Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのリチャード・ハモンドが英「Top Gear」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、フォード・エスコートRS コスワースの試乗レポートです。


Escort Cosworth

四輪独立懸架、前後駆動力配分34:66の4WDという特徴は現代の水準でも十分に魅力的だ。まして1992年にそれを実現していたエスコート コスワースがいかにとんでもない車だったかは想像に難くない。今回乗った特別仕様車「モンテカルロ」にはWRC風のホイールまで装着されている。

しかしホイールなど些細な違いだ。まず目につくのはウイングだ。エスコート コスワースを語る上でウイングの存在を無視するのは、ポールダンサーを見てまず眉毛を褒めるようなものだ。エスコート コスワースのウイングは…非常に巨大だ。

後期モデルはターボチャージャーが小型化され、最高出力は230PSから220PSに低下したものの、走りは後期型のほうが優れていると言われている。しかしそんなことより、ウイングを見てほしい。

空力的に最適化されたウイングは1本の柱によって支えられている。今でもコスワースのウイングには威厳を感じる。エスコート コスワースは1996年に製造を終了してしまったのだが、感傷に浸るのではなく、このウイングに敬意を払うことにしよう。

rear

エスコート コスワースが誕生するよりも前の1989年頃、僕は北部の地方ラジオ局で働きはじめた。まだ初々しかった僕は仕事の要請があると颯爽とエスコート(コスワースではない)で駅まで向かった。このエスコートこそ、ハモンド一族にとって初めての新車だった。ボディにはラジオ局の名前が書かれていたのだが。

僕は新車の新しいダッシュボード、新しいシート、新しいオーディオに興奮しっぱなしだったのだが、残念なことにその車は僕の上司がコンクリートの柱にぶつけてしまった。その上司の名前は伏せておこう。これでBBCラジオ・ヨークのアラン・グリーブソンの名誉は守られた。

コスワースはルームミラーを見ただけで某ラジオ局員がぶつけた買物仕様とはまったく違うことが分かる。ミラーに映るのは巨大なウイングだけだ。室内は古い車なので外観以上にボロく感じた。CDプレイヤーも装備されていたのだが、それとは別にカセットプレイヤーも装備されていた。

プラスチック製ダッシュボードの角は鋭く、ロープを切断するのにも使えそうだ。モンテカルロ用のシートには車内で嘔吐しても誤魔化せそうな模様が描かれている。

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この車は目立ちたくない人には合わないし、また貧乏人には買うことすらできない。価格は25,000ポンドもする。そして保険料もかなり高い。この車は95歳未満の車好きすべての憧れであり、それゆえに価値は上がり続け、窃盗犯にも狙われ、またさらに価値が上がっていく。

2.0Lエンジンを始動させると正統派のエンジン音が鳴り響く。ミラーを確認して(もちろん見えるのはウイングだけだ)、さあ出発だ。エスコート コスワースは現代の水準でも決して遅くはない。0-100km/h加速は6秒を記録し、最高速度は225km/hだ。

サーキットで走らせると、後ろ寄りの駆動力配分の4WDシステムのおかげでコーナーリングのバランスが非常に高く、やろうと思えば下品なテールスライドをしてウイングを振り回すこともできる。このエスコート コスワースは決して完璧な車ではないのだが、それでも自動車の歴史において伝説的な価値のある車だ。


Hammond’s icons: Escort Cosworth