Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、フォード・プーマの試乗レポートです。


Puma

新型コロナウイルスが生焼けのコウモリから人間に感染して問題となると、中国の大部分が閉鎖された。その結果、自動車販売にも影響が出た。それもかなり大きな影響だ。2020年2月前半の自動車販売台数は前年比92%減となった。

私はこれを知ってかなり驚いた。なにせ、中国の歴史上でも類を見ない感染症流行状態において、中国国内に死体の山が築かれ、街が不気味に静まり返る中でも、31万人もの人間が新車を購入したというのだから。

イギリスも同じような状況になっている。3月の自動車販売台数は44%減の254,000台だった。つまり、多くはないが一部の人は、今この状況下において「新車を買うなら今だな」と思ったということだ。

もちろん、2月頃はまだ状況が違っていた。私も新車が欲しいと思っており、ベントレーのレザー見本を見ながらオプションについて考えていた。その頃はとても楽しかった。

けれど、今はもっと他に考えなければならないことがある。ひょっとして、死んでしまうのではないだろうか。私はこれまで75万本は煙草を吸ってきたし、肺炎に罹ったこともある。それにこの記事が世に出る頃には私は60歳になっているので、もしウイルスに罹って病院に行ったとしても、呼吸器など付けてもらえずそのままゴミ箱行きになってしまう。

もし今ウイルスに感染しなかったとしても、いずれは罹ってしまうかもしれないし、その頃にはさらに年をとっているので、命を落とす危険性はなおのこと高い。そんなことを考えていると、もはやフライングスパーのことを考える余裕などなくなってしまった。

私が考えていることは他にもある。事態が収束したあと、どれだけの人が仕事に就けるのだろうか。そもそもどうやって生きていけばいいのだろうか。いずれ暴動が頻発し、社会構造が破壊されるのではないだろうか。

個人的なことだが、貯蓄が尽きたあと、私はどうやって生きていけばいいのだろうか。持っているマンションを売り払ったとしても、今の経済状況では二束三文にしかならないだろう。いずれ、ネギ1本のためにマンションを引き渡すような時代が来るかもしれない。唯一励みになるのは、苦しんでいるのが私だけではないということだ。誰もが一文無しの無職になりかねない。

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厳密には全員ではない。ロックダウン(いまだにロックダウンが何なのか理解できていないのだが)により、人間に本当に必要なものは3つしかないということが明らかになった。食品、エネルギー、そしてWi-Fiだ。つまり、この3業種で働く人は失業する恐れはない。ということで、今回の試乗記事はイギリスの八百屋、電力会社従業員、そしてチャールズ・ダンストーンに向けたものになる。

フォードがプーマを復活させると聞いたとき、私はかなり嬉しかった。1990年代に登場したプーマは元気て楽しい車だった。ところが、フォードはプーマという名前だけを復活させて、車自体はまったく別のものになってしまった。

けれど、終末の世界には金持ちなど存在しないし、死にかけた人間はスタイリッシュでスポーティーな車など求めていない。必要とされるのはあくまで道具としての車であり、プーマはまさにその要件を満たしている。

フォードは曲面的なデザインと大きな口によって道具っぽさを消そうとしているのだが、まったく功を奏していない。そんなのはジェームズ・メイに最新のトレーニングシューズを履かせるようなものだ。どうあれジェームズ・メイに変わりはない。結局、見た目はそんなに良くはない。

しかし、内装は違う。後ろには巨大な荷室があり、フロアを取り外せばさらに容積が増大する。排水栓があり洗うこともできるので、汚れた犬を車内で洗うことだってできる。

リアシートは子供3人なら十分乗れるのだが、USBポートもエアコン吹出口もないので、不満が出るかもしれない。ただ、子供が閉塞感によって吐いてしまっても、シートカバーを外して丸洗いすることができる。凄いじゃないか。どうやら実際に車を使っている人間が設計したようだ。

しかも嬉しいことに、その設計者は運転も好きなようだ。他のコンパクトSUVとは違い、プーマは速く走らせると笑顔になれる。コンパクトカーの中でも最高の走りのフィエスタがベースなだけある。

1Lエンジンはわずか3気筒なので、回しても音はそんなに威勢よくはない。ただ、大型のターボチャージャーが搭載されており、タービンの回転が上がるまでのラグを埋めるため、ハイブリッドシステムも搭載されている。そのおかげで、今回試乗したSTライン Xというモデルは優れた燃費性能と155PSという驚くべき性能を両立している。

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しかも、これだけ複雑な構造でありながら、車重はかなり抑えられており、おかげで走りも素晴らしい。フィエスタよりも背が高くて巨大なので、フィエスタほど楽しいわけではないのだが、SUVとしては非常に活発で楽しい。まして終末のイギリスの舗装などまともではないだろうから、車高の高さはむしろ利点になるだろう。

車線維持システムのスイッチも良い場所にある。他の車の場合、何を思ったのか右足の上あたりにあったりするのだが、フォードはウインカーレバーの先端にスイッチがあるので簡単にオフにすることができる。私はこの操作をシートベルトを締めるよりも優先している。運転支援装備に運転操作を妨害されるのが嫌すぎて、涙が出てくることさえある。ましてプーマはステアリングが優秀なので、なおのこと介入されたくない。

インフォテインメントシステムも優秀だ。表示は年寄りには少し小さいのだが、近い将来には年寄りなど皆死んでしまうので関係ないだろう。特にメーターの表示を完全に変えられる点が気に入った。これがあれば数時間は飽きないだろう。

どうやら、フォードの開発者は消費者が車に求めているものをちゃんと理解しているようだ。消費者が求めているのは、スピード、燃費、安全性、コストパフォーマンス等々だ。魅力的な照明や適切な場所に配置されたスイッチ類、脱着可能なシートカバーも重要となる。犬を車内で洗える点も嬉しい。

見た目以外で唯一、プーマで気に入らなかった点がある。着座位置だ。他の多くのフォード車にも言えることなのだが、6歳児向けに設計された椅子に座っているような気分になる。

ただ、こういった問題点を除いて、プーマは非常に現実的で実用的な車だ。そう表現すると白物家電のような車と捉えられてしまうかもしれないが、そうではない。プーマには面白さもある。もし私が電力会社の従業員で、原発までの通勤手段を選ぶとしたら、プーマが理想的だろう。