Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
再び試乗記事を書くことになった。ここ数ヶ月、ずっと広報車を確保することができず、仮に借りられたとしても、それに乗ってどこかへ出かけようものなら自粛警察に責め立てられてしまう。ところがある日、フォルクスワーゲンの社員がT-ROCカブリオレの広報車を持ってやってきた。酷い見た目の車だった。
それでも、久々の広報車だったので運転してみることにした。1km以上運転しても制限速度に達することはなかった。確かに登り坂ではあったし、ギアは6速になっていたのだが、いずれにしてもこの車は断固として加速することを拒絶したので、私は回れ右して家に戻り、再び農作業をすることにした。

T-ROC カブリオレ
それから少しして電気自動車のポルシェ・タイカンがやってきた。ターボというグレードだったのだが、意味が分からない。電気自動車なのだから当然ターボなど存在しない。この車には2基のモーターが搭載されており、前のモーターは1段ギアを介して前輪を駆動し、後ろのモーターは2段ギアを介して後輪を駆動する。
前後モーターの間には大量のリチウムイオンバッテリーが搭載されており、それを原動力としてこの複雑な機械が動作する。おかげでタイカンの車重は中規模なバンガローと同程度ある。
にもかかわらず、タイカンは速い。私がこれまで運転した中で、初めて「速すぎる」と感じた車はフェラーリ F12ベルリネッタだった。タイカンにも同様の感想を抱いた。最高出力はわずか625PS(フェラーリより100馬力ほど劣る)なのだが、この性能が一気に発揮されるため、かなり怖い。
きっと多くのオーナーは納車直後、笑顔で同乗者に「行くぞ、見てろ」と言ってアクセルを踏み込み、そのまま廃車にしてしまうことだろう。
意外なことに、私は数日間のうちで1回も追い越しを行わなかった。反対車線に出て右に林、左にトラックと挟まれた状態で尻にマスタードを突っ込まれた馬のごとく暴れまわる車を運転などしたくはない。
他にも問題がある。多くの電気自動車はアクセルを離した際にエネルギーが回収され、バッテリーの充電が行われるため、あたかもブレーキを掛けたかのような挙動をする。ところがタイカンの場合、アクセルを離してもそのまま走り続ける。しかも空力性能に優れているため、空気抵抗によって減速することもない。

タイカン
ブレーキペダルを踏むことで回生が行われるのだが、この制動力がまた強力だ。ここで疑問が生じる。果たして、これほど高性能でこれほど複雑な電気自動車が必要なのだろうか。昔、まだ私の子供たちが小さかった頃、庭で運転できる黄色い電動ジープを持っていた。タイヤはプラスチック製で一輪駆動で、スピードが出ないのでブレーキすら装備されていなかった。
本当にタイカンのような電気自動車が求められているのだろうか。超複雑で超高価な恐ろしいほど速い電気自動車など必要なのだろうか。タイカンを買えば税金は控除されるし、助成金まで出る。広報活動も盛んに行われている。にもかかわらず、ヒットする兆しはまるで見えない。事実、昨年イギリスで販売された自動車のうちバッテリーで駆動する車は2%にも満たなかった。
しかし、この統計も信じがたい。私の同僚であるジェームズ・メイとリチャード・ハモンドはいずれもテスラを所有している。U2の元マネジャー、ポール・マクギネスもテスラに乗っている。私の周りには電気自動車に乗っている人があまりにも多いので、二酸化炭素排出量の均衡を取るために私はV8のレンジローバーで移動するべきだろうし、V8のベントレー・フライングスパーを今すぐにでも購入する必要があるだろう。
そしてこれが今回の主題に繋がる。イースト・サセックスの小さな会社が作ったジャガー Eタイプベースのイーグル・ライトウェイトGTという車だ。イーグルはEタイプの改造で有名な会社で、ときにとんでもない車を作り出す。例えば、スピードスターは人類史上最も美しい物体だ。そして再び、イーグルはとんでもない車を作り上げた。
まずはっきりさせてしまうが、価格は100万ポンド近い。基本設計が約60年前の車であることを考慮すればあまりにも高価だ。しかし、考えようによってはまったく古くなどない。
じっくり眺めてみると、サイドシルは低く、ライトは明るく、ドアはフレームレスで、窓はベース車である1963年式のEタイプ ライトウェイト以上に美しい曲面を描いている。
エンジンは予想通り直列6気筒なのだが、アルミニウムが使われたイーグル製の4.7Lユニットで、大型バルブと3個のウェーバー製キャブレターが搭載されている。おかげで最高出力は385PSとなっている。この数字はタイカンほどの恐ろしさはなく、適度なように思える。
この車には余分な重りなどない。ライトウェイトGTはほとんどの部品がマグネシウム製で、それ以外はチタンもしくはアルミニウムでできている。おかげで乾燥重量は私より軽く、1,017kgとなっている。
こういう特性から本格レーシングカーのような車を想像するのだが、GTという名前の通りこれはグランドツアラーであり、レザーとエアコンが奢られた長距離クルーザーだ。現代の基準で考えても十分に穏やかな車だ。

内装は芸術作品のように美しい。乗り込むときには心が揺れ、車から出るのが嫌になってしまう。ずっとこの内装を堪能し続けたいと思ってしまう。
そして走りも堪能し続けたくなる。ツインチョークキャブレターは扱いづらく、始動は難しのだが、始動さえさせてしまえば問題なく適度なパフォーマンスを発揮してくれる。グリップも、そして音も丁度良い。最高だ。
リチャード・ハモンドいわく、自動車評論家は電気自動車の時代に向け、車が発する音に対する価値観を変えていったほうがいいそうだ。彼がそう思うなら勝手にすればいいと思う。ポルシェは工夫してタイカンの音を調律したようだが、いずれにしても牛乳配達車と大差ない。どれも似たような音だ。
それゆえ、私は電気自動車を購入するつもりはない。電気自動車に乗れば航続距離や環境性能などについて延々と語り続けることはできるが、炭素に満ちた直列6気筒エンジンが生み出す快感は決して得ることができない。その爆発音を聞くと頭に電撃が走る。テスラやタイカンで同じ体験をするためにはバッテリーの端子を直接舐めるしかない。
結局、この話は単純な結論に落ち着く。私はイーグル・ライトウェイトGTが欲しい。夜眠れなくなるほど欲している。しかし、ポルシェ・タイカンターボはいらない。
The Clarkson Review: Eagle Lightweight GT
auto2014
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