Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、メルセデス・ベンツ G350d AMG Lineの試乗レポートです。


G350d

驚くべきことに、メルセデスは少しずつ改良を加えながらゲレンデヴァーゲンの製造を続けてきた。Gクラスは改良を受け続け、かつては装備されていなかったステアリングなどの最新技術も搭載されるようになった。

エコが支配を強めるこの世界において、こんな車を作り続ける理由などどこにあるのだろうか。そのうえ、Gクラスに設定される唯一のエンジンは地殻変動すら起こせるほどに強力なツインターボV8だった。こんなエンジンなど、神が世界を生み出すときくらいしか使い道はないだろう。

Gクラスほど今の時流にそぐわないものはないだろう。現代の世界においてゲレンデヴァーゲンを乗り回すのは、マンキニを着てウィンブルドンのロイヤルボックスに座るようなものだ。

けれど、メルセデスがこんな車を作り続けている理由を私は知っている。世界には超巨大で超派手なオフロードカーを求める顧客がたくさんいる。そういった人たちはかつてハンヴィーを購入しており、その前はボンネットに鷲が描かれたジープ・ラングラーを乗り回していた。

個人的にV8のメルセデスAMG G63は面白くて魅力的な車だと思うし、実際レビュー記事でもそのように書いている。けれど、その最大の存在理由である強烈なエンジンを失い、悲惨なディーゼルエンジンを搭載した車など、よもや魅力的なはずがない。

ゲレンデヴァーゲンを購入する理由はその強烈性にあるのだから、誰もディーゼルなど求めていない。ひょっとして、地球環境のことを考えているとでも主張したいのだろうか。まさか。老人を殺す燃料で動く2.5トンの戦車で地球など守れるはずがない。亀絞殺選手権で人を感動させようとするより無理がある。

リヴァイアサンにディーゼルエンジンを搭載する意味などどこにもないはずなのだが、メルセデスはそれを実行した。しかも、搭載されるのはEクラスやSクラスとも共通の6気筒3Lエンジンだ。しかも、どういうわけかGクラスではデチューンされており、パフォーマンスが低下している。

もちろん、理論的にはデチューンされたエンジンのほうが余裕があるので燃費は良いはずだ。にもかかわらず、G350dの燃費はわずか9.2km/Lで、AMGのV8モンスターと大差ない。

rear

そして最大の問題が価格だ。G350dの価格は、なんと96,000ポンドを超える。遅くて燃費が悪く、5人しか乗れない醜いドイツの軍用トラックが96,000ポンドもする。

さすがにどんな車なのか気になったので、実際に借りて乗ってみることにした。ひょっとしたら乗ってみないと分からない特別な魅力があるのかもしれない。最小回転半径がとんでもなく小さいとか。

そんなことはなかった。試乗車は前向きの状態で停められていたのだが、駐車場から出るためには3,000回ほど切り返す必要があった。ナビから「Uターンしてください」と指示されても、諦めてどこか広大な駐車場に入って方向転換するしかない。

ようやく道に出ると…なんてこった。確かに、新型Gクラスは昔のモデルと比べると格段に安定性が向上しているのだが、それでも依然としてスチーブンソンのロケット号と同じラダーフレームを採用している。おかげで乗り心地はかなり不安定だ。「滑らか」なんて表現とは対極で、常によろめいている。

加速性能は予想していたよりはましだった。ただし、この予想は4馬力程度のエンジンと大英図書館と同等の空力性能をもとに立てたものだ。決して速い車ではない。しかしむしろ遅くて良かったのかもしれない。かなり背の高い車なので、スピードを出してコーナーに進入すればそのまま横転してしまうだろう。

テールゲートは横開きなので街中ではそもそも開けることすらできない。確かに、上にヒンジを付けたら誰も手が届かなくなるので仕方がないのかもしれないが、レンジローバーのように分割して開けられるようにすべきだったのではないだろうか。

では走破性はどうだろうか。Gクラスにはデフロックなどの設定を変更するためのボタンがたくさんあるので一見すると良さそうに思える。ただ、走ろうと思っていた不整地は11週間ずっと雨が降り続けていたため、地面が水浸しだった。

濡れた路面ではデフロックもローレンジも意味をなさず、路面に適したタイヤを履かなければどこにも行けない。Gクラスにはそんなタイヤは装備されていない。それは私のレンジローバーも同様だ。そういえば私のレンジローバーはスタックして放置したまま1週間が経過してしまった。そろそろ取りに行かなければ。

interior

良い点についても書いておこう。インテリアの仕上げは素晴らしい。木目が適切に使われており、渋滞にはまったときにはディスコ照明をいじって暇潰しすることもできる。ダッシュボードの見た目は美しく、それでいて使いやすい。基本的にGクラスの完成度は96,000ポンドの車とは思えないのだが、インテリアだけは価格相応と言っていいかもしれない。

着座位置も魅力だ。私は普通に立っているとき視点が高いので、車を運転するときも視点が高くて然るべきだ。なので、Gクラスを運転していると非常に自然な感じがする。まして背の低い人など、普段は決して体験できない視点が手に入るので、さぞ気分が良いだろう。

今回は中立な視点に立とうと心掛けた。悪い点だけでなく良い点も探した。それでも、この車の存在意義は分からなかった。もちろん、レンジローバーを選ぶ理由もそんなにない。けれど、この巨大なベンツほど無意味なわけではない。それに、レンジローバーのほうがよっぽど快適だ。

メルセデスがゲレンデヴァーゲンを作り続けている点は評価している。そしてメルセデスは何か狙いがあってディーゼルを追加したのだろう。しかし何のためだろうか。ひょっとして地球のためなのだろうか。

G350dを購入しようと思う人間など存在しないだろう。ゲレンデヴァーゲンが好きな人なら圧倒的な音と圧倒的な加速を求めるだろうから、必然的にAMGを欲しがるはずだ。ゲレンデヴァーゲンが好きでない人は、当然ゲレンデヴァーゲン以外の車を欲しがるはずだ。