Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、ボルボ XC90 T8 プラグインハイブリッドの試乗レポートです。


XC90

スウェーデン人といえば、分厚いジャンパーを着て日がな一日湖畔に座り、いとも簡単に事件を解決してしまうことで知られている。彼らの家は木でできており、稼いだ金はすべて政府に献上している。

しかしこれは偏見だ。イギリス人がいつも傘を持ち歩いているわけではないし、イタリア人がいつも人の妻を寝取っているわけでもないのと同じだ。もちろん、中には事件を解決することで生計を立てているスウェーデン人もいるだろうが、そんなのはごく一部にすぎない。

私はスウェーデン北部にあるキルナという町に行ったことがあるのだが、思うにここは世界最悪の町だ。近くには鉄鉱山があるため、灰色の雪が積もっており、町には巨体の労働者しかいない。彼らはパブに入り浸り、いつも喧嘩相手を探している。相手を殴って椅子を窓から放り投げたらそのまま家に帰り、その日稼いだ金をすべて政府に献上する。ABBAのイメージとは真逆の場所だ。

その場所はグレタ・トゥーンベリのイメージとも乖離している。彼女の印象はスウェーデンが誇る大企業IKEAともまるで違うし、私の知る限り世界で最も厳かで神秘的な場所、ヨーテボリ群島とIKEAのイメージもまったく違う。ヨーテボリの島で霧と静寂に包まれて過ごせば、私でも難事件が解決できそうだ。

スウェーデンのイメージは画一的なのだが、実際のスウェーデンにはたくさんのものが存在する。もちろん、スウェーデンにはボルボもある。1970年代後半、私の父は何を思ったかボルボ 265を購入した。265は直線を信仰する人間がお絵かきボードでデザインした車だ。

当時まだ若者だった私は、実用性全振りのステーションワゴンなど嫌って当然だったのだが、P1800ESという偶像のおかげで私が父のボルボを嫌うことはなかった。それに、ドラマ『セイント 天国野郎』ではロジャー・ムーアがボルボに乗っていた。

当時、ボルボといえばカッコよさの象徴だった。しかも、1990年代に入るとボルボはステーションワゴンでイギリスツーリングカー選手権に出場するという暴挙に出た。

rear

BTCCに出場した青と白のボルボは私の父が乗っていた箱の記憶を吹き飛ばすように突き進んでいった。もちろん、BTCCへの出場はマーケティングのための手段でしかない。けれど、それには十分な効果があった。誰もがボルボを愛するようになった。

それから20年後、ボルボは安全と実用性の象徴となった。今や巨大中国企業の北欧部門となったボルボは、世界で最もスタイリッシュな4WD車を作っている。象役もウサギ役もこなしたジョン・ハート以上に変幻自在の企業だ。

私はボルボのラインアップが好きだ。見事なほど時代に即している。なので、ボルボがXC90ツインエンジン(ハイブリッド)の改良モデルを発売したと聞いて、運転するのを楽しみにしていた。

今回の改良はそれほど大きなものではない。一生使うことのない充電ケーブルが入ったバッグが追加されたくらいだ。もちろん、外面では誰もがグレタのふりをしているのだが、内心ではいちいち長い時間をかけて車を充電しようなどとは思わない。そもそも私はこのバッグ自体が気に入らなかった。

3年前、XC90ツインエンジンに試乗したときには好印象を抱いたので、今回も気に入るだろうと思っていた。ところがそうはならなかった。確かに車自体はほとんど変わっていないのだが、私自身が変わってしまった。3年前、私はハイブリッドカーに多少の興味があったのだが、今の私はハイブリッドカーを嫌っている。

今更具体的な数字を書くつもりはないが、ハイブリッドカーは決してカタログ燃費を実現することがない。すぐにバッテリーから充電がなくなり、その後はバッテリーがただのおもりになってしまう。オットセイの虐待のほうがまだ環境に優しいだろう。

XC90ツインエンジンは大して環境に優しくないだけでなく、他にも問題点が存在する。ダイヤモンドカットで装飾されたスターターボタンを押しても何も起こらない。困惑しつつも性玩具の形をしたシフトレバーをDに入れて発進しようとする。ところが、車は動き出さない。ドライブに入れるためにはシフトレバーを2回手前に引かなければならない。理由は不明だ。

interior

ぬかるんだ路面だと、優秀なガソリンエンジンによって駆動する前輪はしっかりと地面を掴んでくれるのだが、モーターによって駆動する後輪は莫大なトルクに対応できず空転してしまう。おかげで庭に穴ができてしまう。

目的地に到着して、車から降りようとするのだが、本当にしっかりシャットダウンできているのだろうか。ひょっとして電気はまだ起動しているのではないだろうか。あるいは、アイドリングストップが作動しているだけでブレーキペダルから足を離した瞬間に走り出してしまうのではないだろうか。音のしない車に乗っているとどうしても不安になってしまう。

ワイパーも気に入らない。どうやってもマニュアル操作はできず、勝手に動いてしまう。それに、ヘッドアップディスプレイはどう足掻いたところで位置調整をすることはできない。しかも、駐車中には木にぶつかりそうだと判断して勝手に急ブレーキをかけるものだから、庭の穴がまた増えてしまう。

誤解しないでほしいのだが、XC90は非常に優秀な車だ。見た目だって良い。実用性も高いし、これ以上の7シーターなど存在しないだろう。ある程度のオフロードなら走行できるし、室内の居心地も素晴らしい。そしてなにより、安全性が高い。驚くほどに安全だ。実際、2002年にイギリスで初代XC90が発売されてから、XC90が絡む事故で死んだ人間は1人もいない。

私は過去に4台のXC90を乗り継いできたし、再び子供とその友達を乗せる必要が出てきたらまたXC90を買うつもりだ。ただし、私が買うのはエンジンが2つ載っている仕様ではない。エンジンが1つのほうがよっぽど環境に優しいし、よりスウェーデンらしい。なにせ、そちらのほうが政府に納める上納金の額が増えるのだから。


The Clarkson review: Volvo XC90