Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2013年に書かれたメルセデス・ベンツ SLS AMG ブラックシリーズの試乗レポートです。


SLS Black

現在、自動車の税額は排出される二酸化炭素の量によって決まっている。これはウィリアム3世の時代に生まれた窓税にも負けず劣らず馬鹿げた税金だ。脇毛の数に応じて課税したほうがまだましだ。

こういった税金の登場のせいで自動車は劣化してしまった。燃費性能向上のため、まともな”フィール”が存在する油圧パワステに代わって電動パワステが採用されている。滑らかなトルコンATに代わり、より効率的なDCTが採用されている。こうすることで二酸化炭素の排出量が削減されている。

ひょっとしたら、世界からV8が消える日も近いのかもしれない。私はV8エンジンが好きだ。V8は本質的にアンバランスなので、荒々しい轟音を響かせる。しかし、今の技術をもってすれば6気筒でも十分なパフォーマンスを生み出せるのに、あえて8気筒のエンジンを作り続ける理由がどこにあるのだろうか。

今、ターボエンジンが増加している。今の過給器付きエンジンは非常に優秀で、ラグもほとんどなくなっているのだが、それでもやはり自然吸気エンジンよりスロットルレスポンスが悪いのは事実だ。本物の料理そっくりに作られたインスタント食品のようなものだ。

状況はさらに悪化しようとしている。頭のおかしな役人たちは毎年二酸化炭素の排出基準を厳しくし、燃費の良い車の開発が余儀なくされている。その結果、ハイブリッドカーが増加し、いずれは純粋な電気自動車ばかりになるだろう。

私は別に電気自動車が嫌いなわけではないのだが、現時点ではかなり不便だし、排気ガスが車から出るのか発電所から出るのかという違いしかない。電気自動車が普通になった将来、我々は静粛の中で賑やかな排気音を懐かしみ、航続距離を気にする必要のなかった時代を惜しむことだろう。

だからこそ私はこう考えている。環境主義者も車好きも幸せにできる課税方法があるのではないだろうか。その方法とは、車重に応じた課税だ。

アメリカ南部でピックアップトラックを乗り回している銃マニアは例外だが、重さはありとあらゆる人間の敵だ。にもかかわらず、自動車の重量は年々増加している。その原因は我々にある。我々は室内空間の増加を望み、贅沢装備を望み、安全性能の向上を望んだ。その結果、自動車はどんどんと太っている。

rear

自動車メーカーが排気量1Lあたり130馬力を生み出すことのできるエンジンを開発すれば(メルセデスは既に開発している)、安全で広くて装備内容の充実した軽い車を作ることもできるはずだ。

重い車を動かすためにはその分だけ余計な燃料が必要になる。その結果、二酸化炭素排出量は増加し、敬愛すべきホッキョクグマに悪影響を与えてしまう。だからこそ、重さに税を課せばいい。車重が軽くなれば車のパフォーマンス(加速性能だけでなくコーナリング性能も)が向上するので、車好きも喜ぶだろう。重い車より軽い車のほうが運転は楽しい。

アルファ ロメオ 4Cという車は一見するとしょぼい車に思えるかもしれない。価格は45,000ポンドもするのに、わずか1,742ccの4気筒エンジンが搭載されている。ホワイトカラーの価格にもかかわらず、ブルーカラーの性能しかない。しかし、車重はわずか895kg(一般的な乗用車の約半分)なので、大排気量エンジンなど不要だ。

最高出力はハッチバックと同等の240PSなのだが、パワーウェイトレシオは268PS/tだ。これは本物のスーパーカーにも引けを取らない。しかも、燃費は14km/Lなので、トヨタ・プリウスの実燃費と同等だ。もし私が役人なら、4Cを免税対象にするだろう。

これだけ軽い車を作るために、アルファ ロメオはかなりの努力を重ねた。配線すらも可能な限り細く設計されている。シャシはカーボンファイバー製モノコックで、重さはパン1斤と同じくらいだ。きっと素晴らしい車だろう。乗るまでもなく分かる。

そしてこれから、今まで延々と述べてきた話とは矛盾する車の話をしよう。その車とは、メルセデス・ベンツ SLS AMG ブラックシリーズだ。ブラックシリーズは標準のSLSより軽量化されているのだが、標準のSLSよりも劣化している。

簡単に言うと、AMGとは普通のメルセデスの狂気仕様で、ブラックシリーズは普通のAMGの狂気仕様だ。私はCLKのブラックシリーズに乗っている。この車は狂っている。

狂っていると言っても、あくまで良い意味でだ。CLKブラックシリーズは物理法則が許す限りサーキットを速く走るために作られた車ではない。ポルシェやフェラーリとは違う。普通のCLK AMGよりは軽いしエンジン性能も強化されているのだが、その変更はあくまでドライバーの笑顔を増やすためのものだ。この車は人を喜ばせるために生まれてきた。

Interior

標準のSLS AMGも同じだ。プロペラシャフトはカーボンファイバー製でわずか4kgだし、エンジンはラテン語を理解できるほど頭が良い。けれど、コーナーを速く抜けようとするとテールが滑り、第二次世界大戦期の駆逐艦よりも多くの煙が発生する。きっとドライバーは幼子のように笑っているだろう。

ところが、SLSのブラックシリーズではユーモアが失われ、超合理的な車に変化している。妙な話だ。どういうわけかフェラーリのような電子制御式ディファレンシャルによって後輪が制御される。トランスミッションはフェラーリ F12ベルリネッタとまったく同一のものが採用されている。

6.2L V8エンジンは標準のAMGより最高出力は向上しているのだが、最大トルクは低下している。その結果、アクセルを踏み込んだときに生じる天変地異は抑制されている。そして、あらゆる部品がカーボンファイバー製となり、さらなる軽量化を果たしている。

ブラックシリーズは標準のAMGより優秀であるべきだ。実際、サーキットではブラックシリーズのほうが優秀だ。標準のSLSより圧倒的に速い。しかし、サーキットを走りたいなら、サーキット用に改造された玩具などではなく、最初からサーキット向けに開発されたスポーツカーを選ぶべきではないだろうか。例えば、911 GT3なら価格も圧倒的に安い。

SLS AMG ブラックシリーズにはさまざまな快適装備が付いており、乗り心地も悪くないので、一般道での走りは標準のSLS AMGとさほど変わらない。しかし、ブラックシリーズには派手なスポイラーやフラップが装備されている。まるでターミネーターのふりをするケネス・ウィリアムズだ。

私は標準のSLSが好きだ。形も好きだし、音も好きだし、狂気的なマッスルカーのようなハンドリングも好きだ。SLSについて想像するだけで幸せになれる。

けれど、ブラックシリーズは違う。この車はスポーツカーのふりをしている。本気のスポーツカーが欲しいなら、羽毛のように軽い4Cを選ぶべきだろう。きっと4Cもドライバーを幸せにしてくれる車のはずだ。