カナダ「Driving」による初代サーブ 9-3のレビューを日本語で紹介します。


9-3

父さん、母さん。タトゥー入れてもいいかな。
息子からこんなことを言われたら、親はきっと背筋を凍らせることだろう。しかし、今やジェニファー・アニストンもプロゴルファーのリー・トレビノもタトゥーを入れており、タトゥーも次第に普通のことになってきている。

しかし、タトゥーすらも市民権を得ている今、世界に反抗するためには何をすればいいのだろうか。

これまで初代サーブ 9-3の購入を検討したことのある人はいるだろうか。右に倣うことこそが正義のDセグメント高級車の中で、9-3だけは異彩を放っている。

他と違う人間になりたいなら、9-3を選ぶべきだ。9-3のイグニッションは運転席と助手席の間、センターコンソール部分に配置されている。理由など分からない。

コックピットデザインや切り立ったフロントウインドウは航空機にインスパイアされたもので、サーブの航空機の歴史に対するリスペクトだ。車内にはナイトパネルボタンというものがあり、これを押すとスピードメーター以外のすべての照明が消える。しかしこれは何のための装備なのだろうか。空襲だろうか。

エンジンは競合車に搭載される普通の排気量のV6エンジンとは違い、サーブには小排気量の4気筒ターボエンジンが搭載される。しかも、ボディスタイルはDセグメントでは他に例のないハッチバックだ。まさに逸脱者だとは思わないだろうか。

サーブ 900からサーブ 9-3に車名を変更する際には、1,000以上のパーツが変更されたそうだ。いずれも基本となるのはゼネラルモーターズのヨーロッパ部門が開発したミドルクラス車用プラットフォームだ。9-3には3ドアハッチバック、5ドアハッチバック、コンバーチブルの3種類のボディスタイルが設定される。

先代モデルとなるサーブ 900には4気筒エンジンと6気筒エンジンが設定されていたのだが、9-3は4気筒ターボエンジンのみの設定となっている。具体的に言うと、9-3には2.0Lの4気筒ガソリンターボエンジンが搭載され、5速MTもしくは4速ATは組み合わせられる。

後に9-3には高性能仕様の3ドアハッチバック「ビゲン」が追加された。当然ながらBMW M3やメルセデス・ベンツ C43を視野に入れたモデルなのだが、サーブは大排気量エンジンを搭載するFRの競合車とはまったく別のアプローチを取っている。

rear

ビゲンに搭載される2.3L 4気筒ターボエンジンは最高出力233PS、最大トルク35.7kgf·mを発揮し、車重も1,375kgと軽かったため、ビゲンは非常に速く、また絶大なトルクステアと絶大なターボラグを発生させる化け物のような車だった。滑らかに走らせるのは至難の業だ。

こういった尖った性格とは対照的に、サーブの安全装備に関する取り組みは非常に進んでいた。ABSやフロントサイドエアバッグ、フロントアクティブヘッドレスト(鞭打ちの発生を抑制するヘッドレスト)はすべて、1999年以降は全車標準装備となっている。

室内空間に関しては、ドイツ製の競合車が比較的狭かった一方で、9-3は居住空間も荷室もかなり広く確保されている。

2000年モデル以降、GM製のOnStarナビゲーションシステムが装備され、その年から5ドアハッチバックとコンバーチブルにもビゲンが設定されている。また、2.0Lエンジンの高出力仕様は最高出力が203PSから208PSに向上している。

2001年にはトラクションコントロールとOnStarが標準装備となり、コンバーチブルのベースグレードが廃止された。そして最終年となる2002年には最高出力188PSの標準仕様2.0Lエンジンが廃止されている。

初代9-3は保守的な競合車が揃っているDセグメントの中では一味違う、なかなか味わい深い車だ。しかも、その異常さゆえに中古価格はかなり下がっている。例えば、2000年式の9-3 SE 5ドアハッチバックは状態が同じくらいのBMW 328iより60%も安く購入することができる。

もし世界に反抗したいなら、初代9-3を検討するべきだ。しかし、世間に迎合したいなら、もっと他の車を選ぶべきだろう。あるいはタトゥーを入れてもいい。