Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、キア・エクシードの試乗レポートです。


Xceed

コロラド州ボルダーにはNIST-F2という原子泉方式のセシウム原子時計がある。この時計はテレビ放送や軍事用ナビゲーションシステムに用いられており、原子とマイクロ波を相互作用させる謎の魔法を使うことで究極的な精度を実現している。どれだけ正確かというと、3億年で1秒のずれも生じないそうだ。

しかし、この原子時計も私と比べたらいい加減だ。私は目と耳の付いた原子時計だ。私が6時ちょうどに行くと言ったら必ず6時ちょうどに目的地に到着する。1分のずれも生じない。私は渋滞のせいで遅刻したことなどない。なぜなら、私は常に交通状況を推測し、その予測に従って出発時刻を調整するからだ。

私がこんなことをできるようになったのは、時間厳守が重要なテレビ業界に身を置いているからでもある。実際、ここ30年間でテレビ撮影に遅刻したクルーなど見たことがない。ひょっとしたら不慮の死に見舞われる人もいるかもしれないが、翌朝に撮影の予定があれば生き返ってでも現場にやって来る。

もし私が自分ではどうしようもない事由(自分の彼女)によって遅刻してしまいそうになったら、震えが止まらなくなってしまう。パニック発作だ。私は滝のように汗を流しながら彼女に急ぐよう懇願するのだが、彼女は20分くらいなら遅れても問題ないと言う。しかし私には理解できない。20分遅れで構わないなら、最初から20分遅い時間を伝えるはずだ。口論しているうちに遅刻の恐怖から気絶してしまいそうになる。

先日も似たようなことがあった。ある人から午後1時のランチに招かれたのだが、彼女いわくその人の家は10分で行ける場所にあるそうだ。なので私は1時10分前には準備万端で車に乗っていたのだが、彼女はまだ風呂に入っていた。私はクラクションを鳴らして急かそうか、それとも家から裸のまま連れて行こうか迷っていた。遅刻さえしなければ服なんかどうでもいい。

彼女が車に乗り込んだのはなんと1時5分過ぎで、その頃になると私は恐怖のあまり過呼吸になっていた。そして彼女はナビに郵便番号を入力したのだが、ナビの表示を見て動脈が破裂しそうになった。なんと目的地は56km先で、到着まで56分かかるらしい。つまり1時間以上の遅刻だ。

私はその時点で自殺したくなった。私の辞書に「1時間の遅刻」などという概念は存在しない。なので私はかなり飛ばして目的地に向かおうとしたのだが、その際に乗っていた車が1.4Lのキア・エクシードだったので、そもそも飛ばすことができなかった。

rear

一見すると、エクシードはファミリー向けのコンパクトクロスオーバーハッチバックとして完璧そうに思える。インテリアには鮮やかな差し色が入っているので、ランボルギーニかと思うほどに洒落ている。

メーターはレクサス LFAのようなデジタル表示で、スポーツモードにすると表示が一変する。それ以外にステアリングヒーターなどの贅沢装備も充実しており、ベントレーにでも乗っているかのような高級感を味わうことができる。

見た目も良いし、かといって実用性が犠牲になっているわけでもない。ちゃんと5人乗ることができるし、荷室も広大だ。もしショールームで展示車だけ見て、あるいはディーラーの周りを少しだけ試乗して決めようとしたら、フォルクスワーゲン T-ROCと迷っていたことなど完全に忘れてすぐ契約書にサインしてしまうだろう。なにせ、T-ROCの装備はエクシードと比べるともはや洞窟レベルだ。

しかし、私はディーラーの周りをちょっと走ったわけではない。私は生死を賭け、オックスフォードシャーをマイナス7分で駆け抜けなければならなかった。そんなパニック状態だと、この車の欠点が見えてきた。そのひとつが1.4Lのターボエンジンだ。

スペック的には素晴らしいエンジンのように思える。マーケティング部門からしたら経済性や環境性能の高さを売りにできる。けれど、これほど大きくて重い車に最高出力140PSのエンジンは、特に1時間遅刻している状況においてはまったくもって不十分だ。それどころか、特に飛ばしていない時でもそれほど燃費が良いわけではない。

にもかかわらず、この車にはトルクステアがある。トルクステアとは、前輪に滑らかに駆動力が伝わらず、ドライバーの意思に反してステアリングが勝手に動いてしまう現象のことだ。FF車でこんな酷いトルクステアを感じたのは10年ぶりだ。

それだけでなく、昔ながらのアクスルトランプまで起こり、タイヤから振動が発生する。トラクションコントロールは付いているはずなのだが、アンダーステアはかなり酷い。まるで1980年代の車に乗っているようだった。

interior

トランスミッションにも問題がある。同業者は「非常に滑らか」と評価していたのだが、それは事実だ。しかし、その滑らかな変速が完了するまでにはおよそ4時間かかる。ラウンドアバウトの入口でアクセルを床まで踏み込んでも、ラウンドアバウトを抜けるまで変速は完了しない。

追い越しも試してみたのだが、地質レベルの変速時間を要するトランスミッションとコンクリートミキサー以下の性能のエンジンの組み合わせではプジョー1台すら追い越せず、諦めてブレーキを掛けるほかなかった。

2Lなら、いやせめて1.6Lならまともに走ることもできただろう。しかし残念ながら1.4Lでは何も追い越すことはできない。KIA(Killed in action=戦死)するほかない。

続いてブレーキの話をしよう。エクシードにはブレーキが付いている。しかし、あくまで付いているだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。

それでも危険を冒してナビの到着予定時刻よりも16分早く目的地に着いたので、それほど酷い車というわけではないのだろう。ただいずれにしろ、本来の約束より45分以上遅刻してしまったのは事実で、おかげでランチを楽しむ余裕も食欲もなくなっていた。あったのは自殺願望だけだ。

私はキアを運転して帰りたいとは思わなかった。エクシードは単なる車として考えれば十分に優秀なのだろうが、生死を賭けた状況ではまるで役に立たない。スピーカーに例えてみよう。エクシードはBGM用に使うなら何の問題もないのだが、パーティーの主役として大音量で使ったら音割れで使い物にならない。

もちろん、私のように飛ばすことなど一切ない人もいるだろう。そういう人ならキアでも十分だ。けれど私は、どんなものであれ、万が一のときに最大限に性能を発揮できるものを買いたいと考えている。キアはその条件を満たせなかった。

上述した通り、フォルクスワーゲン T-ROCのほうがよっぽど貧乏臭い車だ。キアにあるような贅沢な装備もお洒落なダッシュボードもない。けれど、T-ROCのベースとなっているのは本物の車なので、エクシードとは違い、生死を賭けた仕事も難なくこなしてくれることだろう。