米国「ROAD&TRACK」によるメルセデス・ベンツ CLK-GTRの試乗レポートを日本語で紹介します。


CLK GTR

FIA GTのレギュレーションの根底にあるのは、自動車は公道を走るために設計されるべきで、レーシングカーも基本仕様はロードカーと共通であるべきであるという考え方だ。しかし実際のところ、GT1(1999年に終了)車両はレーシングカーとして設計され、そこから市販車が派生するという形をとるのが普通だった。

メルセデス・ベンツの場合、レーシング仕様車、市販仕様車ともにメルセデスのモータースポーツ部門であるAMGが設計している。メルセデスはGT1クラスに2種類の仕様を投入している。V12仕様(CLK-GTR)とその後継車であるV8仕様(CLK-LM)はいずれもFIA GT選手権で優勝を収めている。

CLK-GTRのロードモデルはバランスを重視した結果、初期のV12モデルがベースとなっている。V8エンジンは180度のクランクシャフトを採用しているため、排気効率は高いのだが、バランスが悪く、それによる粗さがロードカーには不適切であると考えられた。

ロードモデルの場合、V12エンジンは最高出力621PS/6,800rpm、最大トルク78.5kgf·m/5,250rpmを発揮する。エアコンやツインエアバッグ、オーディオ、レザー内装など贅沢装備が付いているうえに、広範囲にわたる遮音材の追加もされているため、車重は1,544kgとそれなりに重い。

しかしながら、パワーウェイトレシオは2.49kg/PSと十分余裕があるし、0-100km/h加速は3.8秒、0-200km/h加速は9.9秒を記録する。最高速度は322km/hで、空気抵抗の低減よりもスタビリティ確保のためのダウンフォースを優先したことを考えればかなり優秀だ。

rear

全幅は1,951mmと広いのだが、ドライバーが可能な限り車の重心に近い位置に座るような配置となっているため、車内は比較的閉塞感がある。しかも、全高はわずか1,163mmなので、乗り降りはかなりしづらい。ステアリングを取り外すこともできるのだが、それでも足をシートに乗せないと乗降できない。

基本的にオーナー専用に設計されるため、シート位置を調節することはできない。一旦シートに収まってしまえば運転席からの視界は良好だ。ただし、後方視界はドアミラーからの情報以外存在しない。もっとも、日常的な移動にCLK-GTRを使う人間などほとんど存在しないだろう。

変速操作はステアリングに付いているパドルにより行うのだが、変速はクラッチペダルを踏み込んだ状態でないとできない。しっかり変速するためにはクラッチ操作とパドル操作をうまくシンクロさせる必要があるのだが、それがなかなか難しく、繊細な操作が必要となる。

この車はロードモデルなのだが、やはり楽しむためにはサーキットに行く必要がある。今回はホッケンハイムで運転したのだが、高性能なエンジンを搭載しているにもかかわらず、予想以上に扱いやすくて驚いた。55km/hコーナーから6速で抜けた際には1,300rpm付近から滑らかに、そして勢いよく加速していった。

ギアさえ間違えなければ驚くほどの応答性を見せてくれる。その日コースの一部は湿っていたのだが、それが走りの妨げになることはほとんどなかった。ただし、圧倒的なパフォーマンスを持っているので、たとえドライ路面であってもいつもオーバーステアと隣り合わせだ。

interior

CLK-GTRについてよく知らない人はきっとうるさい車だと感じるだろう。エンジンの吸気系から聞こえるメカ音と排気音、さらに変速時のノイズが混じり合う。けれど、レーシングカーとしては比較的静かで、例えばポルシェ GT1のロードモデルよりは静かだ。それもきっと遮音材の恩恵だろう。

ただし、街中で運転するならポルシェのほうが快適だろう。シンクロメッシュ機構付きのトランスミッションや直感的に操作できるクラッチのおかげで扱いやすい。低回転域でトルクが過剰でないのも街中での扱いやすさに繋がっている。

25台のCLK-GTR(価格はいずれもレギュレーションにより100万ドルと決まっている)はきっとほとんどがコレクターの手に渡り、公道を走る機会などほとんどないだろう。けれど、この車の機械としての魅力は疑いようがない。サスペンションの設計は非常に緻密だし、ボディの工作精度も驚くほど高い。CLK-GTRは本物の芸術作品だ。