rd: メルセデスAMG GT R ロードスター
性能は他の2台より低いものの、魅力では負けていない。今回の比較では3位だったものの、互角の勝負を繰り広げていた。