Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
丘の上に建設中の私の新しい家は、最高の石造りの家になる予定だ。ジョージアン様式も取り入れ、美しい屋根と大きな窓のある広々とした家になるはずだ。家の中で私が飛び跳ねても天井に頭をぶつけることはないし、家からの眺めもさぞ素晴らしいだろう。
建設中の姿を眺めるのは楽しいのだが、そのせいで同時に問題も生じている。表面はスタイリッシュな蜂蜜色のブロックで覆われているのだが、美しい装飾の内側にあるのが無骨なコンクリートブロックと鉄骨であるということも知ってしまった。
もちろん、こういう構造を採用することによってコストを下げているのだろうし(その割に値段は涙が出るほど高いのだが…)、おかげで広大な室内空間が確保できているのだろう。それに、鉄は信頼性の高い素材だ。もろいセメントとは違う。実際、セメント製の戦車など存在しない。
それでも、家の外観と中身がまったくの別物だという事実は変わらない。廊下にヴィクトリア朝時代の面影などない。私は子供の頃、古い家で暮らしていた。私の新しい家は見た目だけは懐かしさがあるのだが、中身はまるで違っている。
自分の考え方と向き合うため、ポルシェ・マカン ターボを1週間借りてみることにした。マカンはすべてのモデルがターボエンジンを搭載しているのだが、今回借りたのはターボの「ターボ」だ。マカンターボにはグレタ・トゥーンベリを喜ばせるターボが搭載されているわけではない。マカンターボにはターボが2基あり、環境のためではなく車を速くするために搭載されている。
2基のターボチャージャーは2.9L V6エンジンのVの内側に搭載されている。ターボチャージャーは小さくて機敏なため、素早く過給を行うことができる。きっとトゥーンベリ氏は激怒することだろう。
スペック上、この車はかなり速いのだが、現実世界ではさほど速くない。走りは普通の「ターボ」でないターボと大して変わらない。有能な4WDシステムのおかげなのか、優秀なステアリングのおかげなのか、頭の良い運転支援装備のおかげなのか分からないが、この車は数字が示すほどの怖さを感じない。

この車の性能は”完璧”と言ってもいい。同乗者はきっと速いと感じるだろうし、音も適度に迫力があるのだが、運転していても生と死の狭間で悪魔と格闘しているという感覚はまったくない。この車はただ速いだけの、良いブレーキが装備された車でしかない。
内装も良い。SUVとしては珍しく、着座位置はかなり低いし、10分ほどかけて動きの超遅い電動調整ステアリングを適切な位置に設定すればドライビングポジションも完璧だ。シフトレバーも最近の車としては珍しく非常にシンプルで、ただDに入れて発進するだけでいい。左手で魔法陣を描かなくても走り出すことができる。BMWはこの方式を見習うべきだ。
センターコンソール部分には全長6kmほどにわたって大量のボタンが並んでおり、新しいボタンが追加されていることに気付いた。それが何のボタンか確認するために老眼鏡を使って見てみると、意味不明なマークが描かれていた。それは見たこともないマークで、顔にビリヤードボールのようなものをぶつけられている人が描かれていた。
こんな目には遭いたくないので、YouTubeで車の機能を説明してくれている人の動画を見てみることにした。YouTubeではあらゆるものの使い方を誰かが説明してくれている。こういった説明動画の投稿者の名前はほとんどがジェームズ・メイだ。そしてこのボタンは、車内に入ってくる空気をイオン化するためのものらしい。
ここで疑問が生じる。イオン化された空気を吸うのが良いことなら(おそらくそうなのだろうが)、どうしてそのシステムをオフにできるボタンが存在するのだろうか。イオン化された空気の代わりに子供に排気ガスを吸わせたい気分になる人が存在するのだろうか。
そしてもちろん、車をやかましくするボタンも付いている。私はそんなボタンなど無視した。他に車の乗り心地を悪化させるボタンも付いていたのだが、こちらも無視した。その代わり暖房のボタンはいろいろいじってみたのだが、あまり使えないことが分かった。この車は「暖かい」という概念を知らない。この車には「暑い」と「寒い」しかない。

他にも問題がある。マカンには新種のUSBポートしか用意されていないため、新しいUSBケーブルを購入しなければならない。それに、この車の衝突防止装置を設計したのはおそらく私の母親だろう。5km先で花びらが舞っているのを検知しただけでブレーキをかけてしまう。あまりに苛立たしいので、設計者を牢屋送りにしたいとすら思った。
とはいえ、マカンの本物の「ターボ」は気に入ったし、運転も楽しめた。それに、出掛ける前にその姿を眺めるのも楽しかった。マカンはスタイリッシュだ。エンジンには少し物足りない部分もあるし、リアシートや荷室の狭さも気になるのだが、総合的に考えれば非常に優秀な車だ。
ただ、ひとつだけ大きな問題がある。この車はポルシェではない。この車の基本設計は昔のアウディ Q5と共通だ。1世代前ではない。2世代前のQ5だ。つまり、この車はハンバー・スーパースナイプに対抗するために設計されている。
ヘルムート・コールの時代に設計された車なのだから、開発コストなどとっくにペイできており、価格は相当安くできるはずだ。そう考えると、スーパーの店頭で売れそうな価格にしてもまだ利益は得られるだろう。
ところが実際は違う。試乗車の価格は86,000ポンドで、馬鹿みたいに装備を追加すれば10万ポンドを超えてしまう。
こんな考え方をしてしまうのは私のヨークシャー気質のせいなのかもしれないが、それにしたっていくらなんでも高すぎる。別に古代のアウディを最新のポルシェだと偽って売ることに異論があるわけではない。なにせ走りに問題がないのだから。ジョージアン様式の家を喜んでいる私にとって、設計の古さなど問題にならない。けれど、あまりに非現実的な価格設定にはどうしても納得できない。
auto2014
が
しました