米国「The Truth About Cars」によるフォルクスワーゲン・パサートW8の試乗レポートを日本語で紹介します。

※内容は2003年当時のものです。


Passat W8

金を浪費したいなら良い方法がある。大衆セダンをフル装備で購入すればいい。ナビ、耐熱ガラス、パーキングセンサー、バイキセノンヘッドランプ、17インチアルミホイール、スポーツサスペンション、ティプトロニック、そして最大排気量のエンジン。これだけ装備したところで、いずれ下取りに出すときには最廉価グレードと大差ない値段になってしまうだろう。

しかし、高級セダンと比べると割安なのかもしれない。その好例がフォルクスワーゲン・パサート W8 4MOTIONだ。43,070ポンドという価格は6気筒のBMW 530iとほとんど変わらないのだが、装備内容(8気筒エンジンも含む)はパサートのほうが明らかに充実している。つまり、同じドイツ車ならフォルクスワーゲンのほうがコストパフォーマンスが良いということだろうか。

必ずしもそれが正しいとは限らない。ブランドイメージの問題もある。フォルクスワーゲンも高品質でブランド力は高いのだが、パサートという車名にはどうしても野暮ったさが付きまとう。いくら羊の皮を被った狼といっても、パサートほど超無個性な外観では車好きには見向きもされないだろう。

死ぬほど退屈な標準のパサートと差別化するため、W8には4本出しのテールパイプや14スポークアルミホイール、そして前後の「W8」バッジが装備されている。しかし違いはそれしかない。ホイールアーチが膨らんでいるわけでもないし、フロントグリルがメッシュになっているわけでもない。

ひょっとしたらフォルクスワーゲンのデザイナーは派手すぎるRS6の失敗を見て反対のことをしたのかもしれない。試乗車には「コロラドレッド」というパール塗装がされていたのだが、どうあれイギリス中を走っている平凡なパサートとまったく見分けがつかなかった。

interior

幸い、インテリアはエクステリアほど地味ではない。フォルクスワーゲン車(フェートンは別格だが)としては内装の質感は非常に高く、特に上述したファブリック内装のBMWと比べれば明らかに上質だ。

しかし、パサートそのままの内装にソフトなレザーや光り輝く木目パネルが奢られているのはどこか違和感がある。変な話だが、もっと普通の素材を使っていたほうが良かったかもしれない。計器類の青いバックライトはゴルフには合うのだが、レザー内装のパサートには調和していなかった。

エンジンこそパサートW8の最大の特徴だ。イギリス中にいるパサートオーナーは、この車を見ると「あれはV8のパサートじゃないか!」と思うことだろう。

しかし、厳密にはそれも間違っている。W8のエンジンは2個のV4が同じクランクシャフトを共有している。この構造のおかげで世界最小レベルの8気筒エンジンとなったうえに、名前的にもVWにはぴったりそうなエンジンだ(”V”が合わさって”W”になる)。

しかし残念ながら肝心のエンジン自体には個性がない。本物のV8エンジンとは違い、轟くような音を発するわけではない。もちろん、技術オタクはW8エンジンに興味を持つだろうが、それ以外の人にとっては4.0Lの割に性能が低いと感じるかもしれない。

rear

その理由は重さにある。パサートW8の車重は1,902kgもある。イギリスで人気のパサート 1.9 TDIと比べると337kgも重く、8気筒のBMW 540iと比べても217kgも重い。しかし、回転数が4,000rpmを超えるとエンジンはかなり力強くなる。それでもV8エンジンほど万能なわけでもない。

重さの理由のひとつが4MOTIONシステムだ。個人的に4WD車はそれほど好きではないのだが、雪が降った際には考えを改めさせられた。乾燥路面でのパサートのシャシ性能、サスペンション性能は…そもそもそんなものを評価する意味があるのだろうか。ロータス・エリーゼの信頼性くらい必要とされていない情報のような気もする。それでも、少なくとも想像していたよりコーナリング性能が高かったとだけ書き留めておこう。

それ以上に問題なのは、飛ばすと平均燃費が5km/L程度になってしまうという点だ。場合によってはそれを下回ることもある。これはもはやスーパーカークラスだ。パサートなのに。

そういうわけで、パサートW8 4MOTIONの存在意義はまったく理解できなかった。パサートは合理的なエンジンが似合う合理性の塊のような車だ。実際、消費者の99%は合理性を理由にパサートを選択しているはずだ。高性能車を作るにしても、ベース車にパサートという車を選んだこと自体が間違いだったのかもしれない。


Volkswagon Passat W8 Review